第49話 努力の思考とテスト前
本格的にテストまでの期間が短くなり、クラス内でも少しずつ雰囲気が変わり始めてきた。
部活はテスト週間だけなくなり、家に帰っては勉強の日々だ。
(テストまであと4日……数学に力を入れすぎて英語と化学があまり進んでないな……)
計画表通りになるよう頑張ったのだが、ギブアップする日やゲームをしすぎてノルマ達成できなかったりする日があったせいで、スケジュール全体が後回しにされている状態だ。
クラス内のあちこちで聞こえる話題内容もゲームやテレビの話とは打って変わってテストの話で持ちきりとなっている。
(今日は……いい加減腹をくくって英語の方を重点的にやるか…。単語も覚えれてないし文法も苦手なんだよな。)
自分の机で険しい顔をしながら予定を練っていると右肩をポンと誰かに叩かれる
前の席に竜がいないから思わず(竜か……?)と思ったが、振り返るとそこには黄泉菜がいた。
「あれっ、黄泉菜さん。おはよう。」
「おはよう壮太くん。」
黄泉菜と建前上の交際を初めて数週間、俺もだいぶ緊張が取れて自然と黄泉菜と話せるようになってきた。
ただ、いまだに名前の呼び捨ては出来ていない。
頭では呼び捨て頑張ろうとしているのに、本人を目の前にするとどうしても焦ってしまう。
「どうしたの?」
「ちょっと勉強で躓いちゃって…今日の帰りにでも教えてくれたらなぁって思って。」
俺は一瞬戸惑い、「僕が教えれる範囲なら教えるけど……」
「ありがとう、それじゃあよろしくね。」
黄泉菜はそう言って機嫌良くイツメンの方に戻っていく。
(黄泉菜も勉強面で困ることあるんだな……やっぱりみんなテストに向けて頑張ってるなぁ。)
甘く見ていたわけでもないが、自分が頑張ってテスト勉強をやっている分相手も同じように勉強をしている。
自分の中ではたくさんやったと思っていても他の人からすれば当たり前だと言う人もいるだろう。
そんなことを考えていたら俄然やる気が出てきた俺は、あえて苦手な教科である英語の教科書とノートを机に勢いよく開き、勉強を始めた。
そんな矢先、竜がいつものテンションで登校早々俺に絡んでくる。
「ようよう!壮太!勉強頑張ってるかい?」
馴れ合いで背中を叩かれるが、コイツいつも力加減がおかしいんだよなぁ……
ヒリヒリする背中を押さえて、
「今からやろうとしてたとこなのに、タイミング悪いなぁ」
竜は「お、それはすまんな!」手を合わせて軽く謝りながらぶっきらぼうにリュックを置き、自分の席について俺の方を向く。
竜は俺の前の席だ。初めて出会ってインフルエンザいじりをされてから頻繁に話すようになったのはこの先のおかげかもしれない。
「英語ねぇ……覚えなきゃいけない単語とか多いし大変だよなぁ。」
「なんで他人事みたいな言い方?」
俺は半眼になって竜に軽いツッコミをし、
「全体的にヤバいんだけど、数学は竜が教えてくれたからなんとかできるようになったよ。ありがとう。」
「それはよかった!正直教える方も勉強になってるから案外助けられてるんだよな。分からないとこあれば教科とか特に指定なくジャンジャン聞いてくれ!俺がわかる範囲で教えてやる!」
褒められて気分上々になった竜が意気揚々と話す
褒められて調子に乗りすぎるタイプだからあまり褒めてはいけないのだが、助かっていることには変わりないからな。仕方ない。
一度授業で行った範囲を思い出しながら英文の和訳を行なっていく。
そしてその様子を竜が楽しそうに見つめている。
「……竜は勉強しないの?いくら勉強ができても心配にならない?」
「そりゃあ心配になるけどよ、俺なんつーか、クラスの中で勉強とか苦手なタイプなんだよな。授業はいいんだけど……休み時間とか?そういう時間に勉強やってると邪魔が入ったりして思うように集中できないからな。」
「確かにそう言われればそうなんだけど……」
あまりにも芯が通ったことを言われて何も言い返せなくなった俺に、
「別にクラスで勉強をしてる奴を批判してるわけじゃないからな?落ち着ける場所とか集中できる場所って人それぞれだからさ、俺はこういう休憩時間なら単語帳だけで事足りるかなって感じだ。」
そう言って竜は机の横に置いてあるカバンから単語帳を取り出して俺に見せた。
普段からやんちゃで勉強とは無縁な性格だと思っていたが、裏では計画性を持ってちゃんと取り組んでいる姿に正直少しだけ尊敬する。
「そうだね。それぞれのペースで最後まで頑張ろう。」
「おう!困った時はいつでも聞きな!」
頼れる竜を勉強の助っ人につけて、俺は今日も勉強を頑張るのだった。
授業、掃除、ホームルームも全て終わり、解散のチャイムと同時にクラス中がどっと賑やかになる。
「部活に行く——」「早く帰って勉強——」
そんな声が飛び交う中で俺は一目散に帰る準備をしていた。
(黄泉菜が勉強を教えて欲しいって言ってたからとりあえず帰れる準備だけしておこう。)
スマホの電源をつけると一件の着信が来ていた。
黄泉菜から『帰りの通学路にあるスーパーにフードコートがあるんだけど、そこで勉強教えてもらってもいい?』
俺は『そうしよっか。正門前で待ってる』とくだけた文を送って正門まで足を運んだ。
「ちょっと遅くなってごめん!」
正門に到着して数分後、聞き慣れた声と同時に黄泉菜が小走りしてくる
「大丈夫、そんな待ってないよ。」
俺は走ってきた黄泉菜を少し休憩させたのちに「じゃあ行こう。」と提案して二人で帰り始めた。
一応恋人というか、契約恋人というか、そんな関係になってから数週間、始めは二人で帰ることをだいぶ意識していたが、次第に肩の力も抜けていき、今は特に気にすることなく二人で下校をしている。
初めは緊張で敬語しか喋れなかった俺も、黄泉菜のフレンドリーさに助けられてタメ語でも話せるようになった。
「今日はいきなり勉強を教えてなんて無茶振り言ってごめんね。」
「全然いいよ。だけど僕もあんまり勉強得意じゃないから教えれなかったらごめんね」
なるべく人通りの少ない通学路を二人で見つけてからはその道を通学路にしている。
閑散としている道というわけではないが、駅までの最短道のりじゃないことから学生はあまり通らず、俺らにとってはうってつけの道だ。
「そういえば勉強の進捗、どう?」
「どうって言われてもね……数学があまりにも出来なかったからそのせいで他の科目に手が回らなくてさ、ちょっとヤバいかも。」
「数学ね。できるのが当たり前みたいな雰囲気でどんどん進んでいくから公式を覚えるだけでも大変よね。」
「そう!それなんだよ……」
二人でテストの話で盛り上がっていると、いつの間にか目的地のデパートの前まで来ていた。
「とりあえず入りましょう。」
黄泉菜に誘われて、俺と黄泉菜はデパートのフードコートへと足を運んだ。
このデパートは地域の中では割と大きな建物で、駅から近いことや学生が通いやすいことから地域の中では憩いの場となっている。
地元ではないので物価が安いだとかあまり気にしたことはないのだが、学生の休憩所としてはなかなかいい地位を得ている気がする。
俺と黄泉菜はエスカレーターに乗って二階へと足を運び、フードコートの端の席に座った。
「ふうっ」と小さなため息をついて、黄泉菜は準備よく勉強道具を取り出す。
俺も朝から勉強していた英語のセットを取り出して勉強ができるようにセッティングする。
「そういえば黄泉菜は苦手な教科とかあるの?」
「私?化学が苦手ね。もともと数学もそこまで好きなわけじゃないから化学の計算問題はちょっと嫌いだわ。それこそ今日壮太に聞こうと思ってた問題も化学なの。」
そう言って黄泉菜はノートと教科書を俺の方に向けて、途中で終わっている式を指差した。
「あぁ……物質の計算ね。僕もそこまで好きってわけじゃないけど……」
俺は黄泉菜から見せてもらった教科書の問題を自分のノートに解いて黄泉菜に見せる。
「多分ここが抜けてるんだと思う。応用問題になると問題文に書いてある数字だけじゃ答えを出せない時があるから、ここを注意すれば、あとは黄泉菜が書いてた公式に当てはまるだけで出来ると思うよ。」
「本当ね。確かに問題で問われてるものと数字が合ってない……わかった。ちょっとやってみるね。」
黄泉菜はノートと教科書を自分の方に戻してカリカリと問題を解き始める。
(お、教えれた!初めて人に勉強を教えた気がする!)
正直とても嬉しい。
勉強がもともと得意ではなかった俺にとっては勉強を教えられる立場が精一杯だった。それが今ではあの黄泉菜に教えることができるようになった——たまたまできる問題を聞かれただけ——のだ。
「……できた。こうでしょ!」
黄泉菜が自信満々に見せてきたノートには綺麗な字で書かれた正しい式と答えが書かれていた。
「そう!問題を注意して読むことでミスも減ると思うから、他のもやってみたら?」
「そうね。今ので自信が持てたから、頑張ってみるね。」
こうして俺と黄泉菜は夏先の日が欠け落ちるまで時間を忘れて勉強をするのだった。
残り4日しかないタイムリミットを、壮太と黄泉菜はラストスパートをかけて猛勉強するのだった。
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