第46話 頑張る思考とテスト週間(2)
幸福とやる気に満ち溢れた感情を持ちながら、俺は日が沈みかける頃に帰宅した。
自分の部屋へと直行し、リュックを下ろして制服を脱ぐ
無性に力んでいた肩の力がふっと抜けてスルスルと制服を脱いでいく。
いつもと変わらない帰宅時のルーティンをしているはずなのに、俺の気分は満更でもなかった。
(だいぶ重い気持ちで考えていたけど、プレッシャーに負けるのも良くないよな。軽々しく思うのも良くないが、重く考えすぎるのは逆に俺の悪い癖だな。)
黄泉菜に言われて自分がまだ見ぬ敵に吠えているだけの存在だと思い知らされた今、俺はもう少し自分のことを知らないといけない気持ちになった。
そんなことを考えながら俺は夜ご飯を食べるために自分の部屋を後にした。
ご飯を食べ終わり、程よい休憩を取った後で俺は再び自分の部屋へと戻る。
少しだけ空いている窓から熱風を感じる俺の部屋は、俺に初夏の合図を送っている
俺はそんな便りをもらいながら、帰ってきてから手一つつけていないリュックを開けてテスト範囲の紙を取り出す。
改めてどの教科がどの範囲で出題されるのか、机に置いた後で俺はゆっくりと椅子に腰をかける。
たった一枚の紙きれだが、そこには呪文のようにテスト範囲が記されている。
今見てもすごい量だ。
中学の時とは違い、どこまでの範囲が出題させられるのか明確に決まっているのはありがたいが、果たしてこの膨大な範囲をどのようにこなしていけばいいのか…
しばらく範囲表と睨めっこしたのちに、苦手な教科に印をつけておおよその計画を立てた。
「どう考えても絶対に復習しないといけないのは数学だよな…」
毎日のように新しい知識を詰め込もうとしてくる数学はいくら授業でわかっていても次々と押し寄せる新たな公式や解き方に呑まれて知らない間に忘れているはずだ。
そもそも数学だけでも膨大な知識を叩き込まれるのに英語も理科も社会も全くもって容赦ない。
中学の勉強が可愛く見えるほどに高校の勉強は過酷だ。
「次に難しいのは英語だな。」
「社会は…暗記教科だもんな。毎日少しずつやるべきか。」
そんな感じで自分なりに勉強順序を立てていく。
こんなにやる気なのも今だけなのかもしれないが、それでも今やらなければ後がないと判断して俺は自由気ままに計画を立てていった。
「まぁこんなもんだろう。」
テスト二日前くらいの予定を空け、大まかな道筋を立てた。
正直なところこうやって計画を立てても結局はサボったりしてやらなくなるのは予想がつくのだが、それでもなんだか計画を立てると達成感が感じられる。
「さて、今日から始めますか…!」
椅子を後ろに引いて手足をぐっと伸ばし、固まった体を伸ばしてから俺は苦手教科の数学から手をつけた。
次の日
俺は……
他の誰が見ても明らかなほどに疲れ切っている姿で朝を迎えた。
(嘘だろ…授業の時はあんなにもわかっていたのに今やるとなんで全て忘れているんだ…)
昨日の数学にこっぴどくやられた俺はその悔しさと不安から十分な睡眠を取ることができなかった。
たった一夜過ごしただけなのに断食をしたかのように顔は心なしか細く見え、明らかにイメージカラーが青色になるほどのナイーブな空間が俺の周りにだけ存在する。
そんなげっそり顔を披露したまま俺は渋々学校へと向かった。
ぽてぽてと通学路を歩く
春先に満開だった桜は青々とした葉をたくさん生い茂らせている
日の光はだいぶ強くなってきて、俺の体をホカホカに温める
だかそんなことはお構いなしに俺は今身につけているナイーブな空間と共存しながら学校へと向かうのだ。
「おはよーーっ!……って、なんだそのげっそり顔」
朝から竜に見つかってしまった。
なんとなくくるのはわかっていたが、いざこういうテンションの下がった時に竜が乱入すると俺の感覚がおかしくなる。
竜は俺とは正反対の猛烈なテンションを見せつける。
どうやったらそんなテンションで毎日いられるのか脳内解剖して知りたいくらいだ。
俺は竜が来てもお構いなしのテンションで絞り出すようにその喉を細めて嘆いた
「数学でコケた……」
「数学でコケたって…それでもそんなテンション普通なるか?」
苦労を知らなそうな顔で俺に質問してくるのを俺は羨ましく思いながら呟く。
「僕の学力ならなるんだよ……竜はちゃんとやってるの?」
急な話題転換で竜の方に話が向いた途端、竜は俺の言葉にビクッと反応して謎の汗をかきはじめる
その姿に俺もなんとなく察しがついた。
「お前…大丈夫なのか?」
「いや!なんとなくやってるさ!なんとなくな…そ、そもそもやる気が出ねぇんだよ!」
精一杯自分が受けるダメージを緩和しているが、かなり無理があるだろう…
「やってるのかやる気が出なくてやってないのかどっちなんだよ…」
「やってる!……やってる?……いや、そこまで………」
明らかに声のボリュームが小さくなっているのがわかる
こういうところで竜は意外にも嘘をつかないタチだ。
「やってないのね。」
俺は呆れながらも竜の言い訳に少しだけ元気をもらった。
こうして二人で他愛もない話で盛り上がりながら学校へと向かう
お互いに乗っている電車は違うものの、着くタイミングが三分程度しか違わないため駅からは二人で通学することが多い。
俺は竜の不死身なハイテンションに力をもらい、次第にナイーブなテンションも消えて足取りも軽くなった。
「しっかしあれだよな、いい感じの休みが終わった後すぐにテストの範囲表を出すとか鬼の所業だと思わねぇか?」
「確かに…でも中間テストと期末テストの日にちを考えるとまぁ妥当な頃合いだと思うけどね。ゴールデンウィークで日々の学校生活での疲れを癒して、そこからまた引き締めろって魂胆なのかもね。」
「うげぇ、そんなことしたって俺ら喜ばねぇのにな。なんならテストまるまる一個潰してくれたら俺らは先生に抱きついてチュッチュでもしてやるのに。」
「いや、竜のキスをもらっても先生は喜ばない気がするんだけど…」
そんな感じの会話をしながら登校することはや一ヶ月、俺もだいぶ竜と仲良く話せるようになり、なんとか初手のインフルエンザで休んだ一週間も取り返してきた。
勉強面以外の話だが…
しばらく歩いたところでようやく学校が見えてきた。通学路は自由でどの道から行っても何も言われないが、俺らは少し独特なルートを辿っているのでみんなが使う通学路とは違い、最後の一直線で学校の門が見えるルートになっている
そこまで来て竜が何かを思い付いたように俺に提案してきた。
「そうだ!壮太、今日の放課後とかって空いてるか?」
「今日?んー、特に何もないと思うけど…」
「よし!それなら今日俺ん家で勉強会だ!やっぱり人がいると俺だってやる気出るし、壮太も勉強できて一石二鳥だろ?」
(確かに…誘われたこと無かったから分からないけど竜の話を聞く分には勉強会をするのもありな気がする…)
親へはLINEで後から連絡をできるし、何より呼ばれたことが初めてな俺にとっては断る理由もなかった。
「じゃあ、今日の夜行ってもいいかな。」
「もちろん!ぜひウチに来い!」
まだ日差しが本気を出さない朝方に、俺と竜は勉強会の約束を交わしたのだった。
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