第27話 跳ねるナイフのエトセトラ

俺が隠れて草の間から声をかけると、彼は腰に引っ掛けていた得物数本のうち一本を抜いた。

そのまま対象である子ウサギに走り寄って、振りかぶる。

一閃、といえば分かるだろう、鋭い切れ味は、その腕の確かさを思い知らせてくれる。


これで武器が肉切り包丁でなければもっと格好もついたのだが。


「オラ、1匹目だ。ヒコはそれ持ってろ、次がすぐにくるかんな」


ばしゅんじゃきんぶつん、といった調子で、空の太陽らしき金色が10度ほど傾いた頃には、俺が持たされた袋は本場北欧のサンタ並になっていた。

血まみれサンタなんて見たくもないけれど。


「おもい」

「それが飯になんだぞ」

「…イケる」

「単純かよ」


だって飯時なのだ。腹はぐうぐう鳴いている。いまにもはちきれんばかりの食欲を、地面に流れた蒼色の血だけが抑えてくれる。

こんなことならピエブさんにもうちょっとお菓子を、とか思ったがもう彼とは別れてしまったのだ。


「あの商人は国に帰るって?」

「うん、残してきた奥さんが服のこと分かるんだってさ。また訪れてくれって言ってたよ」

「方向逆だけどな」

「……ま、追々ってことで」


ピエブさんは国々を巡っているというから、いずれどこかで会うこともあるかもしれない。


その時を楽しみにいていればいい。

俺はパンパンの袋を軽々持ち上げて、血の流れていない土地まで進むというギースを追った。


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