第30話 食人花ブレンシア

(新しいものを追い求めるという点において、芸術家に及ぶものはいないと思っていたが……料理人、料理人か………)


感極まっていらっしゃる神様にはそのまま感動してもらっておき、俺はそろそろと調理場へ近づいた。いい匂いに腹の虫が耐えられなくなってきているのだ。


「なってきてる、じゃなくてもう鳴ってんだろうよ」

「いやぁ正直なもんで…」

「見てろ、すぐ出来る」


食人花……ブレンシアの茎を細切れにしてからさらにすりおろし、兎に揉み込んでまな板に置いたものを取り出す。

そのすらりとしたパンツルックのどこに隠れていたのかというような小瓶を二2、3個並べては、それに振りかける。


「それは?」

「ココの葉とサミトの実。香辛料だよ。こんなもん金持ち連中は使わないからな、知らないんじゃないのか?」

「知ってるけど…………」

「けど?」

「いや何でもない、続けて」


例えばローズマリーやローリエのようなものだろうか、植物由来の匂いのする調味料。

名前が違うので効果は分からないが、ともかく香辛料がこちらでは安価な、そして低俗なものらしい。


神様もそういえば何もかけずにトウモロコシ食べてたしな…


(まぁそうだね。ワタシは加工されたものも食べるが…)


そのまま食べるのが主流ということか。あそこまでおいしい素材なら頷けるし、俺もそれでいいんじゃないかなと思ったり思わなかったり。


とはいえ今は調理中である。思索に耽るのをやめて、そちらを見る。


「鍋貸せ、鍋」

「了解っと」

「よし」


いつの間にか主従感など捨て置いているギースにフフと笑う神様と俺。


そんなことで料理の手を止められるのもなんなので、心の中で、である。


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