第6話 『勇者紋剥奪者』
適当に歩きつつ日記の黙読をしてみた。
とは言っても知らない文字で書かれた日記だ、当然ながら現状では読めない。
……普通はな?
でも俺は違う!
ってか実際に大学入学までの期間で24ヶ国語をマスター出来る、しかもその国で書かれた本以外に何もない状況で完全に理解できた訳だからな。
まあ、多国語を学び始めたのは高校2年生からの短期間だ。
そして今回の日記だが、少し違うけど今までの文字と照合してみたら数分で理解できてしまった。
その後から日記の細部にも注意しつつ全体文を読んで得た情報は……
『今俺が居る世界の名前は不明だが大陸の名前はケラーケン、国名はカムルって言うらしい事。
この世界には大陸と称されるような島は五ヵ所しか存在せず小さな島は無限に有るが一時的な滞在は別として年単位の滞在が不可能な場所ばかりで戦争の地として使われる場合が多いらしい事。
その要因として言われるのは殆どの島に拡散されてる毒性の高いガスらしい事。
人が長い目で見て住める場所は巨大な大陸五ヶ所だけで其々の大陸には一種類ずつ別々の種族が生活しているらしい事。
ここ、ケラーケン大陸に住むのが人間で他にもビーストヒューム大陸には獣人、ディーモル大陸には魔人、スプュユット大陸には精霊、そして最後にレジェッド大陸には天界族が其々で生息している事。
その全てで等しく魔獣が生成され国に良かれ悪かれ干渉している事。
魔獣が出現する地点はダンジョンと呼ばれ第六種族の存在が疑われる、とかって事。
他にも戦争の事とか食料事情の観点とか、まるで何も知らない異邦人に教えるような文章が延々と綴られていた』
これを踏まえて言えることだが、この本は日記じゃない。
俺みたいな境遇の奴がメモとして書いた物だと思う。
「誰が書いたんだ?」
一通り読み終えて本を閉じると呟きつつ鞄に入れようと動いた、次の瞬間……
「書いたのは私だよ勇者印剥奪者」
左手で抱えていた子供が俺に話しかけてきた。
いや、まあ驚いたさ。
寝ていると思ってたのも有るけど子供も言葉とは思えない声だったからだ。
だってさ?
確かに声は甲高いと言うか赤子のような声音だった、んだけど何処と無く重圧を感じるような低さを感じたのだ。
「今喋ったんだよな?」
考えて分かる話でもないし本人に聞く、と……
「ああ、驚いたか? 私はシュバルツ・キルミューレだ。 いや、正確に言うと現世での名前だが」
「転生者ってヤツか? 始めてみたぞ」
「ふむ、その通りだ! 私は今から3000年と少し前に勇者印剥奪者として召喚された、当時の名前で言うと神辺(かんなべ) 千鶴(ちずる)だ!」
「そうか、アンタも同じなのか」
「その通りだ! それで? 君の名前を教えてくれるかな?」
「ああ、俺は西城 晴輝だ。適当にハルとでも呼んでくれ」
俺が名乗ると転生者は少し嬉しそうな顔で俺の目を覗き込むと……
「私はチルチルかチーズで頼むぞ!」
「なんだそれ? そんな呼び名で良いのか?」
「ああ、生前呼ばれたあだ名だからね! さて、どちらかな?」
「じゃあチズと呼ぶよ」
「伸ばし棒がないけど、まあ良いだろう! それではハル!」
「なんだチズ?」
「これから職業とゆう物に関して説明してやろう!」
そう言って不適に笑ったチズは何故か自慢気に職業に関する説明を始めた。
「まず前提として職業とは人間に限らず他種族も含め理性を持つ生物が誰しも産まれたときに授かると言われている物だ。職業を得るとその職業に冠するスキルが1つ所持者に譲渡される。つまり職業一つ一つに複数のスキルが含まれていて、所持者は内の1つを得るわけだ。例えば職業は農家でスキルが畑開拓、みたいにな」
「ふむ、そこまでは分かった」
「そうかそうか! 理解が良くて助かるよ! それじゃ次に行くけど今は違うが嘗ての私を含め勇者召喚の前座で召喚された異邦人に渡されるスキルだが、これは全て同じものなのだ。それが勇者印剥奪者、そのスキルは全て統一化されている。それが固有空間、その効果は現実世界とは別に自分だけの空間を1つ得るとゆう物だ。空間の大きさはレベルの上昇と共に拡張され、出入り口の接続は自由って物だよ。うん、強いと思うかい?」
「いや、その前にレベルの上昇に関して教えてくれよ」
「ああそうだった、レベルは魔獣を討伐すると上昇するよ。レベルにMAXとかは無いから好きなだけレベルが上げれる」
「ふ~ん、まあ便利なんじゃないのか?」
物の輸送とかにも使えそうだし。
そしたら手ぶらで動けるし楽そうだ!
「便利だと、思うか。いや、不便極まりないんだよ……」
「そうなのか? 何で?」
「まずは異空間に入ってるものの重量が体重に加算されるんだよ。更に出したい物を出す時には其が有る場所から手の位置まで物を動かす必要があるんだ。しかも内部の状況は完全に把握できるけど動かすことに集中してしまえば戦闘中に早期使うとかは不可能、少なくとも初心者はね。さらに異空間と現実世界のゲート間に物があるとゲートは閉じれない、つまりはゲートに相手の腕を入れて閉じると切断される、とかは無いんだ。さて、ここまで聞いてどう思った?」
「う~ん、まあ強いとは言えなさそうだな」
「そうなんだよ! そして一番の弱点が奴隷狩りの対象にされる事だ。他にも輸送できるような職業は有るけど異空間に物を入れて一気に運べるようなスキルは本当に少数なんだ。それに比較して私たちの数は極めて多い、世界に勇者が必要になる頻度は7年に1度なんだ、5種族其々で勇者を召喚する訳だからな。前座で勇者一人に20人としたら100人が召喚されるんだよ。輸送手段として手軽な上に戦闘力は何の補正も無いんだ、そりゃぁ的にもなるさ……」
つまりは異空間内部の重量が体重に加算されて中から物を出すときは願えば出るとかじゃなく自分で動かさなきゃダメ。
これは触れて動かすわけは無さそうだよな。
ゲートから物を中途半端に出した状態では閉めれないからゲートに何かが触れているとオープンした状態のままな訳だ。
果ては軍事運用が前提で奴隷にされるのか。
しかも多分だが中身はパンパンだろう。
内部の重量によっては其だけで死人が出そうだ。
まあ、常人ならって仮定は必須だけど。
俺の脳機能なら大丈夫そうだよな~
この欠点。
まあ、体験しなきゃ分からないんだが……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます