第13話 まるで夫婦
「な〜んて。冗談ですけどね。はい、抱っこしてあげてくださいな」
ムスッとした顔から一転していつもの笑顔になると、莉子はその手に抱えていた仔犬を俺の腕に抱かせてくれた。
なんだ。冗談か……っていや、これは違う。多分まだムスッとしてるはず。亜子がいつもそうだからな。あいつも新しい服とか買って見せに来た時に適当に流したり、話を聞いてなかったりすると拗ねるからな。ここはちゃんとフォローしとかないと。
「ありがと。いや、ホントにモフモフしてて可愛いや。これはちゃんとした名前付けてあげないと。……そういえば莉子のその髪型、いつもと違う感じでいい感じだね。なんだっけ? サイドテールで良かったっけ?」
「え、ホントですか!? これ似合います? たまには違う髪型も良いかな? って思ってやってみたんですよぉ〜! ……じゃなくって、おにーさんいきなり褒めてきましたね? 亜子ちゃんの言う通りだなぁ〜。まぁいいですけど〜」
莉子はサイドテールを指でピンッと弾きながらそう言う。
やっべ。見透かされてる。てか亜子! お前何言ってんの!? なんで二人の会話で俺の話題出てんだよ! え、ちょっと待った。一体どこまで話してんだ? 後で亜子にちゃんと聞かないとだな。
「えっと……さ、早速名前決めようか?」
「じー。ムスッ。じー」
「わ、わざわざ擬音を口で言わなくても……」
なんだ? なんかいつもより子供っぽいような気がする。自分の家にいるからとか?
「……よいしょ、よいしょ。ふぅ……じゃあ決めましょうか?」
「そ、そうだね」
莉子は四つん這いで俺の隣まで来ると、フローリングの床にそのままペタンと座った。俺は用意されていたクッションの上に座っているけど、さっきまで彼女が座っていた場所には、座る人が居なくなったクッションがポツンと残っていた。
「それでどんな名前にします?」
「どうしようか? 和風? 洋風?」
「おにーさん、料理じゃないんですから……。せめて和名、洋名とかにしません? 私は出来れば洋風の方が良いですね──って洋名です洋名! もう! おにーさんのが移っちゃったじゃないですか!」
「う、うんまぁ、細かいことは気にしない方向で。あら一番大事なの聞き忘れてた! 男? 女?」
そうだそうだ。名前付けに性別は重要だもんな。
「女の子ですよ。だから可愛い名前がいいですよね」
「女の子かぁ……。ポメラニアン、女の子、小さい、可愛い名前……おっ!」
「何か思いつきました!?」
「小メラニアン!」
「却下です」
「いや、今のはさすがに冗談だよ? だからそんな感情を失った目はやめない? ね?」
びっくりした。人はあそこまで感情を無くせるとは思わなかった。真面目にかんがえよっと。
で、二人で悩みながら色々な名前を出し合っているうちに二十分程が経った。すると、莉子がボソッとこんな事を言ってくる。
「なんだか……ふ、二人の子供の名前を決めてるみたいですね……」
「へ?」
「……ちょっと言ってみたかったんですよぅ」
そう呟いてそっぽを向く莉子の顔は垂れた前髪のせいでよく見えなかったけど、耳が真っ赤になっているのだけは確認できた。
俺はなんて返したらいいのかわからず、適当な相槌を打つことしか出来ない。
いや、だってそうだろう? こういう会話ってさ、夫婦間でするものだろ?
まさか妹の友達から聞くとは夢にも思わないって。
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