第17話 デビルフィッシュ

………ここにきてごめん被りたすぎる案件だ。


「関係者にすらなりたくない…………」

「そ、そうなんですか?! 教会の門をくぐるのは一種の名誉だと言われていますが…確かにあなた様ならばそうかもしれませんね」


…なんか、扱いがグレードアップされている。まあいいか、と匙を投げつつ、俺は改めて、ピエブさんの問に答えた。


「俺はまだセ界を全然知らないんです。箱入りだったので。だから特に何にも属してはいません」

「…斯様で。流浪の民と似たようなものですか」

「流浪の……?」


俺の問いかけに、ピエブさんの動きが止まる。一気に硬化した触腕たち。彼の表情は、今までとは違って読めない。


俺は残っていたたこ焼きをつまみつつも、この状況はまずいのでは、と思った。

何も知らないのだからどうしようもないが、思えば俺は住所不定、身分証明書もない人間なのである。カモネギ扱いされても仕方が無いのでは?


(その心配は…どうだろうね、ワタシには何とも)


俺は逃げ出す準備すらし始めていた(悔いの残らないようたこ焼きを食べていた)が、ピエブさんは数秒後、急にわちゃわちゃと動き出した。それこそ、絡まらないか心配になるくらいに。


みるみるうちにテーブルが片付けられ、俺の手からピックと器とがさらわれる。

盤上が綺麗になったところで、ピエブさんは大きく声を張り上げた。


「グリタ!! グリタはいるかぃ!」


そう言ってから彼はこちらへ向き直り、少々お待ちくださいねと笑みを作った。

そろそろタコの表情というものがわかりつつある俺だが、その心は読めない。


「はぁい、ただいま!」


ややあって、元気な、それでいてうるさくない声が帰ってくる。カラカラカラ、と音がして、入ってきたのは


「…マダコ?」


つるりとした表面の、見事な真蛸である。あの朗らかな少女の声はまさかここから出ていたのか。驚きに打ち震える俺の前で、2人(!)の会話がさっと始まってさっと終わった。


なんとなく、俺にセ界の説明をしてくれる、みたいな内容だったと思う。

いかんせんインパクトが強すぎて記憶が飛んだ。神様に確認したらその通りだったようだ。

…一安心である。


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