第14話 名前決定。そして【おねがい】

「それじゃあ、名前は【ワコ】に決定で〜す!」


 壮絶な話し合いを経て、ポメラニアンの仔犬の名前が決まった。ちなみに俺が出した案は全て却下。

 莉子の「あっ! そうだっ!」で、突然出てきたこの名前が彼女の中でガッチリはまったらしく、まさに鶴の一声だった。


「ちなみに名前の由来は?」

「ワコ(和子)ちゃんのですか? ふふっ、ナイショで〜す♪ ……いつか教えますね?」

「じゃあその【いつか】を楽しみにしてようかな」

「はい。その【いつか】が来るように私も頑張りますから」


 ん? 来るように? なんだろう。何か条件でもあるのだろうか?


「じゃあ名前も決まった事だし、俺はそろそろ──」


 俺がそう言いながら立ち上がろうとすると、莉子に膝を押さえられてしまい、中途半端な位置で腰が止まった。


「おにーさん。帰っちゃうんですか? もう少しでお昼だから……ごはん、食べて行きませんか? 私、頑張って作ったんです」


 そんな事を言いながら莉子とワコが一緒に俺の事を見上げてくる。

 ワコはつぶらな瞳でじーっと見つめていて、莉子もその大きな瞳が俺を映している。そして上から見下ろす形になっている為、開いた胸元から見える僅かな谷間と薄いオレンジ色の下着。

 って、そこを見てどうする!

 俺は慌てて目を逸らして返事を返した。


「えと……じゃあ、いただこうかな?」

「はい。じゃあ準備してくるので、部屋でワコちゃん一緒に待っててくださいね? すぐですから。後……」


 莉子はワコを俺に預け、開いてた胸元を手で押さえつけながら立ち上がるとそのままドアの元に向かう。そして少し赤くなった顔で振り向くと、


「おにーさんのえっち。亜子ちゃんに言いつけちゃうから」


 そう言って部屋から出ていった。


「え、あっ! ちょっ!」


 胸元見てるのバレてた! 亜子に言うのは勘弁して欲しいんだけども……。


 キャウ!


 すると、項垂れていた俺の腕の中でワコが鳴いた。


「ん? あぁそうだな。ご飯出来るまで一緒に遊んでるか? にしても、アレは見ちゃうって。俺だって男なんだし。お前のご主人様は可愛いしスタイルも良いしなぁ。にしてもオレンジか。似合ってたな……。あ、これ内緒な。って犬に言ってもしょうがないけど」


 と、そこでまたワコがキャンキャンと鳴く。腕の中でバタバタするから下に置いて見ると、トテテッとドアの方に走って行った。


「おいおい、ついさっき行ったばかりだからご飯はまだだってば。もう少し待てって……あ」


 俺が後ろを向くとそこには、ドアを少しだけ開けてスマホのカメラをこっちの方に向けてる莉子がいた。

 なにしてんの?

 ……ていうか、今の聞かれてたのか!?


「り、莉子?」

「そ、そこまで見えてたんですかっ!? 【おねがい】を使います! すぐに記憶を消してくださ〜い!」

「そんな事に使うの!? てか、そんな簡単に記憶消せるわけないって! 莉子だってスマホ向けて何やってたんだ!?」

「そんな事ってなんですかぁー! うぅ……せめてもっと可愛いの付けてれば良かったぁ……。ちなみに私はワコちゃんと戯れるおにーさんの写真撮ってただけです!」


 そんな写真撮ってどうする!?

 そして、【そんな事】は確かに失言だった。ちゃんと言わないと。


「大丈夫だって! すごい可愛かったし似合ってたから!」

「か、かわっ!? えと……その……ご飯準備してきますっ!」


 バタンとドアを閉めると、そのドアの向こうからすごい勢いで階段を降りていく莉子の足音が聞こえた。

 あれー? 俺、言うセリフ間違えたー?


 キャンッ!


 そこでまたワコの声。視線を向けると、口には何かを咥えている。いや、何かっていうか黒いブラジャーなんだけども。

 そしてワコが来た方向に目を向けると、部屋の隅に畳んで置いてあった洗濯物は崩れ、その中に隠していたであろう下着が散乱していた。


「ワコ……お前……」


 キャンキャン!


『好きでしょ?』とでも言いたそうな目で見るなよ……。

 はぁ、これどうしよ……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る