第16話 見えたもの。見るべきじゃなかったもの
昼食を食べた後、リビングのソファーに並んで座りながらテレビを見ている。
一度は莉子の部屋に行ったんだけど、ワコが寝ていたから直ぐに下に降りてきたのだ。
そして、そんな俺達のすぐ目の前にある木製の立派なテーブルの上には、俺がお土産として持ってきたお菓子が広げられていた。
莉子の家族のみんなで食べて、ってつもりで持ってきたんだけど、渡した途端に「えっ、どうしよ。バレちゃう」って小さく呟いた後、「あ〜! 私のお父さん甘いもの苦手なんですよ! だから食べちゃいましょう!」そう言って蓋を開けてしまった。
──おぉい!? バレちゃうってなんだ? 不穏な空気しか感じないんだけど!?
そんな俺の不安をよそに、莉子はお菓子を食べながらテレビに映ってる芸人のネタに笑っていた。
「あ、そうだ。おにーさん、ちょっと待ってて下さいね?」
「どうしたの?」
「ちょっと部屋に行ってくるんです。忘れないうちに書かないと。忘れるわけも無いですけど」
「何を?」
「ナイショです♪」
口元に人差し指をあてながらそう言うと、ソファーから立ち上がって廊下へと出ていく。その姿を見た後、再びテレビに視線を戻すと、そこには【すぐ出来る! 超簡単時短レシピ!】という文字と一緒に芸能人が料理を作っていて、画面の下には材料や分量が表示されていた。
「あぁ……これか。言ってくれればスマホのメモですぐ打てたのに」
そう一人で呟きながら自分が買ってきたお菓子を口に入れながらぼーっとテレビを見ていた。
「も〜うっ! すっかり忘れてたぁ〜! おにーさん、ちょっといいですか?」
その時、莉子が二階に上がって少し経ったくらいか? 彼女が二階から慌てるような声を上げてリビングに入ってきた。手には俺がこっそり畳んで元に戻しておいた服を持っていて、その隙間からは下着も少し見えている。
…………まさかバレたっ!?
俺は内心ヒヤヒヤしながらも、平静を保ったつもりで言葉を返す。
「ど、どうしたの?」
「私、ゲージのカギをちゃんと閉めてなかったみたいで、中から出てきたワコちゃんが洗って畳んだばかりの洗濯物の上でおしっこしちゃったんですよぉ〜!」
「あぁ……そっち……」
どうやらバレてないみたい。良かった…─。
「そっち? そっちって?」
「あ、いや、なんでもないよ! それで『ちょっといいですか?』 って?」
「あぁっ! そうでした! 私、今すぐコレを洗い直してくるので、部屋でワコちゃんと遊んでもらってていいですか? 起きて元気いっぱいなんです」
「おっけ。わかったよ」
「じゃ、おねがいしまぁ〜す! ひ〜ん! お気に入りのもあったのにぃ〜! 手もみ洗いしないとじゃ〜ん!」
莉子はそんな悲鳴を上げながらリビングを出ると、洗濯機があるであろう方向へスリッパをパタパタと鳴らしながら行ってしまった。
これはバレなかったのを喜ぶべきなのか? いや、それはちょっと違うか……。まぁ、とりあえず頼まれた通りにワコと遊んで待ってよう。
莉子の部屋に入ると、ワコがゲージの中で所狭しとグルグル走り回っていた。
「お前まだ仔犬なのにやたら元気だなぁ。いや、仔犬だからか? ほら、今出してやるから落ち着けって」
声をかけながら近づくと、出してもらえるのが分かったのか大人しくなって舌を出しながら俺を見てくる。……めちゃくちゃ可愛い。
そして俺がゲージを開けると同時に飛び出して俺に体当たり。その後すぐに部屋の中を縦横無尽に走り始めた。
「あ、こら! またなんかやったら怒られるぞ。ほら、おもちゃあるからこっち来いって」
そんな俺の声は届かず、ワコは近くのラックを使って莉子の机の上に飛び乗り、その上にあった本を落とした。
「あーもう。そんなところ登るなって」
拾って戻そうと近づいて見てみると、それは本ではなく手帳。いつも莉子が何かを書いていたものと同じもの。
開かれたページは来月の予定表。
一瞬目に入った病院のマーク。
そして枠外に書かれていた文字は──
【おにーさんへの『おねがい』全部使えるかな? もう時間がないよ。はやく。はやくしないと……】
音が……消えた。
カノジョの距離の詰め方がセコい あゆう @kujiayuu
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