第13話 りょうけん






 いたって了見が狭いカヨさんは、すれ違うのがやっとの狭い歩道を歩いていて、向こうからカップルが肩を並べてやって来ると、ちょっとドキドキします。

 ――まさかこのままということはないよね? 一列になるよね?

 たいていはそのとおりになってくれますが、がんとして道を譲らない場合も。

 

 今日も今日とて、縦横そろった中年のカップルが、派手なスポーツサングラスにティシャツの腹を突き出させた男はキャリーバッグを引きずり、季語にいう簡単服にサンダルの女は大きな黒い日傘をさしたまま、堂々と横に並んで歩いて来ます。


 こういう場合、カヨさんの立ち位置は決まっています。

 危険な車道側へは決して避けず、内側の安全な場所でやり過ごすこと。

 これが常態的マイノリティの(大げさか?)鉄則です。


 申し訳ないけど勝手によその家の敷地にまで踏み込んで待っているカヨさんには目もくれず、威風堂々たる体躯のカップルは平然と眼前を通り過ぎて行きました。


 何事もなかったかのようにスニーカーの歩みを再開させたカヨさんは、これから歳を重ねたら、どんな意地悪ばあさんになっているだろうと、筋トレで鍛えた足をさりげなく出している自分や、得意の廻し蹴りを食らわせたりしている自分を想像しながら、街を出て、丘へ上り、川を渡り、散歩の帰路を存分に楽しむのでした。

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