第2話「さらばコーヒー生活」

「大地君、おはよう」

朝の七時。冬姉と廊下ですれ違った。

冬姉は父さんの書斎を使って貰っている。

彼女は、パジャマ姿だった。しかもウサギさんの柄だった。大きく伸びをして、おへそがちらりと見えた。

じっと見てはいけないと思い、よそ見をしていた。

「大地君わたしのおへそみたでしょう?」

からかう様子で冬姉が近づいてきた。

これは夢ではないか。

彼女を姉として見ることが出来なく、一人の女性として見てしまう。

一人っ子の俺には刺激が強かった。

「せっかくだから、もうちょっと見せようかな」

そう言って、冬姉はパジャマの裾たくし上げようとした。

「もう、いいから!ご馳走様です」

「ご馳走様って、これから食事を作るのよ。大地君の口に合うか心配」

そう言った冬姉は不安げな素振りをしてなかった。

「俺はコーヒーさえあればなんでも良いよ」

「そんなこと言って、コーヒーだけだと胃に悪いわよ、ちょっと待っててね」

冬姉は書斎に戻り服を着替えたみたいだ。トレーナーにジーンズ姿だった。

「大地君も早く服を着替えた、ほら」

俺はいつもパジャマ姿で飯を食べていた。

調子が狂うけど、冬姉にだらしないところはこれから見せられないな。

冬姉に言われたまま、服を着替えた。

父さんと母さんは店の仕事でもういない。今は仕込みの最中だ。

「私も九時前になったら、お店の仕事に行くから」

そう言った冬姉はテキパキと料理を作っていた。

「大地君、味見して」

台所へ行くと、彼女は大根の味噌汁を作っていた。

朝ごはんは長らく食べてなかったので胸が躍るような気持ちだった。

まるで新婚のような気分。

「うまいよ」

「良かった。大地君はししゃもと白ご飯を運んでくれる?」

二人分の料理をテーブルに置いた。

冬姉はポテトサラダを運んできて『完成―』と拍手していた。

俺も一緒に手を叩いた。

「それじゃぁ、食べようか」

「いただきます」

冬姉から視線を浴びた。じっと見つめられると食べづらい。

感想を言えばいいのだろうか。並べられた食事を一通り食べた。

「うまいよ」

「よかったー!お姉ちゃんとして合格かな?」

冬姉がぱーっと明るく笑顔になった。

俺は全然料理を作れないので、冬姉は人として合格なのではないかと思えた。

「百点満点だよ」

こんな朝ごはん毎日食べられると思うと嬉しくなった。

しかも、二人きりだ。

コーヒーを飲んでテキトウに済ませて学校に行ってた頃とはもうおさらばだ。

「ありがとー!この調子で大地君の勉強も百点満点にしないとね!」

そう言って彼女はウインクをした。

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