第7話「冬姉の実力」

俺は冬姉がどれくらいの実力か知らなかった。

ポンポンと軽いラリーをして遊ぼうと思ったくらいだった。

だが、その考えは彼女のサーブを見た途端、露に消えた。

コーナーギリギリに攻めて、しかもスピードも速い。フェンスにバンと当たる音がした。

葵はその場から動けなかった。

「次も行っちゃうよー!」

偶然かと思ったが違った。二球目も同じ場所にサーブをした。葵は距離をとって構えていたので、バックハンドで返したがふわりと球が浮いた。それを見逃さなかった冬姉がすかさず、甘い球をスマッシュで打ち返した。バシッと地面に弾く音がした。

その後も冬姉は勢いに乗り1セットを取った。

「悔しい」

葵は集中するほど無口になるのだが、今は感情があらわになっていた。

葵はバックハンドが苦手だ。そのことに気づいた冬姉は容赦なく葵のサーブも苦手なコースを狙ってきた。冬姉はバックハンドを狙ってきたかと思えば、ネットギリギリのドロップショットを打ち緩急を付けた。翻弄される葵は体力を消耗してるのか2セット目も取られた。

「冬姉、待った」

俺は葵のコートに入った。

「俺と葵のダブルスで勝負しようぜ」

「大地は春咲さんの味方につくのね、嫉妬しちゃうな」

「冬姉が上手すぎるんだよ」

「大地は冬子さんのことを冬姉って呼ぶんだ。やけに親しい呼び方だね」

「葵も親しい呼び方が良いか?葵さん」

「大地さん、やめて恥ずかしいから」

「そうだな、カップルみたいな感じだな」

「……いるでしょ」

葵はぼそりと小声だったので聞き取れなかった。

「何か言ったか?」

「なんでもない」


できるだけ、冬姉がバックハンドで返すように試したものの、苦手ではなくむしろ返してきた球威が重い。こっちが甘いボールを連発して打ってしまう。高校生男子の力以上の速度だった。フォームが綺麗で冬姉は恐らく、高校生なら全国クラスに当たるだろう。

結局、ダブルスでもストレート負けだった。

「お姉ちゃんは強いでしょー!」

冬姉は息を切らしてVサインをする。

「冬姉、ガットの張り具合を見て思ったんだけど、今でも手入れされてるよね」

「時々ストレス発散で今でもテニスはやってるわよ!」

そう言った冬姉はガットを触って調整をしていた。

「大地は悔しくないの?」

葵は当惑した表情をしていた。

「悔しいけど、楽しかったぜ」

「そう……少し休憩するわ」

葵はベンチで一人休んでいた。

「春咲さんは素直でひたむきな人だわ」

「葵は負けず嫌いなところがあるんだよ。真剣になるほど無口になるよ」

タオルで汗を拭く葵に笑顔を向けたらボールを投げられた。

「試合に勝ったけど、かけひきには負けたかな」

冬姉は何故か悔しそうな顔をしていた。


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