第47話 頑張る思考とテスト週間(3)
竜と勉強会の約束を交わしてからの一日はなんとも早いものだった。
初めて誘われたことに喜びを感じながら授業を受ければ、いつもはあんなに長ったらしくて面倒くさい授業も今回ばかりはパッパッと手際よく終わったように思えた。
楽しみなことを考えていると時間があっという間に過ぎるというのはこのことを言うのか。
気づけば放課後、すでに掃除も終わりいつでも帰れる時刻になっていた。
(こりゃ参ったぜ…たった一つの約束を交わしただけなのにこんなにも時間の流れって早く感じるものなんだな…)
正直一番驚いているのはこの摩訶不思議な体験を今現在身に染みて感じている自分自身だった。
「ういーっ、壮太〜帰ろうぜぃ〜」
いつものようにハイテンションで駆け寄ってくる竜だが、今回ばかりは俺も竜のテンションについていけそうな気がした。
「オーケー!ちゃんと勉強するぞー!」
「おぉ!?今日はやけにテンション高いな。よし、そうと決まればちゃっちゃと帰ろう!」
明らかにいつもと違うテンションで異様な盛り上がりをする壮太に竜は一瞬戸惑った顔をしたが、すぐにそのノリについてくる。
俺と竜はいつもは重たく感じるリュックを軽々しく背負って足軽で下校した。
駅につき、いつもとは違う反対のホームへと移動する。
別に電車に乗るのには変わりないのだが、行き先が違うとこんなにも気持ちが高まるのか。
正直ワクワクする
電車に乗り、良さげな位置を陣取って二人で座る
乗っている人数もいつも乗っている電車となんら変わらなかった。
「いやぁー、前々から誰か俺ん家に呼ぼうとしてたからナイスタイミングだぜ!」
「僕も高校入ってからそんなに遊ぶこともなかったし、自分の家の周りから離れることが少なかったから楽しみだよ。」
「だよなぁ!家着いたら何やろうか…」
「ん?…勉強だよ?」
勉強会の約束で来たのに竜は勉強という言葉を聞いた瞬間に物凄く嫌そうな顔をした
あれ?勉強会をするって言う項目で行くはずでは…
「え…マジ?」
「テストまで二週間しかないんだよ?竜も全然やってなさそうだし…まずはちゃんと勉強するからね?」
こんな時でも頑なに意志を曲げない俺に竜は「勉強…めんどい…」と小言を言いながらもなんとか勉強する流れに持っていけた。
心地よい電車の揺れに揺られること約40分、ようやく目的の駅までやってきた。
今日は竜と喋りながら電車に乗っていたので体感時間は早く感じたのだが、毎日40分の通学はなかなかにしんどいと思う。
「ついたぜ。」
「この距離を毎日…竜もなかなかの時間をかけて通学してるね。」
「そうか?なんかもう、慣れちまった」
時間なんて慣れるものだろうか…
ゆっくりと電車を降りて改札を出る
立松高校周辺は市街地もあったりして田舎さを感じなかったが、ここまで電車に揺られて遠くまでくるとどこかほのぼのとした雰囲気が伝わってくる
ビルしか見えない風景とは違い、奥に山が見え、交通量もそこまで多くない
「俺ん家はここから歩いて5分くらいだからすぐ着くと思うぜ」
「じゃあ、道案内よろしくね。」
そう言って俺は竜の後ろをついていった。
「ここが俺ん家。」
大きな道路から外れた小道を進んでいくと、昔ながらの木造建築というよりはモダンな外装で白黒ベースの綺麗な家が建っていた。
周りの木々を上手に取り入れた造りで綺麗に馴染んでいる
「家には誰もいないと思うけど…ちょっと待っててくれ、一応確認してみる。」
そう言って竜は家の中に入っていく
(高校生になって初めて家に呼ばれたな…ちょっと新鮮)
中学生時代もあまり人の家に行って遊ぶことがなかったため、久しぶりすぎて少し緊張する。
ソワソワしていると竜がドアを開けて飛び出てきた
「大丈夫!入っていいぜ」
俺は竜に誘われるまま家の中へと入っていく。
「お邪魔しますー」
玄関に入るだけで内装の凝り具合がすぐにわかる
(おお…き、綺麗だ…)
明るい色で出迎えられた玄関におしゃれな階段など、自分の家とは違う内装を見るだけでワクワクしてくる
「とりあえず俺の部屋行くか。」
竜に連れていってもらい、階段を登り竜の部屋へと案内してもらう
扉を開けると想像以上に整った部屋が目に入る
「…めっちゃ綺麗じゃん」
