第3話 ヤンキーは王国を支配する。

 蘭子は玉座に座っていた。

 「タバコだ。マイセンな」

 気怠そうに国王に向かって命じる。

 「あっ・・・あのマイセンって?」

 「マイセン無いのか?10ミリなら何でも良いわ」

 「10ミリって・・・?」

 「ああん?そんな事も知らねぇのかよ?濃さだよ。濃さ。5ミリとか持ってくるなよ?解ってるな?」

 「はいぃいいい」

 蘭子の気迫に負けた国王は慌てて、駆け出す。

 

 魔物を追い払った蘭子は王国から大きく感謝され、迎えられた。

 のだが、蘭子は調子に乗って、国王を除けて、玉座に座ったのだ。

 「しかし、お前ら・・・あんな雑魚ども相手に何、やってるんだよ」

 蘭子は最高級の果実酒をジュースのように飲みながら、目の前に居並ぶ貴族や騎士を前に大笑いをしている。

 「あ、あの・・・タバコです」

 国王がタバコを持って来た。

 「なんじゃ?葉巻じゃねぇか。私はタバコだって言ったはずだぞ?」

 「これの事じゃないのですか?」

 「当たり前だろ?葉巻なんか吸えるかよ」

 「しかし・・・この国にはタバコと言われるとこれしか」

 「ふざけんなよ。てめぇ」

 蘭子は玉座から立ち上がり、国王の胸倉を掴み上げる。騎士達が慌てて、駆け寄るも蘭子の左パンチで一人が殴り倒されてしまって、圧倒された。

 「やめてくさださい。本当にこれしかありません」

 「ざけんなよ。糞が。ビールもねぇから、こんなジュースみたいなもんで我慢してやってるのによぉ」

 軽く酔っ払いながら蘭子は国王を幾度か揺さぶってから放り捨てる。

 「まぁ良いわ。無い物は仕方がない。許してやる」

 「あ、ありがとうございます」

 国王は床に尻餅をついたまま、助かったと思った。

 その時、王国の兵士が慌てて、駆け込んで来た。

 「た、大変だっ!ま、魔王軍がっ」

 彼は息を切らせながら叫ぶ。

 「うるせぇ!」

 蘭子は響き渡るその声に腹を立てる。

 「す、すいません。しかし、魔王軍がまた、攻めて来ました」

 その報告に蘭子は苛立つ。

 「ああん?魔王軍って、あのわけのわかんないのを連れて奴等か?」

 「えぇ・・・そうです」

 蘭子は玉座から立ち上がる。

 「懲りねぇ奴等だな・・・良いストレス発散だ」

 蘭子はトゲトゲ棍棒を手に取り、真っ赤な絨毯を闊歩する。

 「おお。勇者様、立ち上がってくれるのですか?」

 王は涙を流しながら尋ねる。

 「うるせぇよ!てめぇのためじゃねぇ。あたしの為だ」

 蘭子はそう吐き捨てると謁見の間から出て行く。慌てて、王国の兵士達も彼女について行く。

 

 多くの魔獣が王都へと向かっていた。

 王国の兵士達は懸命に彼らの行く手を遮るが、圧倒的な力の差で散り散りとなる。

 「はははっ。尖兵として突入したラスコールの奴からの連絡が無かったが・・・あやつ・・・失敗したか」

 漆黒の鎧を着た騎士が馬上で笑う。

 「ドラグレス様。現在、逃げ出したラスコールの部隊の魔獣を追い立てて、王都へと突入する所です」

 「そうか。逃げ出すような腰抜け共は容赦なく、追い立てろ。再び逃げ出すようなら殺せ。まったく。ラスコールの奴も・・・」

 ドラグレスは呆れたように呟く。ラスコールは彼の部下である。相当に優秀な男ではあり、信頼して、王城攻略を命じたのだった。

 「どこかにラスコールの奴が居るかもしれん。見付けたら、俺の所へ連れて来い」

 鷹揚にそう指示を出しながら、進軍を続ける。

 その時、魔獣の一匹が慌てて、彼の元へとやって来た。

 「王都寸前で魔獣達が逃げ出しております!」

 「ラスコールの魔獣か?」

 「それだけじゃなく、我が軍の魔獣もです」

 「なにっ?」

 ドラグレスは驚いた。そして、怒った。

 「許せん。バカ共のが。俺が行く」

 彼は馬を走らせた。


 王都目前の街道で魔獣達は怯え、逃げ出していた。

 魔獣を操る魔王軍の兵士達も怯え、逃げ惑った。

 彼らの前に居るのはたった一人の少女であった。

 「てめぇええええらぁああああ!うるせぇえええぞぉおおおお!」

 蘭子は棍棒を振り回しながら、魔獣や兵士を叩きのめしている。

 「ば、ばけものぉ」

 そう叫んだ兵士は蘭子に殴り飛ばされた。

 腕に覚えのある傭兵ですら、剣をへし折られ、蹴り飛ばされた。

 蘭子は僅か10分で数十人の兵士をその場に打ち倒し、それを見た魔獣達が恐怖に怯えて、逃げ出す。

 「何事だ?」

 阿鼻叫喚の地獄と化した現場を見たドラグレスは唖然とした。

 彼が育てたはずの最強の軍団が目の前でボロボロになっているのだ。

 「あいつです。あの女が、皆を・・・」

 怯えた部下がそう報告をする。

 「女だとぉ?」

 増々ドラグレスは怒りを高める。彼は馬から降りて、剣を抜き放った。

 「俺が直々に相手をしてやる。皆の者、どけぇえええ!」

 その怒声に彼の兵が道を開ける。

 「ああん?お前が親玉かぁあああ!」

 その声にドラグレスは殺意を感じた。

 「この感じ・・・あれが・・・」

 そこには怒りに満ちた蘭子の姿があった。着ている制服は血に塗れ、彼方此方が破れていた。

 「何度も何ども、鬱陶しいなぁああああ!」

 蘭子は棍棒を振り上げ、駆け出した。

 「ぬうううう!」

 ドラグレスは飛び掛かって来た蘭子の棍棒を剣で防ぐ。だが、その力は並の人間の物では無かった。

 「こ、こいつぅうううう!」

 ドラグレスは焦った。見た目が普通の少女故にこんな力があるとは思わなかったからだ。

 「おらおらおらぁああああ!」

 蘭子の棍棒が乱れ打ち、更に蹴りがドラグレスの腹に入る。甲冑に亀裂が入り、彼は軽々と地面に転がった。

 「ぬぁああああ!なんだぁ、こいつはぁあああ」

 ドラグレスは圧倒的な力の前にただ、驚くしか無かった。

 「死ねや!」

 蘭子は倒れたドラグレスに棍棒を連打する。余りに容赦なく、激しい攻撃にドラグレスの鎧は破壊され、顔が変形していく。

 「ひぃいいい!やめっ!やめて!」

 ドラグレスは悲鳴を上げ、泣き叫んだ。

 「あの国は私のシマだよ!解ったかあぁああ!」

 蘭子はトドメとばかりにドラグレスの頭に棍棒を叩きつけた。彼はそれで動かなくなった。

 「よーし!他にやるって奴は居るか?」

 蘭子は棍棒を肩に掛け、周囲を見渡す。その瞬間、魔獣達は一斉に逃げ出した。

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