第4話 莉子への視線
学校に近付くにつれ、知ってる顔もちらほら見かけ始めた。同じクラスの奴、顔だけ知ってるような奴など。それは莉子ちゃんも同じなんだけど、俺とはちょっと違う感じだった。
俺の場合は、こうして莉子ちゃんと一緒に歩いていても声をかけてくるやつはいる。軽く「おはようさん!」くらいなものだけど。
だけど莉子ちゃんの場合は、どれも遠巻きに見てくるだけでそれ以上は無い。後、やっぱり男子の視線が多いかな。隣にいるから俺も気付いてしまう。まぁ、可愛いからしょうがないのかもしれない。
実際、俺のクラスメイトの男から「北川の妹と一緒にいるあの可愛い子は誰だ!?」って聞かれた事もあるくらいだ。
なんでも、今年の新一年生で亜子と莉子ちゃんはかなり人気らしい。莉子ちゃんはわかるけど亜子も? とは思ったけど、それは妹だからなんだろうな。
大輝にも言われたし……って、もしかしてその頃から亜子と!? あの野郎……。後でちゃんと話聞かないとだな。
そしてそのまま学年で分かれている下駄箱まで行き、莉子ちゃんと別れるところで声がした。
「あ、宮野さん。おはよう」
声をかけて来たのは、髪を明るく染めた男子。胸元のバッチを見ると、莉子ちゃんと同じ一年生だった。
そんな子の挨拶に対して莉子ちゃんは小さく頷くだけで、声は出さずに俺の方に少し寄ってきた。
「莉子ちゃん?」
「……おにーさん。私もちょっとそっちに用があるので途中まで一緒に行ってもいいですか?」
「それは別にいいけど……」
「今靴を履き替えてくるので待っててください」
そう言って自分の下駄箱に向かう莉子ちゃんに返事をしつつ、声をかけてきた男子に目を向けると、頬をかきながら「あ~やっぱダメかぁ~」なんてことを呟いていた。
あぁ……なるほど。この男子生徒は彼女の事が好きなのか。それで勇気を出してみたってところかな。頑張ったとこ悪いけど、俺は莉子ちゃんの味方なんでね。
だから俺は自分の靴を替えると、すぐに一年生の下駄箱に急いだ。
「莉子ちゃん、行こうか」
「え、あ、おにーさん。こっちまで来てくれたんですか?」
「うん。ちょっと避けたい相手なんでしょ?」
「……はい。嫌いとかではないんですけど……」
亜子から聞いたことがある。理由はわからないけど、莉子ちゃんは中学の頃から男子が苦手とか言っていた。だから多分、こっちの方に用があるってのは嘘なんだろうな。
「じゃあ行こっか」
俺は莉子ちゃんが靴を履き替えたのを確認すると、教室に向かってゆっくり歩き出す。すると彼女もその少し後ろをついてくる。
そして俺の教室に近づいたところでそれは見えた。教室の前の廊下で楽しそうに話している、亜子と大輝の姿が。
「げっ、兄ちゃん!」
「ようカズ。おはようさん。それに莉子ちゃんもおひさ~」
「おはよう大輝。それに……亜子も」
この軽い感じで声をかけてきた男が大輝だ。俺と同じくらいの背で、ガッシリとした体つきの短髪眼鏡だ。ちなみにデータは集めていない。堅実そうな見た目なんだけど、それに反した軽い感じが周りにウケているらしい。
「東雲先輩おはようございます。亜子ちゃんもおはよ♪」
「莉子ちゃんおっはよぉ~! ほ、ほら、一緒に教室行こっ! じゃあ兄ちゃんも先輩もバイバイっ! ──一緒にこれて良かったね?」
「ちょ、ちょっと亜子ちゃん!? もう! それではおにーさん、また後で」
「あ、うん。──ん?あとで?」
俺の疑問を他所に、亜子に引っ張られていく莉子ちゃんを見送ると俺は大輝の方を向いた。
莉子ちゃんと約束した通りに、彼女から聞いた話の事は内緒のまま問いただす。
「どういうこと? なんで亜子が大輝と?」
「いやぁ~。たまたま登校中に一緒になってな? それで一緒に来たんだよ」
「へぇ……。俺は登校中のことじゃなくて、なんで廊下で話をしていたのかを聞いたんだけど?」
「あ……。あ~えっとだな?」
大輝の奴、俺が探る前に自分でボロ出したし。
って言ってもそれは昔からかな。
大輝は嘘を付けない奴っていうか、むしろ言わなくてもいい一言まで言う奴だ。だけどそれが嫌味にならずに好意的に受け止めてもらえるから、まるで青春ドラマの主人公みたいだと思ったことがある。
嫉妬……まではいかないけど、羨ましく感じたことも少しある。そんな奴が俺の親友でいてくれるからありがたいんだけどね。
俺はほら、特に目立つような特技とか無いし。
それにしても、その大輝が俺に何も言って来ないってことは、何か理由でもあるんだろうね。
「特に尋問とかするわけじゃないけどさ? まぁ、言いたくなったら言ってよ」
「さすがカズ! オレの心の友と書いての心友!」
「大袈裟だって」
「なら……義兄さん!」
「それはやめろっ!」
まったく……ネタなんだか本気なんだか……。
大輝とそんな会話をしているうちに予鈴が鳴り、俺は自分の席に座る。
それとほぼ同時にスマホが震えた。
それは亜子からのメッセージで、昼休みに亜子達の教室まで迎えに来て欲しいとこ事。理由は書かれていないけど、なにかあったのだろうか? まぁ行けばわかるだろうと言うことで、俺は簡単に〖おっけ〗とだけ返してスマホをしまった。
「おや? 今のは彼女へのラブメッセージかね?」
「彼女なんていないのは知ってるよね? 妹だよ。昼休みに来いってさ」
「フフっ。だと思ったよ。和臣に彼女なんて聞いた事ないからね」
いきなり話しかけて来たのは、俺の前の席に座る【
腰まで届きそうな長い黒髪に少しキツい印象の切長の瞳。そしてその黒髪を引き立てる真っ白な肌。体の線は全体的に細く、スラッとしている。
それだけ聞けば、この出来る女風な喋り方も相まって、モデルみたいだと勘違いするかもしれない。
だけど、それはむしろ真逆と言ってもいい。
「それよりも今日もちゃんと牛乳飲んできたの? ちーちゃん?」
「ち、ちーちゃんって言うなぁ! 千紗は大人のレディなんだかんね! ちゃんと牛乳飲んだし! 背も伸びたもん!」
そう言って椅子から立ち上がるけど、座ってる俺とほとんど目線は変わらない。
そう。小南はちみっ子なのだ。
「おっ! ってことはとうとう……」
「……やっと百四十センチになったもん。三ミリ伸びたもん」
「そっかそっか。ちーちゃんは偉いねぇ~」
「うぅ~! 頭を撫でるなぁ!」
文句を言いながらも、俺の手をどかす訳でもなくプリプリと怒っている。
これが俺のいつもの朝の風景だ。
「はっ!? また和臣にしてやられる所だった! ──フフッ……いいんだよ? いくらでも撫でても。 千紗……じゃなくて、アタシはそれぐらい何でもないからね」
「なら遠慮なく」
わしゃわしゃ……………
「んにゃっ!」
ダメじゃん。
━━━面白いっ!続きが気になるっ!って思っていただけましたら、フォロー、星レビュー、応援等よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます