第2話 一つめのお願い
どういうことだろう? 貸したのは俺の本だ。それを返してもらうのに条件がつくのは流石におかしい。
ただ、こんな事を言う子じゃないのはわかってるから、きっと何か理由でもあるんだろうな。
だからまずはそれを聞いてみる事にする。
そんなに急いで返して欲しいって訳でもないのもあるしね。
「えっと……一応聞くけどなんで?」
「な、なんでもですっ!」
なんでもときたか……。まぁいっか。そんな大したお願いでもないと思うし。大したお願いだったら断るけど。
「ふぅ……。それで? お願いって何かな?」
「聞いてくれるんですか!?」
「だってそうしないと本返してくれないんだろ?」
「それじゃあ……えっと、明日から学校行く時は、私の家まで迎えに来てくれますか?」
「それは……一緒に学校に行くって解釈でおっけ?」
「は、はひっ!」
あ、噛んだ。ってか、お願いはそれだけ? てっきりもっと凄い事かと思ってたけど……あぁ、なるほどね。そういえば最近、変質者の出没注意っていう貼り紙が増えてきたからそれかな? 怖いけど、素直に頼むのは恥ずかしくて【お願い】って事で誤魔化してる感じなんだろうな。
「わかった。いいよ。一緒に行こうか」
「ホ、ホントですか!? 今いいよっていいましたよね!? ちゃんと聞きましたよ? 後からやっぱりダメは無しですよ?」
「大丈夫だって。そんなに何回も確認しなくてもいいってば」
よほど安心したのか、莉子ちゃんは小さく「やたっ!」って叫ぶと、ソファーで雑誌を読む亜子の元へと向かっていった。
こういう時々見える子供っぽいところって可愛いよなぁ。
そして今日もいつも通りに亜子と一緒に莉子ちゃんを送って行く──と思いきや、亜子は用事があるみたいで俺だけで送って行く事になった。
だから今は二人で歩いている。
「そういえばさ、一冊につき一つのお願いなんだよね? 他のお願いは決まってるの?」
「それは……まだ考え中です。でも、最後のお願いだけは決まってますよ?」
「気になるなぁ」
「ふふ、内緒でーす♪」
そりゃそうだよね。けど、この迎えに行くってお願いが毎日続くと大体一ヶ月くらいで全部なくなっちゃうよな? 一ヶ月後になんかあったかな? 特に何もなかったはずだけど……。
「おにーさん? 私の家着きましたよ?」
「ん? あ、あぁもう着いたんだ。じゃあ明日ね。朝迎えにくるから」
「はい、明日から毎日楽しみに待ってますね?」
「……毎日?」
どういうこと? 毎日? 一日一個じゃなくて?
あれ? 莉子ちゃんなんて言ってたっけ? たしか、〖明日から家に迎えに──〗って……あ。
「私、ちゃんと明日からって言いましたよ? 明日だけじゃないんですよ? そしてちゃんとわかったって言いましたよね?」
「あ、うん。確かに言ったなぁ……。莉子ちゃんは中々の策士かな?」
「いーえ、おにーさんがちゃんと聞いてなかっただけだと思いますけど」
「ですよね。うん、わかったよ。毎日ね。まぁ、俺も変質者が出るのは心配だし」
「変質者?」
「ん? 最近変質者注意の貼り紙とかあるからそれで……かと思ってたんだけど?」
「へ? ……あ、そうですそうです! もう怖くて仕方が無いんです!」
やっぱりか。俺の予想は的中だな。
その後、莉子ちゃん家の前で別れて一人歩く事十数メートル。莉子ちゃんの連絡先を知らない事に気がついて振り返ると既に家の中に入ってしまっていた。
「しょうがない。亜子に聞くか……。流石にチャイム押して「迎えに来ました」は、恥ずかしいもんな」
そんな事を一人呟いて家に帰り、亜子に事情を説明して聞いてみると、
「え、ヤダよ。それにりっちゃんの許可無しに教えれないし? どんまい!」
「マジか。じゃあ莉子ちゃんに聞いて見てくれよ」
「えー! しょうがないなぁ……。ちょっと待ってて」
そして飯食ったり風呂入ったりして、待つことしばらく。
「兄ちゃん兄ちゃん! りっちゃんにメッセ送ったけど全然既読付かないや! 見てないか、多分もう寝たんじゃない?」
「なっ!? まだ九時なんだけど!?」
「ほら、寝不足はお肌の敵だから。だから明日はぶふぅっ! ……頑張って!」
なんで今笑った? 他人事だと思って……。
はぁ、まじかぁ……。
そして翌朝。俺は今、莉子ちゃんの家の前にいる。【宮野】と書かれた表札の下にあるチャイムはすぐ目の前。
押すぞ押すぞと気合いを入れながら指を伸ばし、こうしているうちに外に出てきてくれないかな? って思っていたけど、それは叶わないまま俺の指はチャイムを押した。すぐに女の人の声が聞こえたけど、残念ながらそれは莉子ちゃんの声ではなかった。
『はぁい』
「あ、えっと、北川です。あの、莉子さんを迎えに来たんですが……」
『あら、あらあらあら! 亜子ちゃんのお兄さんね? 聞いてるわよ~。ふふふ、今鍵開けるから玄関で待っててねぇ~』
するとすぐにガチャっと音がして玄関の扉が開くと、莉子ちゃんによく似た綺麗な人が出てきて俺に手招きをする。この人がお母さんか。
「おはようございます。はじめまして。北川和臣です」
「はい、おはようございます。私は莉子の母の
莉子ちゃんのお母さんがそう言った後、すぐに目の前にある階段の上から声がした。
「あ、おにーさんおはようございます。今急いで準備しますね」
そう言って白地をベースにした、チェック柄のグレーのスカートのセーラー服姿で軽快に階段を降りてくる──って、そんなに急いで降りたらスカートが……あ、見えた……。水色が……いや、見てない。俺は見てない。
「莉子? そんなに急ぐと下着見えるわよ~? むしろ見えたわよ~?」
「へっ!? あ、ちょっ! やっ!」
下まで降りきってから今更スカート押さえても、もう遅いってば……。
「おにーさん……」
「ミテナイヨ」
「まだ何も言ってませんけど?」
……あ。
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