第8話 悩める思考ともう一度
黄泉菜との部活見学を終えて、俺は最終的にテニス部と心理部で迷っていた。
(最後の黄泉菜、俺に怒ってたのかな…)
いまだに俺は昨日、黄泉菜がなぜ急に心理部を飛び出していったのかがわからなかった。
もちろんその後の黄泉菜の行動も含めての話だ。
あれからはLINEでも話すことはなく、お互い気まずい感じになっている。
いや、俺が単純に気にしすぎなせいかもしれないが、黄泉菜も俺の心が読めない以上どうしていいのかわからない。
(よりによってなんで俺の心が読めないんだよ…)
部活を決めるよりも黄泉菜との関係を気にしすぎてそっちの方しか考えれない。
「壮太ー、その部活の紙っていつまでだっけ?」
いつものように竜が来た。
今回ばかりはちょっと来て欲しくなかった相手だ。
「確か…部活見学期間が終わってからの二日後だった気がするよ。」
考えに没頭し、俺は竜の顔を見ずに返答をする。
「今、どの部活で悩んでるんだ?」
「テニス部か、心理部か…」
その二択には絞れているが、それを一つに絞ることができない。
「テニス部以外にも見学したんだな。で、今二つで悩んでいる…と。」
どうやら竜も一緒に考えてくれるらしい。
(そういえば黄泉菜が途中で抜け出したのを俺が追いかけちゃったから、まだ部長に聞きたいことを聞けてないんだった。)
黄泉菜のことを考えすぎたせいで、前回思っていたことを忘れるところだった。
「心理部って何するんだ?俺全く知らねぇから面白そうだな。」
竜は運動部しか見てなさそうだから心理部が何しているのかわからなくても当然だ。
実際のところ俺も初めて心理部を聞いた時は興味が湧いたし、気になるのも普通なことだろう。
(いやまて…これ使えるぞ?)
竜の興味心を使えばもしかしたら…
俺は竜の興味心を逆手に取って提案した。
「竜、心理部って結構気になるでしょ?それなら今日見学しに行かない?」
俺が心理部に行く目的、
心理部の部員にはまだ会ってないし、何より活動内容のどこかに黄泉菜の読心能力を探ることができる活動があるかもしれない。
それを聞くためにも、もう一度心理部に行かなければならない。
「どうかな。やっぱり今日は空いてない?」
俺は竜に聞いてみる。
「それいいな!名前聞いた時から結構気になってたし、そんなの行くしかないじゃん!」
意外にもあっさりOKしてくれた。竜の興味心ありがとう。
放課後、俺と竜は昨日黄泉菜と一緒に歩いた道を思い返しながら心理部へと向かった。
頭の中で昨日の黄泉菜がチラチラと出てくるが……考えすぎだろうか。
とりあえず今は考えないようにしよう。考え込んでしまうと厄介だからな。
「確か…ここだったな。」
昨日歩いた道を思い出しながら進んで行くと、すんなり目的地に着くことができた。
「こりゃ部活よりも同好会だな。」
誰でも最初はそう思うだろう。見た目は完全に同好会だ。
「確かに同好会っぽいよね。でも見て、ちゃんと心理部って書いてあるし、電気だってついてる。」
一度来たことあるし大丈夫だろう…
そんな気持ちで部室の扉を開けた。
「部活見学にきました!」
開けてみると部長の他に新たに二人の部員がいた。
知恵先輩は俺たちに気づいてすぐさま駆け寄ってくる。
「あー!昨日見学にきてくれた子じゃん!」
「こんにちは。智恵先輩。」
どうやら先輩も俺のことを覚えていてくれたらしい。
人に覚えてもらえるの…悪くないな。
中央にある机には部長がいたが、他の部員は自分専用のスペースらしき場所にいる。
一人は高身長で爽やかな男の先輩。昨日の話から海先輩だと思われる
そう考えるともう一人は花音先輩だろう。俺らに背を向けてずっとパソコンのキーボードで文字を打っている。
昨日とは違った、また異様な空気だ。
「おい壮太、ここって本当に心理部だよな?」
竜が小さな声で俺に呟く。
「わからない。昨日は部長しかいなかったからこれが本来の姿かも…」
