第4話 "トウモロコシ"

彼はそのままキッチンへと向かう。

コンロと、剥き出しの台とどこに繋がっているのかわからない謎の換気扇の元へ、だ。


神様の立つキッチンには、先ほど急に“現れた”、沢山のトウモロコシらしきものがある。


「これはトウモロコシと言うのかい。ならば、登録しておこうか」

「…登録、ってなんですか?」


まるで電子辞書にするみたいな。

…携帯電話の辞書にもそういうのあったな。


「辞書というたとえは言い得て妙だな。この世界の基盤を一つの本だとする考えはこちらにも存在する」

「…………………………あ、心読めるんですね」

「普段はしていないけどね。いちいち大量の独白に答えるのは馬鹿らしいとは思わないかい? ……しかし、キミはなんにしても驚かないのだな、逆に何をすれば驚くのか気になってきたぞ」


神様はおそらく(彼はキッチンの方を向いているので)ニコニコと笑いながらそんなふうに言う。

けれど、こちとら八百万の神の国に産まれ順調に中二病を通過し、若干そちら方面に詳しくなってしまっているのだ。

奇想天外な神様など読み慣れているし見慣れている。


「キミは神を目にしたことが?」

「画面や本の向こうにですけどね」

「なるほど、疑似体験か。まぁそれにしてもキミは変わっていると思うがね。これまで来た者達は私が目の前にいるっていうのに『詐欺師』とか『嘘つき』とか『ドッキリ』とか『神は死んだ』だとか言ったものさ!」


神様は、真っ白な身のトウモロコシを2本、器用に指に挟んで振っている。

オタ芸で見るアレである。そして振られているトウモロコシは、見る見るうちにその皮が、尾が滑り落ちて、床に落ちる前に金の粉と化した。


「…凄いですね」


トウモロコシもだが。

俺が言ったのは失礼千万なその者達について、だ。

詐欺師の類や嘘つきならばもっとマシな嘘をつくだろう、なにせこれだけ見目がいいのだから、下手な宗教に手を出さずとも儲けられる。


あと最後のはもしかしてあの人なのか? これまでって言ってるからもしかしたらもしかするかもしれない。


「見たことのないものを信じるのは難しいものさ。まぁそういう失礼な輩にいい気はしないが」

「とっておきをあげることもないんですね」


「ふふん! その通りだとも。もちろんセ界には降ろしてやるさ。それがワタシの仕事だからね」


ちっとも不快さは出さずにいる彼を見るに、そういう者は多いのだろう、きっと。


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