第4話 混ざり合う ③
暫くしてから、ミリーさんが昼食を持ってきてくれた。
先生の診察のお手伝いや患者さんのお世話もする、気が利いて溌剌とした人だ。
ミリーさんは僕の母さんと仲が良くて、休みの日になると広場で長話してたっけ。
「ソルトちゃん、お腹空いたでしょ。固形物はまだ食べられないから、毎日少しずつ消化のいい食べ物から始めましょうね。」
ゆっくり体を起こす僕を手伝い、背中に大きなクッションを入れてくれた。
膝にトレーごと置いてくれた昼食は、食べ物というよりほぼスープ状のお粥だった。
薄い塩味のお粥が、じんわりお腹に染み渡る。
ミリーさんは、僕が少しずつでも食べていることにホッとした様子で、涙ぐみながら今後の話をしてくれた。
「ソルトちゃんさえ良ければ、このままうちに居てくれてもいいのよ。まだ成人も迎えてないし、お家は…アレだろうし…。」
ミリーさんがこう言うのには訳がある。
実は僕の家は代々農園をしている。しかもこの町では規模も大きめだ。
代々というのが、この世界特有の遺伝が関係していて、ある能力を持つ家系に、必ず同じ系統の能力を持つ子が生まれるのだ。特に、その能力を持った親からは生まれやすくなる。ただし、全く同じ能力となると、引き継ぎやすいのは、親子よりも祖父母から孫へというのが多い。
そして、ミリーさんが言うアレというのは、父の兄である叔父とその家族の事である。早い話が不仲なのだが、それなのにずっと農園に居座っていて、僕も何度か絡まれたこともあるし、危険な目にも合いかけた。
その事もあって特に母とは折り合いが悪かったのを覚えている。
僕の父も、叔父達には何度も出ていくように説得しているのだが、話に応じない状態で、どう対応していいものかと困っているのを見かけたことがあった。祖父としては、自分の子でもあるので、力尽くでというより納得して出ていってもらった方が後々遺恨が残らずいいのではないかと思っていたようだ。
「まだお姉さんも暫くは帰って来ないだろうし、お家に戻らないほうがいいんじゃないかと思うの。」
ミリーさんは、いつもとは違う眉を下げた心配そうな顔で、僕の頭を撫でながら言った。
子供のいないミリーさん達は、以前から僕を可愛がってくれている。
いつも頭を撫でてくれる二人のこの手が僕は大好きだ。
……そう。 僕は、父さんと母さんと爺ちゃんの手も大好きだった。
段々沸き上がるように思い出す事実は、今世の『ボク』の記憶で、どうやら寝込んでいた3日の間に、前世と今世が混じり合って、徐々に、この『僕』になったようだ。
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