ピンクのたこ焼きと砂糖菓子

第12話 爪の垢をたべる

異世界──生まれ落ちたのだからそう呼ぶのも微妙なところだが、での初の感想は、とりあえずケツが痛い、だった。



思い切り尻から落ちたのである。

三メートルほどの高さからだったようで、骨などに異常がないのは幸いだが。


(すまないね、降ろす場所は選べないものだから)


頭の中で声が響くのに不快ではない、というのは不思議だ。

構造としては耳鳴りと同じだというのに。俺は神様の声に返事をする。


「いや、大丈夫ですよ。それに、人通りがありそうなところで良かった」


高野にほっぽり出されたりしたら、貧弱な体ではどうしようもない。

何より周囲に舗装された道や、緑があるのがいい。近いのはスイスとか、ドイツとかの田舎の町並みだろうか。


(そうだ、体に不調はあるかい?)


「いえ。……まさかリアルに爪の垢を煎じて飲むことになるとは思いませんでしたけども」


そうなのだ。


神様の話によると転生者が記憶を保ったまま降りるのは難しく、それを可能にし、かつ神様と感覚を共にするためには必要なプロセスが爪の垢を以下略、だったのである。




『キミは降りる際に、なんでも一つ願いをいうことが出来る。無論叶えるか否かはワタシの采配によるが、大抵は叶えられるよ。美しさでも金でも体力でも技能でもいい』

『…俺、この人格のままで神様と食いだおれをしたいんですよね』

『……それがキミの願いかい?』

『はい。……叶いますか』

『フフン、もちろんだとも! では契約をしよう! キミは私と感覚を共有する、そのうえでセ界に降りるのだ!』


こんな感じで、俺と神様の契約は、至極簡単に締結された。回想するにも短すぎるやりとりで、俺はこうして降りてきた。


本当に美味しい食事を知らない神様と、最高に美味しいごはんを食べるために。


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