カノジョの距離の詰め方がセコい

あゆう

第1話 妹の友達に本を貸した

「おにーさん、お邪魔してます」


 学校から帰宅した俺がリビングに入ると、聞き慣れた声がかけられた。

 声がする方に目を向けると、ソファーの上で制服姿のままで座りながら本を読んでる女の子の姿。その子がこっちを見て、小さな手をヒラヒラと振っていた。

 毛先に少しパーマをかけているセミロングの栗色の髪に大きな目。大人っぽく振舞ってはいるけど、どこか幼い可愛らしい顔。細身でスラッとしている。


 彼女の名前は【宮野みやの 莉子りこ】俺の妹の友達。そして俺、【北川きたがわ 和臣かずおみ】の高校の後輩でもある。ちなみに俺が二年生。彼女が一年生だ。


「莉子ちゃんいらっしゃい。あれ、莉子ちゃん一人? 亜子は?」

「あーちゃんは二階に行きましたよ」


 今の会話に出てきた【亜子あこ】というのが俺の妹。亜子と彼女は中学の頃から仲が良く、去年くらいからウチによく遊びに来るようになった。その繋がりで、俺も会えば話すようになったんだよな。


「そっか。そういえばどう? 高校生活には慣れた? 入学して二週間経ったけど」

「う~ん。まだなんとも言えないですね。けど、あーちゃんが一緒にいてくれるので楽しいですよ?」

「ん、まぁ、亜子は……な。コミュ力お化けだからなぁ」

「あは、おにーさんもそう思います? ふふ」


 二人でそんな話をしていると、リビングのドアの向こうから「よっ! ほっ! ふっ!」って掛け声と一緒に階段を降りてくる音がしたかと思うと、両手に漫画本やら文庫本を抱えた亜子が入ってきた。少し吊り目がちで、黒くて長い髪をツインテールにしている。前は一本で結っていたんだが、「筆みたい……」ってボソッと言ったのが聞こえていたのか、次の日からこうなった。自分の妹ながら可愛いと思う。まぁ、高一の割には背は小さいがスタイルが良く、割りとモテてるらしい。


「お、兄ちゃんおかえり!」

「あぁただいま……ってお前が持ってきたの俺の本か? また勝手に部屋に入ったのか?」

「まぁいいじゃん♪ 亜子のお小遣いは服とかコスメ代とかで飛んでちゃうから本買う余裕ないんだもん。それにりっちゃんも面白いって読んでるし」

「おもしろいでーす♪」

「ったく……。読むのは良いけど、ちゃんと片付けろよ?」


 俺はそれだけ言って自室に向かうと、制服から私服に着替える。その後はベッドに寄りかかりながらゲームをしたり、好きなWeb作家の更新を確認したりしながら時間潰しだ。ちなみに部屋着になるのはまだ少し先。


「兄ちゃ~ん、りっちゃん帰るよ~! 送って行こぉ~!」


 廊下から亜子の俺を呼ぶ声がする。これがまだ部屋着にならない理由。

 いつもの事なので特に返事もしないで下に降りると、リビングには帰る準備をした莉子ちゃんが立っていた。何故か俺の本を一冊手に持って。


「おにーさん、これ面白かったので借りてもいいですか?」

「あぁいいよ。そういうの好きだったんだ?」

「はい、ですよ? です」


 彼女が手にしていたのは、いわゆる異世界物のバトル漫画。普段、亜子と一緒にファション雑誌とか少女漫画を読んでる姿を見てたから少し以外だな。あ、そういえば今日は俺の本ばかり読んでたな。それでハマったとかかも。


「そっか。ならぜひ読んでみて。ホントにおもしろいからさ。続きもあるから、言ってくれたら貸すよ? どのシーンが好きだとか話せたら楽しいかもな」

「……っ! そ、そうですね!」

「じゃあそろそろ行こうか。亜子は?」

「さっき上着を取りに行くって言って……あ、来ましたね」


 莉子ちゃんの視線を追って後ろを向くと、ちょうど亜子がリビングに入って来るところだった。


「ごめんちょ! じゃあ行こっか!」


 入り口の所で両手を合わせながらそう言う亜子と一緒に俺達はそのまま玄関に向かい、三人一緒に外に出た。

 莉子ちゃんの家までは歩いて十五分程。

 目の前で仲良く話しながら歩く二人の姿を、後ろから見守りながら俺は歩いている。

 この辺は住宅街で少し入り組んでるけど、慣れてしまえばなんてことはない。

 ただ、入り組んでいる分人目につかない場所も若干ある。実際、半年くらい前に亜子が変な男に声をかけられそうになっている所を偶然見て、追い返した事もあったくらいだ。


「あ、ここって去年兄ちゃんに助けられた場所じゃない?」

「うん。おにーさんが飴くれた所」


 いきなりそんな事を言いながら振り向く二人。

 そういえば莉子ちゃんに会ったのもその時が初めてだったな。確か、怯えていた彼女にポケットに入れていた飴をあげた記憶がある。少し溶けかけていたせいもあって、包み紙がくっ付いていたの笑われたんだよな……。


「ん、確かにここだな。懐かしいな」

「ね~? ここでりっちゃんが一目惚──」

「亜子ちゃん!?」

「あ、ごめんごめん! ──兄ちゃん何でもないからね!」


 ひと? なんだろ? ……あぁ、きっとあれだ!


「ちゃんと聞こえてるよ。莉子ちゃんが人見知りしたって事だろ? 確かにまともに話せるようになるの時間かかったもんな」

「「…………」」


 ん? 違うのか?


 ◇◇◇


 その後、無事に莉子ちゃんを家まで送り届け、今は来た道を戻っている。


「さぁて、亜子の考えた作戦は上手くいくかなぁ~っと♪」


 そんな事を呟く亜子と一緒に。

 作戦? あぁ、次のテストのか。黙って勉強しろよ。と、亜子の呟きを横で聞きながらそんな事を思っていた。その時は。


 次の日も家に帰ると莉子ちゃんがいた。

 そして帰り際に、昨日貸した本の続きを貸して欲しいと言われて貸した。

 そのまた次の日も同じ。だから俺はもう一気に持ってる分を全部貸した。全部で二十八冊。自分が好きな作品にハマってくれたのが嬉しいのもあって、イッキ読みを推奨した。まだ完結はしてないけど、最新刊が最高に盛り上がるからそこまで読んで欲しいのもあったからね。


 そしてそれから一週間後、その貸した本のアニメ化が決まった事を知った俺は、また最初から読みたくなって莉子ちゃんが家に来た時にこう言ったんだ。


「どこまで読んだ? あれ今度アニメになるらしくてさ。読んだ分まででいいから返してもらってもいい?」


 話をしてる感じだと、前半の部分は読んでるみたいだから十冊くらいは返ってくるとの予想。だけど、彼女の返事は俺の予想もしていないものだった。


「ダ、ダメです……」

「……え? ダメって……へ?」

「返します。ちゃんと返します。けど……」

「けど?」


 俺が聞き返すと彼女は少し黙り、そのまま俺の目の前まで来ると、顔を上げると同時に人差し指を一本立ててこう言ったんだ。


「一冊につき一つ、私のお願いをきいてくれますか?」


 って。




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