第28話:芦田幸太は正式に採用される
僕が騎士ヶ丘大学に採用されて半年が経った。
初日に聞かされた話だと、採用されて半年は『試用期間』ってやつなんだって。で、半年経って、本日晴れて僕は正式な職員となったわけだね。
そのお祝いにと、今日は地方創生学部教務課の人達と飲みに来ている。
「いや〜、ほんと。アッシーのお陰で助かるよ」
小林課長が、ご機嫌そうにそう言って焼酎をあおる。
「いやほんと。今まで事務の言うことなんて聞く耳持たなかったあの学部長が、アッシーの言う事なら聞きますからね」
高橋係長も、小林課長の言葉に同意しながらカシスオレンジをチョビチョビと飲む。
「これで仕事中にサボってなければ、言う事ないんだけど」
松本さんは半分近くジョッキに残ったビールを一息に飲み干して言う。
ちなみに今の話題は、地方創生学部の谷山学部長、と僕。
今年新設されたばかりの地方創生学部。
だけど実際にはその一年前から、先生達と事務職員が一緒になって、学部の準備をしていたらしい。
一年前から学部長になることが決まっていた谷山学部長は、『事務職員の言うことに一切耳を貸さない』ことで有名だったみたい。
その谷山学部長が、僕の言うことだけは何故か聞く、というのが最近の学部内での一番の話題になっていた。
でも、僕はそれが事実と異なることを知っている。
「いや、あの・・・」
「ほんとアッシー、お前のコミュ力の高さ何なんだよっ!」
谷山学部長を養護しようとする僕を、寺垣君が遮る。
「アッシー君、凄いね!」
そしてそれに同調するように、美作さんも目を輝かせている。
そう。
地方創生学部教務課の飲み会のはずなのに、同期の2人もいるんた。
元々予定されていた課での飲み会の日に、この2人も『試用期間卒業記念』の飲み会をやろうと誘ってくれたんだ。
僕がそれを断ったら、『だったら俺らもそっちの飲み会に参加する!』と寺垣君がいい始めて今に至る、ってわけ。
ちなみに、静海さんとの一件以来、寺垣君も僕のことを『アッシー』って呼ぶようになり、更には美作さんまでもがいつの間にかそう呼ぶようになっていた。
美作さんだけは、何故か『君』をつけるけど。
ちなみに僕も、これまで寺垣
第一印象は最悪だったけど、寺垣君との仲はそれなりに良くなったと思う。
まぁ、美作さんは相変わらず
っていうか、流石に寺垣君みたいに
「しかし、いつも世話になってる寺垣君とも飲めて良かったよ!しかも、こんなに可愛い
「課長、それセクハラ。美作ちゃん、私が証言するから、このエロジジイ訴えましょう」
良い感じに酔っている小林課長のセクハラ発言に、松本さんが不機嫌そうに言う。
「そもそも、こんなに美しい私がいて、更に美作ちゃんまでいるんだから、普通だったらお金取られてもおかしくないわよ」
「ほんと、松本先輩って綺麗ですよね〜。私が男だったら、絶対に逃しません!」
松本さんの恐ろしい発言に、美作さんはコロコロと笑いながら見当違いなことを返していた。
もう、既にこの場は混沌と化しています。
まだ始まって30分くらいしか経ってないんですけど。
ちなみに、寺垣さんは地方創生学部に文科省から入っている予算の担当をしている関係で、課長とはよくやり取りをしている。
だからこそ、課長は寺垣さんとも一度は飲みたいと言っていた。
それを考えると、今回の飲み会が合同になったのは良かったのかもしれない。
でも現在、その寺垣君は何やら怯えたように、そしてなんとも言えないような表情で松本さんを見ている。
わかるよ、寺垣君。怖いよね、松本さん。
その見た目に反して歯に衣着せぬ物言い。
しかもその殆どは棘と毒がこもっているという。
僕も、松本さんに慣れるのには苦労したよ。
なんて考えていると、寺垣が僕の方へと近づいてきた。
「なぁアッシー。松本さんって、
いやなに素敵笑顔って。
騎士ヶ丘大学に採用されて半年、松本さんの笑顔なんて見たこともないんですけど?
寺垣君、そこまで酔うには早いんじゃないかな?
「お、寺垣君。キミもアレを見たクチだな」
僕か寺垣君の酔いを心配していると、いつの間にか烏龍茶を注文していた高橋係長かニヤニヤしながら割り込んできた。
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