俺は昨日見た心理部の姿とは違った雰囲気のせいで、ちょっと戸惑った。
「まぁとりあえず座って!昨日来た壮太君も他の部員見てなかっただろうし、紹介するね!」
部長は相変わらずフレンドリーだ。
ただ、部長とは対照的に部員とはちょっと話しかけにくい感じがする。
「そういえばまだ名前を教えてなかったね。私の名前は亜矢乃 智恵。壮太君は私の名前知ってると思うけど、今日来た子もいるからちゃんと自己紹介はしないとね!で、君の名前は?」
「俺は壮太のダチの山神 竜だ!よろしくお願いします!」
あんまりこういうことはしてほしくなかったが、今回は一緒についてきてくれたこともあるし、見逃してやるか…
「有馬 壮太です。竜とは同じクラスです。昨日は途中で抜けてしまってすみませんでした。」
「壮太くんと竜くん。今日はよろしくね!」
智恵先輩は意外にも後輩思いなのかもしれない。
「あ、壮太君!昨日の話なんだけど…あれ、これって言っていいやつだっけ…」
智恵先輩はさっきまで話す気満々だったのに急に話を止めてモゴり始める
「昨日はすみませんでした…何かあったんですか?」
「いや、大丈夫!」
そう言いながらも智恵先輩は何かを言いたそうに口をモゴモゴしている。
「智恵、」
流石に智恵先輩が言いたそうにしていたのを他の部員が感じ取ったらしい。
智恵先輩も部員の声でヤバいと思ったのか、あからさまに話を逸らす
「話がそれちゃったね!とりあえず私の紹介は終わったから次は部員の紹介をするよ。」
そう言って智恵先輩が指さしたのは高身長の男の方だ。
「あの人が霧原 海(きりはら かい)くん!イケメンだけど、部活のことになるとその熱は半端じゃないよ!」
海先輩は智恵先輩に紹介された後、自分のスペースの椅子から立ち上がって俺らの方へと向かってくる。
中央の机まできて、俺らの顔をじっと睨んだのちに、中央の机を両手で思いっきり叩いた。
「あんまり騒ぐんじゃねぇぞ。」
びっくりした。
心理部のイメージがどんどん壊れていく。あれ、こんな部活だったっけ?
「ねぇ海くん?流石に自己紹介の後でそれはやめなよ!どうせなんかの心理現象の実験でしょ?」
「今しかできない事もあるからな。いきなりすまなかったな。」
そう言って海先輩はまた自分の席に戻ってしまった。
「こ、こんな感じであの人、部活関係の話になるといろんなもの犠牲にするからあまり友達からいい印象を持ってもらえないんだよね。」
智恵先輩はとりあえずこの場をゆるまそうと軽い話題を持ってきた。
ただなんだろう……海先輩から智恵先輩に向けてすごい圧を感じる。
「じゃあもう一人、こっちも自己紹介行ってみよー!」
そう言って智恵先輩はもう一人のパソコンに夢中な子を指さした。
「あの子が羽山 花音(はねやま かのん)ちゃん!心理学の本を作ってるよ!なかなかの売れっ子ちゃんなんだけど、この子もなかなか癖が強いね。」
智恵先輩の自己紹介に花音先輩はようやく文字を打つのをやめて俺らの方を向いた。
「…あなた達が部活見学者?悪い事は言わないから、入部してね。人数少ないと廃部になっちゃうからそれだけは嫌だから。」
そう言ってまた花音先輩はパソコンにこびりついた。
…確かに部長以外は話しかけにくい人ばかりだな。
「っと、まぁこんな感じかな!私以外変人しかしない部活だけど、入部してくれると嬉しいな!」
なんだろう…智恵先輩に向けられている殺意のある視線に智恵先輩はなんで気づかないんだろう。
偶然隣を見たら竜と目があった。
多分だけど竜が考えてることも同じだと思う。
「で?今日は何しに来たの?今日来た竜くんは部活見学だと思うけど、壮太くんも同じ感じかな?」
「そうですね。昨日は他の先輩方もいなくてあまり話を聞けなかったので、部活の成果だったり、活動内容を詳しく聞けたらいいなって思ってここに来ました。」
「あー…そういうことね!海くん!」
「てめぇ部長だろ。しっかり後輩に教えろよ。」
そう言いながらも海先輩は中央の机の方にきて、知恵先輩の隣の席に着いた。
「さっきは驚かせてすまない。あらためて謝罪するよ。一年下の学年の人を対象に実験する機会がなかったからついデータを取りたくなってしまってな。」
さっきまでの怖いイメージは全くなく、それこそ優しい先輩へとチェンジしていた。
「この部長モドキは役にたたねぇから俺から説明するよ。」
隣では智恵先輩が何やら言いたそうにしている。
仲がいいのか悪いのか…
「部活内容だが、特に決まっていない。とりあえず『心理』というものに疑問を持ち、それを解決したり、自分の考えを書いてみたり、実際に行ってみたりする部活だ。」
確かに心理部の行動範囲の幅は大きい。
「続いて部活の成果だが、もちろん他の部活とは違ってコンテストはあるが大会はない。よって実績を出せないと思っているかもしれないが、俺ら心理部は珍しい部活だからといって、特別にテレビ番組の企画などで出演させていただくことはある。」
確かに高校の部活で『心理部』を聞いたことはなかった。
「テレビ出演とかコンテスト入賞が俺らの実績だ。そうなるために毎日『人の心を読む』ということを活動内容としている部活だ。こんな感じでいいか?」
思ったよりも活動内容にはザックリとしているが、意外にもしっかりとした部活だ。
それよりもびっくりしたのは、さっきまで全く違った印象だった海先輩は俺の中でダントツに好感度が上がったことだ。
「俺に対しての好感度が上がった人が一人、急に印象が変わりすぎて逆に怖いと感じた人が一人、と言ったところか。なかなかにいい反応をありがとう。」
あれ、あっさり俺の心を読まれてしまった。
竜の方を見ると空いた口が塞がっていない。多分いきなり心を読まれてびっくりしているんだろう。
「海くんナイスな説明ありがとう!壮太くん。そんな感じでよかったかな?」
「全然大丈夫です!とてもわかりやすくて良かったです!」
全てにおいて完璧な対応をしてくれた心理部に全く不満はなかったが、竜はそうはいかない感じだった。
「今度は俺の番だ!壮太だけ心理部の人たちに優遇されるのは許せねぇぜ!」
「君は…竜くんだったっけ?」
「そうっす!心理部なら心を読んでもらいたいっす!海先輩にさっきは読まれたけど、もっとこう…心理部っぽい読まれ方されたいっす!」
海先輩に早速名前を覚えてもらえてるのにどこかちょっとだけ悔しい気持ちがあった。
「山神 竜くん。喜びたまえ。俺は君の心をすでに大体読んでいる。君は、運動神経抜群のできる子で、その性格上陽キャポジを独走している。だが内心はとても友情深く、自分の責任は全うするタイプだ。どうだ?あってるか?」
「ま、マジで読めるんすね…」
どうやら全部読まれたらしい。
「あ、それでもって完璧に心が読める俺のことが結構怖くなっただろ?」
「お、おおぉ、これ以上はダメっす!マジで全部読まれちゃいますって!」
竜は全てを見抜かられることを怖がり、俺の後ろへと回ってくる。
「あははっ!ごめんよ!そんなに脅かすつもりはなかったんだ。ただ、心理部の凄さを分かってもらえたなら十分かな。」
竜は海先輩を見るなり全力でヘッドバンキングをするかのような相槌をした。
「今日はありがとうございました。多分竜は一日中こんな感じになりそうなので少し早めに帰らせていただきます。」
「あ、まって壮太くん!やっぱりこれは言っておいた方がいいかなって!」
竜の荷物を竜に持たせて心理部を出ようとする時、智恵先輩に止められた。
「どうしたんですか?」
「本当はダメなんだろうけど、実は…」
「…今回は本当にありがとうございました。」
最後に深々と礼を言って、俺と竜は心理部を後にした。
(智恵先輩の言葉…本当だよな。)
俺は今日一日、いや、この先も智恵先輩の言葉の意味を考えながら生活しないればならなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます