第10話 くにたち
若い友人がなぜその場所を選んだのか、カヨさんにはすぐわかりました。
初夏の木洩れ日が心地よい、とあるキャンパスの、とある休日のベンチ。
大事なことを告げるためのロケーションを、彼女がどれほど推敲したか。
繊細な気持ちが痛いほどわかり、真心がいじらしくてならないのでした。
20年ほど前の情景ですが、あのときのやわらかな日差し、手入れの行き届いた池の面に小さな波を立てるそよ風、古風な校舎、ちらほら見える人影、友人の洋服やバッグ、輝きに満ちた表情、口調、目の動きまで、つい昨日のことみたいで。
だれにも告げていない、掌中の珠のような思い出です。
ともに吉報を喜び合ったあのキャンパスと、RCサクセション忌野清志郎さんの「多摩蘭坂」がほど近いことを知ったのは、それから何年か経ってのことでした。
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