第20話 お菓子な世界 - 1

カシスのにおいは成熟した女性を連想させる。

現在毎秒持論が証明されているところだ。


実際にはカシスという果物ではないのかもしれないが、俺は既に、自分の知った事物に例えることを容認している。


立ち返る蠱惑的な香りと、オレンジの甘酸っぱさが鼻の先で薫る。

プニュプニュとした柔らかな感触、ふわふわの食感を口に含んで、俺は話されたセ界の事情というものを整理していた。


センセミラトリィセ界、俗にセ界と称されるここは、多民族多国籍の者が皆民として扱われているということ。

民たちはそれぞれ土地を囲い、国としていること。国々は神を祀る教会がたてた国、正教国ともいう国を中心に広がっていること(今いる国はわりと辺鄙なところだそうだ)。


国には様々な者がいるが、それらは種別により大まかにわけられていること。

ピエブさんやグリタはタコ種、俺はヒト種だ。


まんまだが、これは神様の翻訳機能が働いてくれたのだろう。エルフっぽい奴がいたらエルフ種と訳されるに違いない。


(そうかもしれないね。固有名詞はそちらに合わせた方が楽というものだ。無論君が知りたいというなら教えるとも)


セ界の言葉を学ぶことは今後の課題となりそうだ。料理名さえまともに──ここでは現地の言葉という意味だ──読めないで、レストランの食事を楽しめるものだろうか。

答えは否である。


ここで嬉しかったのは、セ界の言語が大体は統一されていることである。

これは協会の教育もとい権力が根付いているからで、もちろんのことだが教会と懇意でない国や田舎ではその限りでない。

いわゆる訛りとか民族語だ。


あと彼が何度か言った流浪の民というのは、定住する国を持たない民、もしくは突然現れた者を指しているという。

すこしふしぎな価値観なので人が成長した姿で現れてもおかしくない、らしい。


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