第11話【港町の食事】
とっても美味しゅうございました。
これちょっとヤバい……確かに町の人が勧めるの分かる気がするよ……。
わたしはシーフードパスタを頼んだんだけど、沢山の海の幸が使われてて見た目がとっても豪華。
初めて乾燥してないイカとか貝を食べたけど、身がもうぷりっぷりで、こんなに違うんだって驚いたの。
港町の人は毎日こんなもの食べてるんだって羨ましくなった。ちょっと住みたい。
「なかなか美味だ、ここの料理人は良い腕しているな」
「流石"ツギーノに寄ったら来るべき場所"と言われてるだけはありますね」
ソラもリエッタさんも、その料理に満足そうにしている。
ソラの提案を最初はうーんって思ったけど、結果的に来てよかったな。
また明日も来ようかな……って、違う違う、長く滞在する気は無いんだって、食べたらすぐ行動!
……まあ、デザートはちゃんと食べてくけどさ、えへへ。
アルプの酒場に到着した時、まずその酒場の規模に驚いた。
流石にアカデミーほど大きくはないけれど、周りの建物よりもひときわ大きくて、とっても目立ってる。
"アルプの酒場"と書かれた派手な看板には、ちょっとセクシーな女性のシルエットが描かれていて、酒場というよりもなんだろう……オトナのお店? みたいな雰囲気を感じたっけ。
……べ、別に詳しいってわけじゃないからね? ただ子供が入りにくい雰囲気だなーって感じがしただけだから!
とにかくっ! 最初は怖いなって思ったけれど、いざ入ってみるとびっくり。
家族連れの人は普通に居るし、わたしと同じくらいの女の子グループも居て、みんな楽しそうに食事をしていたの。
雰囲気の違いに戸惑っていたら、美人の店員さんが席に案内してくれた。
そしてメニューを見て料理を注文して、結果はご存じの通り。今食べてるケーキもふわふわで美味しい。
料理を待っている間キョロキョロと店の中を観察していたけれど、店員さんは美男美女ばかりだ。
店長の趣味なのかな? それともお客さんを呼び込むため? まあどっちでもいいや。
多分イチカと来てたら、ねえどの人がタイプ? みたいな話になってたかも。
この旅が終わったら、イチカと一緒に来てみたいなあ。シーフードパスタ食べさせてあげたい。
あと気になる所といったら、赤いカーテンで閉じられた舞台のようなものがあることかな?
一体何なのか気になるけれど、なんだろう……ピアノでもあるのかな?
「よし、そろそろ出るか……ハル、まだか?」
「んむう……ひょっひょまっへ」
カットされたりんごを満足そうに食べたソラは、わたしに早くしろと催促する。んもう、せっかく味わってるのにさ!
わたしはデザートのケーキを急いで詰め込んで、はいごちそうさま。ちょっとはしたないけど仕方がない。
お腹いっぱいになったわたしたちは会計を済ませて、宿へ向かうために外へ出た。
三人合わせて三千ルードとちょっと。銅ルード札三枚といくつかのルード硬貨でちょうどピッタリ。
リエッタさんが支払おうとしてたけれど、仲間祝いってことで今回はわたしの奢り。えっへん。
お父さんから貰った金ルード札はまだ使わない。まだお小遣いは残ってるし、緊急時に使おうと思う。
でもまあお小遣いもいずれは尽きるし、お金を稼ぐ方法も考えないとなあ……。
「ああ、そこの店員、これを受取れ」
「はい、なんでしょう……? これは?」
「チップだ、礼には及ばぬぞ」
「は、はあ……?」
ソラが帰り際に店員さんへ何かを渡してたけれど、その店員さんは首を傾げていた。
その様子を見てソラが少し変な顔をしていたけど……何渡したんだろう?
さて、酒場を後にしたわたしたちは宿を探した。
なんだかんだお昼過ぎ、ラルスさんに会って話をしてたらいい時間になっちゃうかも。
悔しいけどソラの判断は正解だったかな、街に来たのに野宿だなんて笑えないし。あとお風呂にも入りたい。
宿自体はすぐに見つかった。というか、"宿通り"なんて呼ばれてる通りにいっぱい宿が並んでたの。
できるだけ安い宿がいいなーなんて探そうとしてたら、ソラはなんだか高級そうな宿に直行。
すみません間違えました、だなんて言えるような雰囲気でもなく……わたしたちはその宿に泊まることになった。
「ごめんなさいリエッタさん……割り勘できるかな……」
「ハルちゃん、無理しなくていいのよ? 私出すから……」
「いや、それは申し訳ないから……」
わたしたちが会計で狼狽えてる中、ソラというやつは──。
「うむ、良い宿だな」
っっ……! 王族なら自分で支払えっつーの!
「む……ハル、なんだその顔は」
「なんでもないですよーだ……
「まったく、どうせ金が足りぬのだろう。素直に言えば良い物を」
そう言うと、ソラは一枚の硬貨を取り出して受付の人に手渡した。
「釣銭は要らぬ、取っておけ」
そして、凄く偉そうにふんぞり返るのだ。
受付の人はちょっと困った様子で、その硬貨を見ていた。
「……ソラ、何渡したの?」
「何って、"シエル白金貨"だが」
「えっ、なにそれ」
「知らんのか? ソラジマで一番価値のある硬貨だぞ? これだから田舎者は……」
…… …… ……。
「あの、お客様」
「どうした、釣りは要らぬと言っただろう」
「当店ではこのような"おもちゃのメダル"は使えません」
「……は?」
◇
「なんてことだ……まさかシエル通貨が使えぬとは……」
ソラは宿のベッドに座り、頭を抱えていた。
自信満々だったのにおもちゃ扱いにされて、さぞショックだったのだろう。
ま、それはともかく……。
「……あの、王子」
「何かわたしたちに言い忘れてない? ソラ?」
わたしは腕を組んで、リエッタさんはちょっと言いにくそうに。
二人でソラを見て、その言葉を催促する。
ソラはわたしたちの方を見ると、至極申し訳ないと言った様子で。
「……う、うむ……すまなかった、二人とも」
と頭を下げた。まったくもう。
「はあ……これに懲りたらちゃんと相談してよね」
……まあ、たまにはこんな経験もいいだろう。
高いお金を払った分、宿のサービスには期待が出来る。
というか、ソラが座っているベッドからもうすでに高級感が漂っているのだ。
きっと寝たらふかふかなんだろうな……癖になったら怖いかも。
「さて、宿も取ったしラルスさんを探しに行こっか」
「……うむ」
ソラってば、意気消沈しちゃってさ。そんなにショックだったのかな?
まあしばらくしたら落ち着くだろうし、そのままにしておこう。
わたしたちは宿を一旦出て、港へと向かうことにする。
宿を出るときに「いってらっしゃいませ」だなんて言われて、ちょっと照れ臭かった。
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