第9話 魔法のテーブル
そうだが、キミたちのホシには、死二戻りがいるだろう。
彼は当然のように俺の知らない言葉を使う。
「しにもどり?」
「時々いるのさ、一度死んでこちらに連れ帰ってきたはずなのに、いつの間にか消えている、みたいな者が。心当たりは?」
「ああ……あります」
生き返った人間、ということなら、心当たりなど山ほどある。
たとえば南アフリカでは、80歳の男性の、冷蔵庫の中に安置した遺体が起き上がり叫び出し、死に切れなかった彼はその後退院したという話がある。
「そういうモノたちがこちらの文明を持っていくのさ。断片的にね」
「それは…許されているんですか?」
「いいや? だが、降ろされる際には元いた場所のことは忘れているからね、規制しようにも意味が無い。
何せ覚えていないところに勝手に引っ張られていくのだし、ワタシたちには干渉する術がないのだから」
忘れている? と繰り返せば、「混乱しないようにという名目だよ」と返される。
色々思惑があるのだろう。
ということは、様々な星から、まっさらな状態で送り出されるということか。アメリカも真っ青なサラダボウルになっていそうである。
「そうだね、下界での営みは面白いものさ。残念ながらワタシは降りることは出来ないが…」
「が?」
俺が僅かに身を乗り出すのと同時に、ちゃぶ台に異変が起きた。
「うわっ?! …さ、皿」
皿が出てきたのである。
「ああ、食べやすい熱さになったようだね。どうぞ、食べるといい」
ぱっと、先端まで美しい指を開いて、2本のトウモロコシを指す。
ゆるやかに湯気を放っているそれらは、今にも弾けそうな程に大粒で、星つぶを詰め込んだと言われたとしても信じられてしまうくらいに輝いている。
俺は知らず、そのうちの1本に手を伸ばす。
「…いただきます」
しゃりっとか、しょりっとかいう音が、口の中で響いて。
俺はたちまち目を見開いて、ぅあ、と声にならない声を上げた。
「どうしたね? 気に入らなかったかい」
「っ、…ぅう」
顎を組んだ手で支えて不思議そうにこっちを見る神様を半分無視して、俺は白いトウモロコシを貪った。
咥内で弾ける粒はポップコーンを思わせるが、感触は枝豆のそれに近い。
しっとりとしていて柔らかく、それでいて歯ごたえがあり豊潤、なめした大地から生えた新芽のように瑞々しい。
なんだこれは、これはまるで、ああ形容する言葉すら思い浮かばない!
「……………………ぅ"っ……」
「泣いている! キミの融点は低すぎやしないかい!?」
こっちにも融点の概念あるんですか、なんてツッコミは出てこない。
俺は口の中で暴れ回る美味の奔流に耐えるので精一杯なのだ。
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