第3話「看板娘」
学校は冬休みに入ってる。
することがないので、いおりへ向かった。
あまり店の手伝いをするわけではないが、冬姉のことが気になったからだ。
いおりは歩いて5分と掛からない。
「きつねうどん二つ。お姉さん、ここで働き始めたのかい?」
注文を頼んだのはこの店の常連さんだった。
「はい、今日からお世話になってます」
「べっぴんさんだねぇ」
「もう、そんなこと言うと、きつねうどん三つにサービスしちゃいますよ!」
「あはは、そんなに食べきれんわい」
冬姉はこの店の看板娘になっていた。
寒い時期になると、うどん屋は繁盛する。
昨日は雪が降っていただけあって、今日もポケットに手を入れたくなるくらい寒い。
「あら、大地君!お手伝いにきたの?」
店の入り口前で隠れて様子を見ていたのだが、冬姉に気づかれてしまった。
外にいても聞こえるほど、大きな声で冬姉が叫んだ。
バレてしまったので渋々店に入った。
「まぁ、そんなところ」
「おい、大地、お前全然店の手伝いしないじゃないか。さては冬子さんのこと気になってるんだろう」
父さんに言われたことは図星だった。
「違うってば、俺はうどんを食いにきたんだよ!」
「あれ?さっきは店の手伝いじゃなかった?」
母さんから追い打ちを食らった。
恥ずかしくて赤面してしまった。
本当のことを言うしかない。
「そうだよ、冬姉のことが気になったんだよ。手伝いするからさ」
冬姉は俺に笑顔を向けた。
俺はお昼のピーク時に向けて、寝かせていた生地を延ばしたり、ネギを切ったり、注文されたうどんを茹でたりした。
午前中の客足はそれほどではなかった。
やはり、お昼が勝負時だ、その時にはふけようと思っていた。
「大地あんた、お昼は冬子さんとどこかで食べてきなさい」
母さんからのありがたいお言葉。
しかも冬姉と一緒に食事に行けることが嬉しかった。
「でも、私はまだ仕事がありますから」
冬姉は気を遣ってくれているみたいだった。
まだ働き足りない様子だった。
そういえば、冬姉はなんで住み込みで働いてるのだろうか?
年齢もわからなければ、家族のことも知らない、学生ではないのだろう。
「忙しい時間になるけど、大丈夫よ。今日が初日だしね。どんな様子か雰囲気を掴んでくれたらいいから」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて貰います」
何人かの客の対応をしてから、冬姉は店裏に入り、また戻ってきた。
「それじゃぁ、大地君、デートに行きましょう!」
俺の顔を見るとニコリと笑った。
「やっぱり外は寒いね」
冬姉は手をこすり合わせていた。
白い吐息がもれた。
「大地君、手を繋ごっか?」
「お姉ちゃんと手を繋ぐのか……」
「寒いでしょ、ほら、手を出す」
俺は左手を差し出した。冬姉の重ねた手は暖かかった。
冬姉は俺のことを弟のように接してくれているのだろうか。
まるで本当に彼女みたいに思えた。
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