第5話「カウントダウン初詣」
夜の23時30分
家族四人で近くの神社へカウントダウン初詣に行った。神社に入ってすぐの所に振る舞いが出されていた。
ぜんざい、お蕎麦、甘酒、どれもたらふく食べた。やはり食い気はまだあるようだった。
これだから年末はやめられない。
「おいひぃね」
冬姉はぜんざいのお餅を口に入れて熱そうにしていた。
彼女はうどん屋の仕事も慣れてきたようで、看板娘として板についてきた。今後は店の仕込みも手伝うみたいだ。
父さんも母さんも、よく働いてくれると嬉しそうにしてた。
「大地君、甘酒をどうぞ」
俺達はお焚き上げの前で体を温めていた。
気が付けばもうカウントダウンに入っていた。皆が一斉に数を数えて元旦を迎えた。
花火が何発か打ち上げられた。至る所で『明けましておめでとうございます』の声と拍手でお祝いをした。
「大地君、あけましておめでとうございます」
冬姉は深々と頭を下げて言った。
「あけましておめでとうございます」
クリスマスに冬姉が来てから、俺は楽しい。
劇的に何か変わったわけではなく、ちくりと針が刺さったような刺激があった。
年が明けたので早速、お参りをしに列に並んだ。
並んでる途中で和太鼓がドンドンと胸に響いた。
順番が来て、お賽銭を入れ、鈴を鳴らしお願い事をした。
「大地君は何をお願いしたの?」
お参りが終わったら、冬姉が尋ねてきた。
「冬姉が俺を呼び捨てにしてくれますように」
「わかった!じゃぁ、大地、私は何をお願いしたと思う?」
俺の願いはすぐに叶った。願わなくても良かったかもしれない。
「家族と仲良くいられますようにとか?」
「もちろん、それもあるわよ」
「他にもあるんだ?」
「大地のことをもっと好きになれますように」
「あまり好きになりすぎるなよ。彼女になってしまうぞ」
冬姉は時々、俺をドキッとさせる。
彼女はそういうことをおくびにも出さずに言う。
「あら、言うわね。でも大地となら私はお姉ちゃんにもなれるし、彼女にもなれるわね」
「どっちにもなりたいよ」
相変わらず、からかわれているのだろう。
冬姉は広角をあげてニヤリとしていた。
「もう、嬉しいこと言っちゃって。褒めても抱きしめることしかできないからね」
そう言った彼女は俺をぎゅっと抱きしめた。
俺も冬姉の背中をぎゅっと抱きしめ返した。
胸をなでおろすかのような安心感があった。
「はい、今年の初、抱きしめでした」
彼女は舌をペロリと出して照れた様子だった。
おみくじを引こうと手を差し伸べられた。
いつものように手を繋いで歩いた。
「大吉だよ!恋愛は願えば叶うだって!大地はどうだった?」
「吉だよ。恋愛に焦りは禁物だってさ」
「大地の性格は落ち着いてるのにね。焦ったところをまだみたことないなぁ」
俺はいつだって冬姉に翻弄されている。
手を繋いだ時もそうだし、抱きしめられた時もそうだ。
「未だに冬姉のパジャマ姿には焦るよ」
「だらしないかな?」
「色気があるんだよ!」
「あ、大地焦ってるー。パジャマ姿なんていつでも見せてあげるわよ。その代わり見飽きないでね」
見飽きるどころかこの目に焼き付けたかった。
「大地、おみくじを交換。はい!」
冬姉は俺のおみくじを素早く取ってから、彼女のおみくじを受け取った。
「これで、大地の恋愛は叶うわよ」
「ご利益あるかな?」
「大丈夫よ、大地のためにいつでも大吉を引いてみせるから!」
「他力本願ってやつかな」
「ここはお寺じゃないわ、神社よ。恋愛の神様も許してくれるでしょう」
「ここは主に学問の神様だよ」
「大地」
俺の本当の願い事はただ一つだった。
「大地にとって、今年は良い年でありますように」
冬姉とずっと一緒にいられますように。
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