第3話 知る事
「東洋新教……」記憶をなくした彼は豆のスープに干したパンを浸していた。そうでもしなければ硬くて食べられない。
「異端とされているから隠れ住んでいるのさ。昔は同士もいた。しかし逃げて逃げて、ここに辿り着いて家族も仲間も死んでいった。治療が受けられたら助かったかも知れない者も居たが」
広々とした食事場の端っこで、2人は向かい合って座っていた。
「何故そこまでして信仰を貫くのでしょうか」彼はストレートに疑問をぶつける。
「ふむ。良い質問だな。それが当たり前だと思うからじゃないだろうか。他人から見れば普通でない事が自分からしたら普通だとしたら、そこにギャップが生まれる。それは何にでも変化する。尊敬にも嫌悪にも、安寧にも恐怖にも」蝋燭一本に照らされたゴザイは彼を直視せず部屋の隅を見ながら話した。それは彼が食事をしやすい様にという配慮だった。
「村で出会した兵士達は魔法剣というものを探していると言っていた。ご存知ですか」
「
「
「もう作り出せない、不可思議な古代の技術で作られた魔導具だ。魔導具と言っても皆誤解しているが、物質の形をとる物とそうでない物がある。抽象的な例えが名前になっているものもあるのだ」そう言った途端にゴザイは口をつぐんだ。何かの考え、それも仮定の部類が頭を掠めた。そしてこびりついて離れない。
「メッシリア王朝とは?」彼は食事を終わらせた。
「メッシリアは南にかつてあった熱帯地域の王国。このマリバル王国が滅した国だ」
「滅ぼした国の国宝がまたこの国にあるという事ですか」
「その兵士達が言う事が本当ならな。お主は自分の背中を見たか?」ゴザイは何気なく訊いたが、内心は少し怖かった。
「ええ。何か模様みたいなものがありますね。あまり見えませんが」
「お主が記憶をなくすのもその
「この背中の文字のせいで記憶をなくしているのか。よく分からない」彼は背中を触りながら言った。
「自分が知りたければ分かる者に背中を見てもらった方がいいかも知れない。しかし、それを知って自分がどう思うか、幸せかどうかは別の問題だと思う」ゴザイの言葉は湿気を帯びていて重々しい。
「あなたは何か重大な秘密が秘められていて、それを仮定しているが確信には至らない。それにそれを俺に話すのには気がひけるのですね」彼が言った事にゴザイは少し驚いた。
「お主は勘が鋭い。記憶をなくされる前は只者ではなかっただろうに」ゴザイは額に一粒汗をかいた。
「大丈夫ですよ。自分で答えを見つけます。あなたは命の恩人。気に病まないで下さい」彼はにこりと笑った。
「ふう」ゴザイは椅子を横に向けて一息ついた。
「どうしたのです?」
「うむ。私はもうじき死ぬのだ。病でね。やっと妻や娘の所に行ける。お主が最後の話し相手だと思う」とゴザイは言った。
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