第7話【騎士リエッタ】

「はふっ! はむっ! むぐぐっ!」


 数十分後……わたしたちは木陰で休んでいた。

 わたしの目線の先には、先ほど助けてくれた人が渡したパンを頬張っている。


 白い髪に銀色の眼をした、とっても綺麗な大人の女性。

 頭に蝙蝠の翼が生えてるから、多分"ヴァンパイア"だと思う。

 鎧と貴族服が合体したような物を着て、変わった槍を持っている。

 という事は、何処かの騎士さんなのかな? 貴族服を着てるから、結構偉い人かも。


「んぐ、ぐっ……ふうっ!」


 ヴァンパイアのお姉さんはパンを飲み込むと、ふうと一息つく。

 そして、わたしたちにぺこりと頭を下げた。


「食べ物を分けてくれてありがとう、おかげで命拾いしたわ」

「いや、僕たちこそ助けてくれて感謝する。お前が通りかからなければどうなっていたことか」


 ソラも素直にお礼を言ってる。ちょっと珍しいなんて思ってしまうのは酷いか。

 でも本当、この騎士さんが通りかからなければ死んでいたかもしれない。


「そちらのハーピーちゃん、薬の方は効いてきた?」

「だいぶ良くなってきました、ありがとうございます!」


 騎士さんはわたしにスライム毒に効く解毒薬をくれたの。

 この調子ならもう少し休めばまた走ることが出来そう、本当に良かったぁ……。


「しかし同族かと思いきや……まさか人間だなんて」

「うむ、名をソラという。そっちのハーピーはハル。お前は?」

「ああ、私は『リエッタ』って言うの、よろしくね。それよりも君たち、どうしてこんなところに子供二人で居るの?」

「ああ、それはだな──」


 ソラはわたしに代わって今までの経緯を説明してくれた。

 空から落ちて来た事、足を怪我して動けない事、走るのが得意な私が馬として……は置いといて。

 飛べないわたしの事もちゃんと説明してくれて、全部聞いたリエッタさんは少し驚いた様子だった。


「空に浮く島……到底信じられない話だけど、でも人間が全員そこへ移住したのなら、地上に居ないのも納得できるわ」

「うむ、僕は王宮への帰還、ハルは空を飛ぶためにソラジマへと向かっているのだ」

「なるほど、二人ともとても勇気があるのね……でも、旅は危険よ? また襲われた時、二人でどうにかできる?」

「む、むう……それは確かにそうではあるが、だからと言ってソラジマへの帰還を諦めるのは嫌だ」

「……よし、それじゃあ」


 リエッタさんは何か思いついたように両手を合わせて、こちらを見て微笑みながら言った。


「私がしばらく貴方たちの旅についていくってのはどうかな?」

「えっ、でもご迷惑じゃ……」

「ふふ、私は元々流浪の騎士だもの、それに二人には食べ物を分けてくれた恩もあるから、それぐらいはさせて欲しいな」


 なんていい人なんだろう、異性だったら惚れてるかも……あ、チョロくないもん。

 でも、戦える人が一緒に来てくれるなんてとっても頼もしいな。

 わたしはありがたくその申し出を受ける事にした。


「ふむ、ありがたい。では騎士リエッタよ、この僕に仕える事を許す」

「うん、しばらくよろしくね? ソラ王子」

「むぅ、僕的には敬語が好ましいぞ」

「ふふ、分かりました。では──」


 そう言うとリエッタさんはソラの前に跪いて。


「騎士リエッタ、この身に代えても王子をお守り致します」

「……うむっ!」


 と、うやうやしく頭を下げた。

 ソラはとても満足そうに腕を組んでいる……もう、偉そうにして。


「リエッタさん、わたしには敬語を使わなくて大丈夫ですよ」

「ふふ、じゃあハルちゃんもタメ口で良いからね、女の子同士仲良くしましょ?」

「えっと、じゃあ、そういう事なら……しばらくよろしくね、リエッタさん!」


 わたしは少し照れながらも、リエッタさんを歓迎した。

 なんだかお姉ちゃんが出来た気分だ、ちょっと嬉しい。


 そうこう話していると、わたしの足も回復してきた。

 これならジョギングくらいのペースで走る事が出来そう。


「ソラ、そろそろ出発できそう」

「そうか、ハル。無理するなよ」


 なんだかんだソラも気にかけてくれる。えへへ、良い奴じゃん。

 わたしは上機嫌になりながら立ち上がり、足を延ばして準備体操。


「時にリエッタよ、僕はハルに乗って行くが、お前はどうする? ハルのペースについてこられるのか?」

「王子、それなら心配は無用です」


 そう言うとリエッタさんはすっくと立ちあがる。

 長身で非常に女性的な身体は、立ち上がるとより美しく見えた……ちょっと羨ましい。


「……ふ、ふむ」


 ソラをちらりと見ると、リエッタさんが立ち上がる時にたゆんと揺れた"ある部分"を直視しないよう目を逸らしていた。

 ……なによ、スケベソラ。


 さておき、リエッタさんは目を瞑り、精神を集中させているように見える。

 一体、何が始まるのかと思えば──。


「わっ!?」


 数秒後、ぼふんっと現れた白煙と共にリエッタさんの姿は消えた。

 そして、白煙の中から一匹の小さな白い蝙蝠が現れたのだ。

 蝙蝠はわたしの方へと飛んできて肩に止まり、なんとリエッタさんの声で話し始めたのである。


「ヴァンパイアは蝙蝠に変身できるのです、この姿で肩に止まらせて頂ければ大丈夫でしょう」

「な、なるほど……すごいねヴァンパイアって」


 蝙蝠リエッタさんを見て、わたしも鳥に変身できたら飛べないかなーなんて考えてしまった。

 まあ、そんなことできるハーピーなんて聞いたこともないし、ヴァンパイア特有の技なんだろう。いいなぁ。


「ふむ、便利なものだ」


 ソラは平常心を装いつつリエッタさんの方を見ていた。

 ……さっきまですごく意識してたくせに、エッチ。


 さてはともかく、わたしたちは新たにリエッタさんという仲間を連れて、ツギーノへと向かう。

 思いっきり走ったら飛ばされちゃうかなって思ったけど、リエッタさんはしっかりしがみ付いている。よかった。

 リエッタさんは騎士だって言うし、きっと心強い味方になってくれるはずだ。

 わたしは旅を始めて早々、新たな仲間が出来た事に喜びを感じつつ、目的地へと向かって走り続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る