第7話 驚く思考と例外続行(2)
教室のような部室に黄泉菜が入っていく。
それに続いて俺もゆっくりと入っていった。
部屋の中は完全に空き教室だ。
教室にあるような机や椅子は隅の方に寄せられていて、真ん中に大きな机、あとは部員それぞれのスペースのようなものがあった。
「失礼します。部活見学に来ました。心理部は今日活動日ですか?」
黄泉菜は冷静に対応する。
しかし教室は電気がついていなく、人の気配もない。
「今日は、お休みなんですかね…」
「おかしいわね、活動しない部活は部室の鍵を必ず閉めるのが普通らしいんだけど…」
二人して様子を伺っていると、奥の方からガタンと音が鳴った。
「ひっ!」「うおっ!」
あまりに突然なことに二人は驚いた。
「だ、だ、誰かいるんですか!?」
黄泉菜は怖がりながらも話しかけてみる。
「イタタ…やっと見つけたよ。なんでこんなよくわからないところに置いておくのかなぁ…」
物音がしたあたりから一つ結びで髪を束ねた少し小柄な子が出てきた。
その人は正体を現したのち、すぐに俺たちの存在に気づいた。
「え、、部員?こんな子達心理部にいたっけ…」
「いや、部活見学です。」
俺は思わず反射的に綺麗なツッコミをその人に向けて放った。
その人は少しの間固まったのちに「部活見学?あー確かそんなこと言ってたような…」とボソボソと話し始めた。
「今年入学してきた一年生、石原黄泉菜と有馬壮太くんです。部活見学に来ました。」
黄泉菜の完璧な対応に俺は頷くだけだ。
「え、部活見学!?今って部活見学期間なの!?」
…なんだこの人は。心理部の部員なのか?
俺は黄泉菜に小さな声で、
「黄泉菜さん。あの先輩って本当に心理部の部員なんですか…?」
と聞く。
黄泉菜は少しだけその先輩を見たのちに小さな声で、
「心を読んでみたけどちゃんと部員よ…というよりも部長ね。部活見学があった事を知らなかったらしいわ」
と答えてくれた。
「部長!?全然そんな風に見えないですね…」
俺は苦笑いしながら部長であろう人の話を聞くのだった。
「そんなところにずっと立たせちゃってごめんね!真ん中の机のところにいくつか席があると思うからとりあえず座ってて!」
俺と黄泉菜は先輩の言われた通りに真ん中の机の席に座る。
先輩は部室の電気をつけ、何かを持ってきながらゆっくりと真ん中の机に来て二人の対面の席に座った。
「とりあえず来てくれたなら紹介しないとね。私は心理部部長の亜矢乃 智恵(あやの ちえ)よろしくね!今日は部活の日なんだけどみんなが集まらないから終わりにしようとしてたの。でもせっかく来てくれたことだし、どんな部か知りたいよね。」
そう言って智恵先輩は心理部のチラシっぽいものを俺と黄泉菜配る
「主な活動は『人の心理について』を基本として、客観的と主観的の二方面からの真理を追求するって感じの部活だね。」
「結構ざっくりしてますね…」
活動趣旨を聞いてもいまいちピンとこない
「コンテストとか、大会とか、そういうものってあるものなんですか?私、心理部が表彰されているのを見たことあるんですが…」
「あー…多分海君のことかな。基本的には私と海君、花音ちゃんがいるの。でもみんな自由だからさー、一人で勝手に色々な賞取ってくるから心理部全体の表彰ってよりかは個人の表彰なんだよね。だけど、心理部自体もそういうコンテスト系は予定立ててるし、結果を残すことも出来るよ!」
(聞いた話的には思ったよりちゃんとしてるかも…)
正直心理部を掲げただけの仲良い子同士ワイワイする部活だと思っていたが、どうやらそんなことはないらしい。
「今日は海君が休みだから、活動内容の詳しい事は海君に聞くといいよ!」
おい部長、なぜ部長が活動内容を説明できないんだ…
(…もしかして、この人ノリで部長やってる感じなのか?)
部員がいない以上この先輩の活動っぷりがどれくらい心理部を表しているのか分かりにくい。
「あ、そうだ、せっかく来てくれたんだし、ちょっと心理部っぽい事もやってみない?」
そう言って知恵先輩はトランプくらいの大きさのカードを取り出す
「面白そうですね。壮太くん一回やってみたら?」
「え、僕ですか?」
俺は黄泉菜に言われるまま、心理部部長の智恵先輩の実験台にされた。
「じゃあ始めるね。」
そう言うと先輩は4枚のカードを俺に見せてきた。
「死神」「天使」「貴族」そして何も書かれていない白紙のカード
それを死神の方から順番に伏せた。
「じゃあ、私は今からあなたの素性を知りたいと思います。壮太君は嘘をついてもいいから自分の心を表してるカードを一枚だけめくって表にしてみて。」
「はい。」
俺は先輩の言われるままに、一目散に白紙のカードを表にした。
先輩は少し黙って何かを考えたのちに、
「キミ、実は人の話をあまり聞かないタイプ?」
と、俺の性格を分かりきったように喋る。
「……そうなんですか?」
俺はあまりピンとこない。
「キミは整頓が得意なはず、違う?」
「ん?あ、まぁ、確かにそうですね。」
本当は違っていたが僕自身の性格上、キッパリと間違いを言えないタイプなので咄嗟に誤魔化してしまった。
(これってどういう考え方で決定してるんだ?黄泉菜なら何考えてるのか分かるのかな…)
俺は振り返って黄泉菜を見るが、なぜか心を読まれた俺よりも黄泉菜の方が驚いている。
なぜ…?
「やったぁ、やっと当たった!毎日心の読み方を調べてるおかげかもね。と、まぁこんな感じでフリーに部活してます!今日は私しかいなかったけど、また興味があったら見に来てね!その時は海君とか花音ちゃんも集めとくから!」
先輩は後輩の心が読めたことに上機嫌だ。
「黄泉菜さんもやります…?」
俺はそう言って黄泉菜の方を向くが、黄泉菜はなぜかそっけない態度をしていた。
「私は…遠慮しておくわ。」
そう言ってカバンを持ってそのまま出て行ってしまった。
「え!?あ、ちょっと、黄泉菜さん!?あ、えーと、知恵先輩今日はありがとうございました!」
俺は先輩に最低限の感謝を述べて、部室から出ていった黄泉菜を追いかけるようにして心理部を後にした。
「え!?あぁ…また来てね…」
いきなりの出来事についていけず、知恵は一人になった部室でポカンとするしかなかった。
「黄泉菜さん!?どうしたんですか!」
急いで心理部から出てきた俺は黄泉菜に追いつくように走っていった。
幸い、急いで出てきたから黄泉菜には追いつくことができたが、黄泉菜は歩く足を止めない。
黄泉菜はどこか悲しそうな横顔をしていた。
しばらくついて行ったところで黄泉菜は立ち止まり、俺に話しかけてくる。
「壮太くん。本当にさっきの素性を当てるやつ、合ってた?」
質問の回答に俺は、
「先輩が心を読んだやつですか?いや、実は合ってないんですよね。」
と、答えた。
俺自身、先輩が読んだような人の話をあまり聞かない、身の回りの整頓ができるタイプの人間ではなかった。
「じゃあ……なんであの時嘘をついたの?」
微かに震えた黄泉菜の声はどこか震えている
…悪いことでもしたかな。
「確かに、そうなると僕はあの時嘘をついてることになりますね…でも、先輩の全力な姿を見てキッパリ『違う』って言える性格じゃないんです。なんか…頑張りを認めたくなるタイプで……嘘をついてしまってごめんなさい。」
「じゃあ本当に心は読まれなかったの?」
「まぁそうですね。」
変な所を詳しく聞いてくるから、俺は黄泉菜が何を知りたいのかわからなくなってきた。
黄泉菜は俯いたまま俺にも聞こえない小さな声で、
「よかった。壮太……心……読むのは…私……一番だから。」
と消えるような微かな声で呟いていた。
「黄泉菜さん…?何か言いましたか…?」
心配していると黄泉菜は急に俺の方を向いた。
「ごめんなさい。何でもないわ、悩み事がスッキリしただけ。今日は部活見学に付き合ってくれてありがとう。迷惑かけちゃったね…私は多分心理部に入部するから、もし壮太くんが心理部に入部するならこれからもよろしく!だね。今日はありがとう!また明日、学校でね!」
黄泉菜は俺に話す権利を渡すことなく一気言いたい事を喋って帰っていった。
(なんだったんだ……?怒って部室から出ていったのかと思ったら悩み事が解決してありがとう?)
人の心が読めない俺からしたら、今日の黄泉菜がたった行動は理解し難いものだった。
心が読めなくて苦戦する女の子と、ただただ普通に心が読めずに困っている男の子。
お互いに心が読めない中、二人の想いは少しだけ遠くなってしまったような気がした。
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