第14話 レンガもチョコも変わらない

人がいるなら食べるものもあるだろうという安直な考えで、俺はレンガ風の町並みを進んでいく。


「あれですね」


(そうだね…何かは分かるかい?)


鳥かご型をした檻が、どのような原理によってか宙に浮いている。


檻の中には大小様々な生物がおり、それぞれに首輪やそれに類するものが付けられていた。

どこか着崩れたような町の人間は檻を自由に見て回って、檻の方も自由に飛び回っている。

一種異様な光景だが、集団が何を示しているのかは、容易に分かった。


「…奴隷売買、ですね」


(ああ、正解だ。キミはとても勘がいいな)


「そうでもないと思いますけど…」


地味にさっきのパック●フラワーを気にしている俺は、道端に点在する真っ黒な樽に身を隠しながらその集団に近づいた。


「安いよ安いよぉ! ピンからキリまで良質の奴隷が揃い踏みだ! 明日には発つから早いうちにね!」


集団の中心らしい男…男? は、どピンクのタコの姿をしていた。

吸盤が手の先にしかないのだが、紛れも無くタコである。声はやけに甲高いが、男のものに聞こえた。


檻の周りには人だかりがあったが、タコの周辺のヒトたちはどこかよそよそしく──声は聞いているようだが、離れている。


俺はといえば、ふらふらと吸い寄せられるようにそのタコに近づいていった。

だって、タコだ。

俺は大阪人ではないがタコはもう、タコなんだ。


(急に語彙力がなくなるなぁキミは)


「タコ…………あれ、食べれるかな」


(あの蛍光色を食べる気かい! キミは頭がおかしいぞ!)


そんな漫才を繰り広げているうちに、俺はピンク色に後一歩のところまで来ていた。

…口の形まで完璧にタコだ、これは期待できる。

などと思っていると、おもむろにタコの横顔がこっちを向いた。


「…………おやおや、わたくしに御用ですかな?」

「アッハイ、ちょっと端の方をいただけませんか」

「は?」


驚いた顔がシメられる前のリアルタコと同じで、腹が鳴ってしまったのはご愛敬である。


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