第7話 たまたま



 

 カヨさんがどうしても納得できないのは、


 ――たまたまの原則。


 人はこの世に生を享けるとき、すでに格差を持たされて産声をあげる。

 たまたま裕福に、たまたま身体が頑丈に、たまたま心が図太く(これがいいかどうかはともかくとして)、たまたま何らかの能力に長けて生まれてくる。


 人種、国籍、性別などの環境に、パズルのピースのようにパチッと当てはめられただけなのに、小さな拳の中に既得権益を握って生まれてくる輩がいる。


 運とかいうものを認めることすら癪だが、それを支配する神がいたとしたら、抜け目のない両親が賂(まいない)を渡していたのではないかと疑いたくなる。


 だが、カヨさんは憤るだけで、社会にはびこる理不尽を何ひとつ糺せない。

 だから、有象無象が闊歩するテレビ画面に向かって叫ぶのである。


 ――たまたまのくせに、マスクの紐が飛びそうなほど、でっかい顔をするんじゃない!

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