第50話 頑張る思考とテスト本番(1)
テスト前の4日は瞬く間に経過していき、6月前半の金曜日、とうとう中間テストがやってきた。
科目は国語、数学、化学、英語、現代社会の5教科で、それぞれ100点満点のよくある形式のテストとなっている。
テスト時間は一科目につき50分、休み時間は10分と普段の授業時間とは異なり、特別な時間割となっている。
教室を入るなり、いつもより多い人がテスト勉強をしている。
中には友達同士で問題を出し合いながら楽しそうにしている人たちもいるが、それでもこの光景はテストへのカウンドダウンをするかのような雰囲気だった。
(みんなやってるなぁ……俺も社会の暗記にあまり時間を割かなかったからやらないとな。)
自分の席の近くまで来て、珍しく竜がいることに気がついた。
普段から電車の時間の都合で俺より登校時間が遅くなるのだが、流石にテスト前日ということもあって早く来たのだろうか。
「竜おはよう。」
「お、壮太おはよー。どうだ、勉強大丈夫そうか?」
「まぁできるとこまで頑張ったよ。あとは暗記系をここでやって本番に臨むしかないね。」
「おう!お互い頑張ろうな!」
俺は「おう!」と意気込みながら、自分の席に座りテスト勉強を始める。
一番初めは数学だ。
回答初めの合図と同時に問題用紙と回答用紙をそれぞれめくって名前を書く。
ピリついた空気が漂う教室にはシャーペンで文字を書く音だけが不規則なリズムで聞こえ続ける。
(最初の問題は……解ける。基本的な問題だ。ここでミスすると大きな得点差につながるから慎重に……)
序盤はテスト範囲をふんだんに使った基礎問題であり、そこまで苦しめられることはなかった。
(ここからだな。)
テスト用紙の半分を終わらせたところで、問題の形式が一気に変わる。
答えのみを書けばよかった解答欄は、途中式までもを欲しがる大きな解答欄へと変化し、問題も文章題が増えてきた。
(対策はしたはずだし、もし出来なかったとしても途中式だけでも書いておこう。)
テスト前に「答えが出てなくても途中式があってたらその都度部分点を上げるから、くれぐれも諦めるなよ。」と、先生から助言があったのでどれほど部分点でもらえるかは分からないが、わからなかったとしても書く努力をする。
(うわっ……!この問題見たことある!竜に教えてもらったところなのに思い出せない……!)
順調に問題を解いていた手が止まり、そのまま動かなくなる
頭の中の容量タンスを強盗のごとく次から次へと引き出して、竜と勉強会で教えてもらった記憶を呼び覚ます
(なんだっけ……問題はすごく見覚えあるのにどうしても解けない!……モヤモヤする!)
考えれば考えるほど沼にハマっていく感覚がして、自分でも内心焦っている感じが伝わる。
(……今ここで悩んでも時間の無駄だ。先にできる問題を解いて、その後もう一度この問題に戻ってくればいいはずだ。)
俺はできそうな問題を先に終わらせることを優先した。
(……よし、ようやくこの問題に取り組める———)
「止め。鉛筆を下ろして、テスト用紙を回収してください」
例の問題に取り掛かろうとした矢先、全てを打ち切る声が教室全体に響き渡る
気がついたらとっくに50分が過ぎていた。
しまったと思いながらも鉛筆を下ろす
目の前にまだ解ききれていない問題があるというのに……
心残りのあるテスト用紙を集め、早くもテストが一つ終了した。
(やっちゃったなぁ……問題に集中しすぎて時間のこと全く気にしてなかった。)
試験官は色んな教科の先生がランダムに配属されており、ほとんどの先生が5分前くらいに合図をしてくれるのだが、どうやら今回の先生はハズレだったようだ……
「数学のテストどうだった?ちゃんとできたか?」
聞き馴染みのある声に振り向くと、予想通り竜がいた。
「時間配分をミスっちゃって、分からない問題をそのまま白紙で出しちゃってさ……。」
「問5のやつ?」
「そう。せっかく竜に教えてもらったのに思い出せなくて……」
ガッカリしていると竜がスッとラムネを差し出してきた。
「終わっちまったもんは仕方ねぇ。次に備えるのが大切さ!次は……国語だな。漢字とか古文とか、とにかく詰め込まれるもんは頭に詰め込んどけ!」
竜に励まされ、気持ちがスッと軽くなる。
(確かに、いつまでもできないものを引きずるより、今は次あるものに備えたほうが挽回のチャンスがある。)
俺は竜からラムネを一粒もらって口に放り込む。
シュワシュワした感覚が口の中で広がり、頭がスッキリする。
「ありがとう。まだ他のテストもあるから頑張らないとね。」
「そうだ!頑張りたまえよ!」
俺は漢字の問題集を開いて最後の確認をした。
2限目は国語だ。
配られた問題からは息が詰まるような文章の数々が透けて見えたが、そこまで焦る必要はない。
(授業で習った範囲の問題は一通り読み返したし、授業で配られたプリントもちゃんと復習した。)
解答はじめという合図とともに一斉にプリントをめくる。
案の定長い文章が連なっていた。
しかし、俺はそれを一旦スルーする。
向かう先は問5、漢字を問われる問題だ。
(こういう小問集は初めのうちにやっておかないと文章問題で躓いて時間がなくなった時が大変だ。それなら早いうちに解けばいい!)
俺は全ての文章題を飛ばして漢字の問題から取り組んだ。
(よし、多少わからなかったところもあったけどなんとかなった!文章題の方に行こう。)
文章題構成はおそらく説明文、物語文、古文の構成で出してくるだろう。
物語は得意だが、古文は自信を持ってできる分野ではない。
(説明文と物語文をなるべく早く解いて古文の時間を多く取る感じでいこう。)
早速俺は文章を読み始めた。
「残り10分です」
試験官の合図にたられて時計を見る。
(残り10分、ちょうど古文の文章を読み終わったし、時間配分は良さそうだ……)
早速古文に取り掛かる。
3問まで楽々解けたが、ラスト2問で筆が止まった。
(……解答の選択肢でも文章を読ませてくるのか)
立ちはだかったのは全ての選択肢が2行以上ある文でできた解答の選択問題だった。
俺は時計をチラリと確認する。
残りは約5分
(読めっ、読め、読むんだ!)
目を見開いて高速で読んでいく。
書かれている問題があっているか本文と照らし合わせながら、順番に答えを絞っていく。
過ぎていく時間が気になり過ぎて気が散ってしまうが、とにかく必死で読んだ。
「そこまでっ!解答をやめてください。」
試験官の言葉が響き渡る
俺の解答欄は————最後まで書き切っていた。
(危なかった……多分だけど答えを導き出せた……)
やり切った感覚で疲れが一気に体を伝わる。
緊張が一気にほぐれ、眠気が俺を襲う。
解答を回収した後、その場に伏せる。
(なんとかなった……あんまり自信ないけど、書かないより可能性はあるから大丈夫。)
午前中の時間はこれで終了。残すは英語、化学、選択理科、社会のみとなった。
「昼休憩とします。各自自分の席で昼食をとってください。」
こうして、高校生活初めての大型テスト、午前中の部は幕を閉じた。
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