第26話:芦田幸太、叫ぶ
「「・・・・・・・・」
静海さんと寺垣さんは、お互いに視線を合わせることなく無言を貫いていた。
そう、寺垣さんは来てくれた。
「遅くなって、すみません」
そう静海さんに軽く頭を下げながらやって来た寺垣さんだったが、その後はどうすれば良いのか分からないように視線を落としていた。
対する静海さんも、どう話を切り出したら良いのか分からないみたいで、僕の方をチラチラと見ながら押し黙っていた。
いや静海さん。ここはあなたが頭を下げるところだと思うんですけど。
静海さんの行動になんとなく釈然としない気持ちになった僕は、持っていた缶ビールを喉に流し込んだ。
とりあえず話を切り出そうとした僕なりの行動だったのに、寺垣さんは僕を信じられないとでも言いたげに見つめていた。
そんな寺垣さんに、僕は声をかけた。
「こんな時間にすみません、寺垣さん。突然のことで申し訳ないんですけど、その・・・・
寺垣さんはこれまで、静海さ、課長補佐にどんなことを言われてきたんですか?」
僕の突然の爆弾に、寺垣さんの体が硬直した。
無理もないよね。酷いこと言った本人の前で、それを暴露しろって言われたんだから。
寺垣さんは言葉に答えることなく、チラリと静海へと目を向けていた。
「らいじょうぶ。静海さんには口を挟ませないから。ね、静海さん。余計なことは言わないでね」
僕はそう寺垣さんへと言って、静海さんを軽く睨んだ。
なんだか、酔いが回ってきたみたいだ。
「あ、芦田。お前静海課長補佐に当たり強いな」
寺垣さんは静海さんへの僕の態度に若干引きながらも、静海さんを気にしつつ重い口を開き始めた。
「静海課長補佐からはよく、『なんでも人に聞いてばかりいないで、自分で調べなさい』って言われるかな。マニュアルがあるんだからって。
でも、静海課長補佐の言うことも分かってるんだ。
自分で出来ることを聞いてばかりじゃダメなんだって、ここに来る間ずっと考えてた。
こんなことで落ち込む俺が、悪いんじゃないかって」
寺垣さんがそう言いながら、軽く頬をかいていた。
凄いな、寺垣さん。
厳しい事を言われたのに、自分から静海さんに歩み寄ろうとしてる。
それに比べて静海さんは・・・
寺垣さんの言葉にも、静海さんは下を向いたままだった。
そんな静海さんを見ていると、僕の中からフツフツと湧き上がる感情があった。
「静海さん、そんなことを言ったんですか?」
僕は湧き上がる感情を押し殺して、静海さんへと問いかけた。
「え、えぇ、言ったわ。確かに言い方が厳しかったかもしれない。そこは、その・・・謝るわ。
でも、何もおかしいことは言っていないでしょう?」
静海さんの言葉に、僕は・・・
「はぁ!?おかしい事は言っていなゃい!?静海しゃん、それ本気で言ってましゅ!?」
ちょっとキレた。
多分、その言葉を向けられた静海さんだけでなく、寺垣さんも驚いていたと思う。
僕自身、こんな言葉が出てくるなんて思ってもいなかった。
お酒の力って怖いよね。
でも僕は、そのお酒の力に頼ろうと思う。
これまで溜め込んでいた想いを、ぶつけるために。
「ほ、本気に決まっているじゃない」
僕から怒鳴られた静海さんは、恐る恐るといった様子でそれに応えていた。
「はぁ〜〜〜」
それを聞いた僕は!深いため息をついて寺垣さんへと目を向けた。
「寺垣しゃん、知ってます?静海さん、AV機器の扱い苦手にゃんでしゅよ?」
「あ、あぁ。前に芦田がそんなこと言ってたな。芦田が、接続とか手伝ってるって」
段々と呂律の回らなくなった僕の言葉に、寺垣さんは頷いた。
「そーそー!夜中だろうとなんだろうと、呼び出すの!こっちは明日の仕事のために早く寝たいっていうのにだよ!?
そりゃぁね、手伝ってる間、仕事の話聞けるかりゃいいかなぁとも思ってたよ!だけど、マニュアルがあるかりゃ自分で調べなしゃい、だぁ!?
人の寝る時間奪っておいて、よくしょんなことよく言えましゅね!しじゅみしゃんっ!!!」
僕は叫んだ。
そして、その後の記憶はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます