第48話 新しい思考と派閥争い

「羊くーん、テスト期間きちゃったねぇ〜」


だらけた声を発しながら三巳伸也が俺、寺島羊にくっついてくる


「だな。テスト範囲も多いけど、ここでいい点取っとかないと後々キツくなるからな。」



高校に入ってすぐの授業は勉強のハードルが一気に上がった感じがしてついていけるか心配だったが、ここ1ヶ月ほどで随分授業にも慣れてきた。

それでも中学校とは明らかに専門的な分野を高速でやっていく高校には俺もまだ追いつけない部分もある。


「そういえば羊って英語得意だよな。」


「まぁな。」


「なぁ今度俺に教えてくれよ。代わりに化学教えるから。」


そう言って伸也は英語の単語帳をポンポンと叩く。


俺は英語が得意で、伸也は化学が得意。

その得意分野を互いに教え合えば、効率的にもいいだろう。


自分の長所を生かして教え合いが出来るのはとてもいい案だと思った。


「しんちゃんようちゃん何話してるのー?」


獅ノ亥鈴ししのいすず鳥河凛とりかわりんを連れて来て四人が揃い、見慣れたメンバーになる。



「テストの話だよ。初めてだからどんな問題形式してるかわからないし、ヤバいよな。」



鈴はその話を聞くなり「うっ、私はその話パスでぇ…」といいながら引き下がろうとするが、凛に背中を掴まれて逃げられなくなる


鈴はどちらかと言うと勉強が出来ないタイプで、小テストも受かるか受からないかの状況だ。


「まだみんなの頭の良さとかわからないからね。とりあえずこの1回目はみんなの出来を見るのも策略かなって思うの。」



確かに凛の意見がもっもとだ。

まだこの高校生活を送り始めて1ヶ月半、みんながどれくらい勉強できるのか、誰が頭がいいのかは具体的な数字では出ていない。

何となくみんなの授業態度から勉強が出来そう、出来なさそうを決めているだけだ。


案外普段は馬鹿そうな人でも地頭が良かったり、暗記が得意で高得点を取れる人もいれば計算が得意で数学が異常にできる人だっている。それこそ普段の行動では読み取れないものだ。


(その点で言えば凛は頭いい部類だと思うんだけどな。)


俺はそう考えながら凛を見る

俺の幼馴染で物静かな彼女は昔から頭が良かった。もちろん今もなのだが、クラス全体で見たとしても上位の方にいるだろう。


「俺的にはやっぱり竜が心配だな」


伸也がそう言って壮太と話している竜をチラッと見る。


深夜の発言に続いて鈴も呆れた様子で、

「たっつん授業中うたた寝してる時あるし、あんまり勉強が得意そうなイメージないもんね。」


竜は壮太と何かの話題で盛り上がり、爆笑していた。

その楽しそうな雰囲気についついメンバーの視線が竜の方にいく。


「あいつら楽しそうだな…」と伸也が竜たちを見て呟いているのを聞き、俺は無性に腹が立ってくる

(イライラすんだよなぁ……)



壮太は決して悪くないはずなのに、なぜかあいつを見るとイライラしてくる。

竜と楽しそうにしている時は尚更だ。

原因は俺らのグループよりも楽しそうにしているのが気に食わないこと。

その原因がわかっているのだが、そんなしょうもない事でイライラしてる自分を受け入れるのが嫌だった。



「なに〜羊くん。壮太君が竜と楽しそうに喋ってて羨ましいの?変な顔になってるよ?」


自分で感情が制御できていない弊害として表情に表れていたらしい


俺は自分を否定するように手で口元を隠し、

「だから…そんなんじゃねぇって。何で俺があんなモブにイライラしなきゃいけねぇんだよ…」


「そんなに二人が楽しそうに喋ってるのが嫌なら羊も混ざればいいのに…」


そう言って伸也は壮太と竜のある方へと向かっていき、すんなりと二人の輪に入っていった。


伸也のその姿と言葉を聞いて今度はいつまでも否定し続ける自分に情けなさを感じる


(……そんなのわかってるさ。けど自分に負けた気がして嫌なんだよ)



俺は伸也が竜たちのグループに入っていく姿を、現実逃避するかのように目を逸らした。












「たつぅ〜なんか面白いことでもあったかぁ?」


ゲラゲラと笑う竜に伸也がペタッと背中に張り付く


「伸也か!いやぁ壮太がさぁ、風呂入ってる時に眠すぎて気づいたら1時間くらい入ってたらしくてよ、やばくねぇか?」


竜は伸也に説明して、また爆笑する

壮太にはどこが笑える話なのかわからず、爆笑している龍に困惑していた。


「本当お前、ツボがわからんなぁ」


「うっそだお前、普通爆笑ものだろこんな話!風呂に1時間入浴はもう温泉じゃねぇか」



……どこからその発想がきて、どうしてそれが面白いのかは誰一人としてわかっていないが、話してる本人が面白そうならそれでいいか。

伸也は爆笑する竜を落ち着かせてテストの話を持ち出す


「それよりお前、テストは大丈夫なのか?」


「テスト?俺は大丈夫だぜ!やれば出来る子だからな。」


壮太はその言葉に納得したが、伸也は何を根拠にそんな自信が湧いてくるのか分からなそうに戸惑っている。

たしかに普段から真面目キャラというよりもお調子者の方が似合う竜を見てみれば勉強が出来なさそうなのもなんとなくわかる。



「壮太くんはどう?だいぶできてる?」


まだあまり話したことがない伸也からいきなり話しかけられたことに壮太は、あからさまにビクッとなったが「ま、まぁまぁ出来てるよ。ちょっと数学で苦手なところもあるけどね。」と普通に話す。



「お、何だ壮太またわからない問題あったか?どうしてもわからなかったら聞いてくれよ〜」


竜は気軽に勉強を教えようとするが、伸也にはそれが衝撃的だったらしい。竜の背中であからさまに驚いている。


「え、お前人に勉強教えれるほど頭よかったっけ」


竜の頭の良さを知らない伸也に壮太は竜に教えてもらったことを伝える。

「伸也君、竜実はめちゃくちゃ頭いいよ。僕のわからない問題ほぼ全て解説込みで教えてくれるからね。」


伸也はそれを聞いてオーバーリアクション並みにびっくりする。


「えぇ竜まじか!?お前そんなに頭良かったのか!?それならもっと早く教えてくれよ。」


「ちげぇよ俺が頭悪いみたいに思ってるのがいけないんだわ、人なんて見た目と性格だけで判断できるほど単純じゃないぜ?」


とは言っても授業は寝るしいつも遊んでるイメージしかなかった竜が頭良いなんて想像がつかない。

普段バカそうな竜が急に真面目そうな事を言うもんだから、壮太も伸也も二人して笑った。















視線を逸らして現実逃避をしていても、楽しそうな会話が自然と耳に入ってくる。


(なんだよ伸也…お前も結局壮太かよ。ふざけんじゃねぇよ…)


さっきまで俺にくっついていたあれは何だったんだ?…機嫌取りでもしてんのか?

考えれば考えるほど、このイライラを引き起こしている壮太に腹が立ってくる。


(何であんなやつにみんな引き寄せられるんだよ…何で俺はみんなから離れていっちゃうんだよ…何なんだよ…)



プライドと本音

互いに違う意見を持っているからこそぶつかり合い、蹴落とし合い、俺の感情が成り立っている



どちらも両立する事がない…いや、両立させてくれないのも俺のプライドなのかもしれない。



プライドって何だよ…何でそんなくだらねぇ事で俺はいじけてるんだよ

無くしたいのに無くならない。

俺が俺自身を縛って生きづらくしているんだ。

わかってる…わかってるさ。だけどプライドなんてどうすれば直るのか分からない。

結局俺はこの悩みと共に生き続けるんだ———



「ねぇようちゃん、そんなにイライラしないで。」


どこからか凛の声がする

振り返ってみると案の定凛がいた。



「…なんだよ。自分勝手で悪かったな。」


機嫌が悪い時の癖で人と距離を取る様な話し方をするが、凛は全く動じない。

むしろ今度は圧をかけて話してくる。



「羊、もう少し頑張ってみてよ。私は羊が自分の心と戦ってるのはよくわかるし、そういう羊を何回も見て来たから。」



その言葉にガッと心を掴まれた。

昔から一緒にいて、いつもそばにいて、なんだかんだ支えくれているのは凛だった。

こんなプライドの塊で本音すらまともに出した事がない俺を、凛は何回も受け止めて、相談に乗ってくれて、上手に丸めてくれた。



「お前に言われなくてもわかってるさ…壮太はいいやつだし、別に誰と喋ったっていいことぐらい分かってるんだよ…」


俺はギリギリ凛が聞こえるくらいの声量でモゴモゴと喋る


「でも…どうしても無理なんだよ。俺が俺を拒否して、そして壮太を拒否する…何なんだよもう……」


凛も羊の本心を見て心が痛む

何回も見て来たからこそ、どうしても治らない羊のプライドは本当に苦しそうに見える


それでも凛は、

「分かってるならあと少し。あとは、自分で自分を説得するの。今じゃなくていい、ゆっくり自分のペースでやるの。羊ならきっと出来る」



その言葉が俺の心に大きく響く

いつも支えてくれる凛のおかげで、俺は今回も自分と向き合える





「………凛、ありがとう。」




俺は感謝を込めてその言葉を送った。



凛は羊の言葉を聞いて安心し、「それだけ。」と言って自分の席へと戻っていく








最高のイツメンで、最高の仲間

そんなメンバーに、壮太を入れてあげたい


自分が犯した罪を、そこで精一杯謝りたい。

自分勝手なプライドを捨ててもっと人に優しくしたい。




羊は今日も自分と葛藤するのだった。

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