第8話 ソーダ味の瞳

死者を運ぶといえば北欧神話のヴァルキューレだ。

彼女らは神ではなく御遣いだが、そういう行為を仕事だと言うのなら、その選択肢を選んだのは正しい。だが──


「御遣い? そちらのホシでもその言葉を使うのかい」

「えっ、ああ、そうですね…こっちでは天使、って言ってます」

「テンシ…いい響きだ! こちらの人間はどうも直接的でいけない、そういうセンスがなくてはね。うん、やはりホシのことを知るのはいいものだな!」


ブロンドに映える飴玉のような碧眼がきらきらと輝く。夢見る少女のような眼差しは、いつか見た星の姿を移しているかのように見えた。


半ば確信的に、俺は彼に問いかけた。


「やはり?」

「…………ん? ………………………あぁ、そうか…」


俺の心象を覗き見たのだろう、合点がいったとばかりに彼は頷く。


おもむろに立ち上がると、彼は鍋の火を止めて、取っ手を持たずにそれを浮かせ、湯を切ってトウモロコシを取り出した。


「冷めるまで待とうか。なに、すぐに終わるさ」


ここからは、俺が想像した範疇からそれほど離れていない話であった。



最初の彼との問答で出た、『数百年前、それをして位を落とされた天神』というのは、このひとのことである。

神様は天神の身でありながら──いや、だからこそ──奔放に、星々を渡り鳥のように旅した。


その過程で、このセ界の文明を漏らしてしまったのだという。

そのせいで(俺たち人間にとってはおかげで、というべきだが)、ほかの星の者達は中央の星に気付いた。脳の構造はコンピュータのない過去に遡るほど高く、精密であったので、それが可能になったというわけだ。


「天神はセ界に誇りを持っているからね、外のホシに勘繰られ、交信を求められるなんてことは我慢ならなかったのさ」

「あなたはどうなんです?」


「ワタシは下等存在が大好きだよ。彼らが作り上げる文明は、確かにこのセ界には劣ってはいるが素晴らしいものだ。

足ることを知らないのもいい! というか、君の反応を見る限りホシたちはこちらに限りなく追いついたのではないかい?」


キッチンやコンロにそれほど大仰な反応をしなかったことを言っているのだろうか。


「でも、神様がこっちに情報をもたらしたのって数百年前ですよね?」


流石にそこまでは、関係がないのでは。

そう思って首をかしげてみると、彼はにこりと微笑んだ。


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