第12話 お父さんはきっと知らない

 家のちょうど真ん中くらいに位置する階段を上がると、二階の廊下は二手に分かれていて、右に少し大きめの部屋が一つ、左には廊下を挟んで二部屋あった。


「私の部屋はこっちですよ~」


 そう言って俺の背中を押していた莉子が舵を切るように俺の体を右に向けた。


「おわっと。あ、こっちの部屋なんだ」

「はい。こっちの方が日当たりがいいのと、私の服が多いので、お父さんがこっち使ってもいいって言ってくれたんです。お母さんはちょっと駄々こねてましたけど」


 おぉ……その話だけで溺愛っぷりがわかるんだけど……。え、俺、莉子の部屋に入って大丈夫だよな? 莉子のお父さんは、ちゃんと紫乃さんから俺が来る事を聞いてるんだろうか? ダメだ。心配になってきた。聞こう。


「なぁ莉子? 部屋に入る前に聞きたいんだけど。お母さんは俺が来る事を知ってるんだよね? お父さんは?」

「…………あはっ! おにーさんってば何言ってるんですか? はい、早く入りましょ? 仔犬、すっごく可愛いんですから♪」


 いや! それ答えになってないから! その感じだとあれだろ? 絶対言ってないパターンじゃんか!


「あ、ちょっ!」

「はい、開けますね。 じゃ〜ん! ここか私の部屋です。昨日と今朝で頑張って掃除したんですよ? 仔犬の為のスペースも作りました!」


 開けられたドアの向こうは広く、部屋の中央には中身が見える収納付きのガラステーブル。左側にはウォークインクローゼットやタンスに机。右側の薄いピンクのカーテンが着いた小窓の下にはベッドが置いてあり、その近くにはラックがあって小物が並んでいる。正面にはベランダに出る窓があって、その近くには犬用のゲージが置いてあった。


「さ、おにーさんはこっち座ってくださいな。今ゲージから出しますから」

「あ、うん」


 俺は言われるがままにガラステーブルの横に腰を下ろした。莉子は真っ直ぐにゲージに向かうと、上から手を伸ばす。だから俺は自分の視線を窓から見える景色に変えた。

 だってほら……ね? スカートの丈的にも危なそうだったし。まぁ……白だったけど。

 ってその事はいい。今は犬の名前考えないと。


「ほら、おいでぇ~。あなたの名前つけるんだよ~。はい来たのぉ~。可愛いなぁ~♪」


 そんな声が聞こえて視線を戻すと、背中を向けているから見えないけど、何かを抱っこしている様子の莉子の姿。そして微かにクゥクゥキャウキャウと鳴き声が聞こえてくる。もうコレだけで可愛いんだけど。


「おにーさん、この子ですよ~」


 そう言って莉子が振り向いて連れてきたのは、目がクリクリとした、真っ白でモフモフなポメラニアンだった。

 これはっ──


「か、可愛いなぁ~。すごいふわふわじゃん。いや、これはほんとに可愛い。まじで可愛い。なぁ、俺もちょっと抱っこしてもいい?」


 抱っこをお願いするけど返事が無い。ポメラニアンの仔犬は莉子に抱かれたままでポヤポヤしている。

 ……あれ?


 俺が顔を上げて莉子の顔を見ると、なにやらムスッとした顔をしていた。


「莉子?」

「一度に三回も可愛いって言われた……。負けちゃった……」


 いや、何を言ってるの!?

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