第10話 指先でツン、って
あんまり俺と大輝と千紗の三人では、誰が好きとかそんな話をした事無かったけど、せっかくだし聞いてみるか。
「そういえばさ、千紗って好きな奴とかいんの?」
「…………教えない」
「そ、そうか……」
すぐに会話が終わっちゃったな。しかも一言で。もしかしてあんまり興味が無いとか? だとしたら悪いことしたな。とりあえず話題逸らしとこ。
「ねぇ」
「なんだ?」
俺が話題を逸らす前に千紗が口を開いた。手にしていたフォークを一度置いて俺の目を真っ直ぐに見ながら。
「そういうの女の子に簡単に聞くのはダメだと思う。勘違いする子がいたらどうするのよ。だから絶対聞いちゃダメ」
「勘違いって?」
「だーかーらー! 例えば、和臣が誰かに好きな人いるの? って聞いたらその子が『なんでそんな事聞くの? もしかして私の事が好きだから聞いてるの!? えーどうしよう! いないって答えたら告白されちゃうかも〜!』って思うかもしれないでしょ?」
「いや、そうはならないだろ。しかもそれ、相手も俺の事を好きなのが前提じゃんか。『え、やだぁ〜! ムリ〜!』ってなるかもしれないだろ? ……ん? それはなんか嫌だな。うん、聞くのやめるわ。てかそもそもそんなに話す女子もいないしな」
あ、どうしよう。こないだ莉子に聞いたばっかりだな。もしこんな事思われてたらどうしよう。今更だけど。
「うん、それがいいわねっ!」
千紗は満足そうに大きく頷くと、再びフォークを手にした。
「にしても……相変わらず千紗の弁当は可愛らしいな……」
「言わないで……。千紗だってもうこんな歳じゃないのにママが辞めてくれないんだもん……。未だに抱っこされるし一緒に寝ようとしてくるし……」
「あ……うん、お母さんの気持ちは分からないでもない……」
「えっ!? 和臣もだっこするつもりなの!?」
「違うわっ!」
そんな感じで昼休みは終わった。大輝が戻って来たのは予鈴がなる直前。疲れたのか、戻ってくるなり机に突っ伏していた。
とりあえず、千紗と話してすこしは気分転換にはなったな。あとでいちごオレでも買ってきてあげよかな。
◇◇◇
最後の授業が終わって荷物を鞄に入れると、俺は大輝と千紗に「じゃあな」と告げて教室を出た。昨日みたいなことにはならないように、莉子には校門のとこで待ち合わせしようって連絡をしておいた。
莉子達のクラスは一階にあるから、俺より先に着いてるはず。
この前の莉子に声をかけてきた男子のこともあるから、俺はあまり待たせないように少し早足で校門に向かうことにした。
そしてもう少しで着くってところで、校門の影から莉子がひょこっと出てきた。
「おわっと!?」
「おにーさん、帰りましょ♪」
「よく俺だってわかったね。見てたわけでもないのに」
「さっき、こっちに向かいながらくしゃみしてませんでした? それでわかったんです。あ、おにーさんた! って」
確かにしたな。今日はちょっと風が強いせいか砂埃でも入ったのかもな。
「凄いな。あ、でも俺も大輝とか千紗だったら咳払いとかでもなんとなくわかるかも? 結構特徴出るもんな」
「ですです。ちなみに、私のも……わかります?」
「わかるわかる。莉子のは足音でもわかるよ。いつも家で聞いてるからね。リビングに居ると玄関から聞こえる音で、あ、莉子ちゃん来たな。って」
「ふふ、嬉しいです。あ! また莉子ちゃんって言いましたね?」
下から俺を見上げながら少しムスッとしながらそんな事を言ってくる。けどこれはホントに怒ってるんじゃなくて、怒ってるフリだな。
「今のはほら、まだちゃん付けで呼んでた時のことだから」
「わかってますよーだ」
「だと思った。じゃ、そろそろ帰ろうか」
校門から出てくる他の生徒からの視線が集まってきて、未だに俺達が校門のところで立ち話をしていたことに気付いた。
「あ、そうですね」
俺が歩き出すと莉子はそれに合わせて隣に来る。そして、そんな彼女の歩幅に合わせて俺も少し歩くスピードを落とした。
「ところで……千紗さんって誰ですか?」
学校から少し離れたところで莉子が思い出したかのようにそんな事を聞いてくる。
「ん? 千紗は友だちだよ。クラスでは大体いつもその三人でつるんでるな」
「可愛いんですか?」
「可愛いと言えば可愛いのかも? ちっちゃいし。つい最近百四十センチになったくらいだしな」
マスコット的な?
「……おにーさんは小さい子が好きなんですか?」
「ちょっとその言い方は語弊を招くと思うんだけど!?」
「え? あ、そういう意味じゃないですよっ! えっと……背が小さい子が好きなのかな? って思って……」
「うーん、あんまり気にしたことはないかな? 自分より低い方がいいってのはあるけど」
「おにーさん。自分の身長知ってます?」
「え? なんだって?」
「あからさますぎるとぼけ方ですね……。でもいいです。安心しましたし」
「安心?」
今の会話のどこに安心ポイントが?
「はい。おにーさんがロリコンじゃなくてよかったなぁ〜って」
「そこなの!?」
「大事ですよ?」
「いや、大事だけど……大事なのはわかるんだけども……」
「気にしたら負けです」
俺は何に負けようとしてるんだ……。
「あ、家着きましたね」
話しながら歩いてると、あっという間に莉子の家の前に着いた。そこでまた朝の事を思い出す。
「それで明日なんだけど……」
ホントに二人きりでいいの? と聞こうとした所で、隣にいた莉子が俺の目の前に来て人差し指を俺の胸の辺りにピッとつけると──
「明日、待ってますね?」
そう言って家の中に入っていった。
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