第10話 天上にお取り寄せ - 1

もごもごと咀嚼し飲み込んでを繰り返していると、次第に涙が止まらなくなった。


「ううぅ……もぐ………っうぇ…なんっ…もご…ぅ…もぐ…」

「ああホラ零れているぞ! 赤子のようだなキミは! こんな者は初めてだよまったく」

「……もっ………もぐ…ぅ…」


無くなってしまった。

何がってこの星粒がである。

悲しいことに皿の上には二人分だったはずのトウモロコシの芯が鎮座している。俺は冷静になるのと同時に無性に腹の底が切なくなって、ボロボロ泣いた。





「…………落ち着いたかい」


もう1度彼が声をかけてきたのは、俺の着ていたブレザーがベージュから濃いブラウンに変わった頃である。


俺は神様から与えられたタオルで水分という水分を拭って、頷きを返した。


「それは良かった。…キミ、そんなに飢えていたのかい」

「違いますよ……この世界のメシがあんまり異様に美味しいだけですよ…気付けの水すら富士山水の百倍美味しかったですし…………文明というか世界の構造からして百年経っても追いつけませんよこれ…」


「とにかく感動していることは伝わったよ。そういえばここに来た者に食物を振舞ったことは無かったし、下界ではこれに慣れきっているからなぁ」

「慣れてるんですか…神様もですよね、それ?」

「勿論さ。ワタシは食べる時は取り寄せているけれどね」

「…取り寄せ?」


神様ネットワーク的にそういうのはありなのか。それともこの神様が特殊なんだろうか。

なんか軟禁状態っぽいな……ていうか、取り寄せってことは。


「これ、この殺風景の中でいつも食べてるんですか」


詰るような雰囲気になってしまったのを神様は感じ取って、「うん?」と目を丸くした。

当然だろうと言わんばかりの態度に、俺は日本人のお家芸、「勿体無い」を返す。


「もったいない? なぜ?」

「…俺の故郷…日本、と言うんですけど、そこでは、食事は、半分近く空気を食べているようなもの、と言ったりします。

高級料理はそれに応じた豪華な空間で、野外料理は自然に触れながら、家庭料理は家族揃って、みたいに。だから、こんな何も無いところで、ひとりで、食べるなんて………食事への冒涜もいいところです」


酷く失礼なことを言っている自覚はある。だから砕けていた姿勢は直している。

だが、そんな俺の態度に反して、神様はどこか愉快そうだ。俺との会話の行き着く先をもう知っているからかもしれない。


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