俺は自分の部屋と竜のへやを勝手に比べてしまい、思わず褒め言葉を漏らす
勉強机にマンガの入った本棚、大きなベッドにはゲームキャラの人形がかわいらしく置いてある
趣味に特化したインパクトの強い部屋というよりも、上手にスペースや自分の好きなものを置いたりしていて空間を上手に使った部屋割りが特徴的な部屋だった。
(思ってたよりも整頓されてる…)
いつもハイテンションで陽気な竜の部屋だから、もっとマンガとかジュース缶とかが散らかっていて片付けができない人のような部屋をしていると思ったのだが……人は見た目や行動によらないな。
竜は机の横にある小さなスペースから折りたたみ式のちゃぶ台を引っ張り出して広げる
「とりあえずここでやるか?」
「そうだね。何から何までもありがとう。」
人に迷惑かけることもよくあるが、それと同じくらい周りへの気配りが上手な竜は、欠点がほぼないと言える完璧人間だ。
俺は自分のしょぼさに肩を落としながらも竜に用意してもらったちゃぶ台の上に勉強道具を出す。
竜も勉強道具を出して、ふたりが対面する形で勉強を始めた。
「壮太は何の教科をやるんだ?」
「数学かな。昨日こっぴどくやられて覚えれてないのが痛感したからね…」
そう言いながら取り組むが、最初からペンが止まる
答えを見て解法を確認するのもいいのだが、やはりいきなり答えを見るのも躊躇ってしまう。
「なんだ、初手で詰まってるのか?」
竜が数学の勉強道具を取り出しながら俺の様子を伺う
「ちょっと前にやったはずなんだけどね…」
「教えてやるぜ。それはだな……」
竜が丁寧に解説してくれるおかげですんなり解けた。
むしろ竜の説明でよくわかったかもしれない。
「そういうことだったのか…先入観に囚われすぎてたかも」
「あるよなー。でも基本的にはこの公式に当てはめれば答えは出ると思うぜ。式が違うように見えるけどほとんど原型はこれだからこれさえ覚えとけばなんとかなる」
「ありがとう。やってみるよ」
竜の教えを受けて今度は自分で解く。
わかりやすい指導と説明であっという間に苦手だった単元を復習することができた。
「できた!思ったより簡単だね。先に当てはめればほぼ導き出せるじゃん!」
「そうそう!式が多いって考える人が多いんだけど、ちょっと頭を捻って考えてみるとそうでもないんだよな。そうやって楽していくのがベストだぜ」
竜先生の教えに俺はすっかり夢中になっていた。
「6時か…そろそろ帰らないと。」
時間を忘れて竜と勉強をしていると、いつの間にか6時になっていた。
今日1日で随分と力がついた気がする。
竜先生ありがとう
「駅まで送るよ。」
片付けも終わり、リュックを背負った時に竜が提案する
申し訳ない気持ちもあったが、優しさに甘えて送ってもらうことにした。
帰りもしっかりとついてきてくれる竜に感謝しながらも、俺は初めての竜宅を後にした。
「ここまででいいよ。わざわざありがとう。」
楽しみにしていた勉強会は勉強をしているはずなのに、あっという間に終わってしまった。
「今日は勉強会してくれてありがとう。なかなか数学で抜け出せなかったから教えてもらえて本当によかった。」
「そんな…言ってくれればいつでも教えるぜ?テスト前は部活もなくなるって聞いたし、分からないとこがあれば遠慮なしで聞いてくれ。」
何から何まで頼れる竜に今は嫉妬心など到底湧くことがなく、尊敬する存在になっていた。
改札前で話していると電車到着のアナウンスが流れる。
「それじゃあ行くよ。今日は本当にありがとう。」
俺は竜に手を振って改札を通った。
新しい友達と、新しい場所で、何もかもが新鮮な勉強会は俺の中でとてもいい思い出となった。
「ただいまー」
家に着いたのは7時半、竜の家と方向が反対だから電車で帰るだけで1時間かかった。
そう考えると頻繁に行くのはあまり現実的ではないが、たまにお邪魔する分にはいいだろうとも考えている。
なにがともあれ、今日はとても充実した1日になった気がする。
竜との親密度が高まった喜びと、勉強がわかった嬉しさに包まれて、俺は今日1日を有意義に過ごした。
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