第9話 相手の思考と第三者
最近妙に竜の動きがおかしい。
昨日だってそうだ。
「悪い!これから部活見学に行くんだ!」
俺らのグループから抜け出すかのように竜は俺らと一緒に帰らなかった。
本当はいつものメンバーで遊びながら帰るはずだったが、最近の竜はノリが悪く、今日もそれをキャンセルした。
帰り際、いつも通り竜の机周りにイツメンで集まるが、俺——寺島羊はいつものテンションで行く事はできなかった。
「お前、最近俺らと帰らねぇじゃねぇか。俺らと一緒に帰りたくねぇのか?」
竜も流石に俺が機嫌悪いことに気づいたらしい。
「そんな訳ねぇだろ。あくまで今は部活見学期間だからいろんな部活を回ってるだけだ。別にお前らと帰りたくねぇなんて一言も言ってねぇよ。」
いつも元気な竜も今だけは顔が笑っていない。
「まぁまぁ、今週しか部活見学できないんだから、竜にも見学する権利はあると思うぜ」
俺の横から伸也がまとわりつくようにやってくる
「そうか、なら俺らは先に帰るからな。」
そう言って俺は竜を遠ざけるように一人で苛立ちを抑えながら帰った
一日だけの話ならまだ許せた。
だが、三日前だってそうだ。
いつものメンバーで遊んでいた時だ。
急に壮太って奴が俺らのグループに近寄ったかと思えば、竜だけ連れてテニス部の見学に行きやがった。
そう。最近竜は壮太って奴とずっと一緒にいる。
竜の方を横目で見てみるが、今も竜は壮太と話している。
「俺らのことはどうでもいいみてぇだな。」
ボソッと呟いた。
「なーにー羊ちゃん。竜と一緒に遊べないのに嫉妬してるの?」
下校中、伸也が乙女チックな仕草をしながら俺の方へと寄ってくる。
「はぁ?テメェしばくぞ?」
俺は自分のよくわからない怒りを言葉にして伸也にぶつける。
「でも、壮太って子が来てから竜くんと一緒に遊ぶ回数は明らかに減ったよね。」
俺らが何かを言い合ってることに鈴も気づいたらしく、話に入ってくる。
鈴も竜の異変には気付いているらしい。
「でも仕方ないんじゃない?竜くんは自分が一緒にいたいって思うところにいるだけであって、私たちが無理矢理竜くんを連れてこれる立場じゃないもの。」
凛も揃って竜だけがいない、いつものメンバーが揃った。
「そんなことぐらい知ってるよ。ただ断りすぎじゃねぇか?嫌なら嫌って素直にいえばいいと思うんだけど。」
俺はいつも以上にイライラしている。
自分でも分かるくらいに。
「竜くんにだって断れない理由とか、他の人と一緒にいる理由とか、そんなのがあるんじゃないの?私だって遊べない時あるし、そこまで竜くんを縛るのは良くないんじゃない?」
「縛ろうとなんてしてねぇじゃん。そんなんじゃねぇよ。」
凛の話に対しても俺は反抗的な態度をとってしまう。
自分が何に怒りを感じているのか分からなくなってきた。
だけど一つだけ、これに怒りを感じているんだって思うものがある。
俺は多分、壮太の事が嫌いだ。
掃除の時間、俺は伸也と黒板担当だ。
黒板を綺麗にしているそんな中で、クラス中に壮太の声が響いた。
「あ、今日の日直さんって誰だった!?」
俺だ。
「俺だけど、何か用?」
若干の喧嘩腰で壮太に用件を聞く。
「今日なんだけど、先生から隣の教室の段ボールをゴミを集めている場所に持っていって欲しいって頼まれてて、日直と環境委員で手分けしてやってほしいって言われたから、寺島くん手伝ってもらってもいいかな?」
(最悪な日だな。よりによってコイツとか…)
何を言っても無駄だと分かった俺は素直に壮太の言うことを聞いた。
「わざわざごめんね。」
段ボールを運んでいる最中、壮太が話しかけてくる。
「別に…」
ライバル心なのか、俺は壮太と話す気にならなかった。
「羊くんってさ、結構いい体してるよね。」
「は?いきなりお前何言ってんの?」
「ほら…その、結構運動とか出来そうな体してるなって思って、」
実にくだらない。
話す気にもならないが、ここで無言を続けても空気が重くなるだけだと思ったから聞かれた話にだけ答えるようにした。
「別に、中学時代はバスケやってたけど部活は美術部だったし…」
「え!?美術部だったの!?じゃあ絵とか結構上手な感じ?」
「知らねぇよ。」
いちいち話に食いついてくる壮太には話してくれるだけありがたかったが、壮太の事が嫌いなことには変わりない。
「部活とかって決まったの?」
その壮太の言葉にイラっときた。
今現在竜と帰れなくなっているのはコイツが部活の見学を竜と一緒に周っているからだ。
「そういうお前はどうなんだよ。」
平常心を保っているかのように、冷静に質問を返す。
「僕かぁ、まだ迷ってる。竜も迷ってるらしいし、できれば竜と一緒の部活になれたらいいなって思ってるかな。」
壮太の考え一つ一つにイライラを感じる。
自分で決めろ。人に合わせるな。人を巻き込むな。
自分の頭の中は壮太に対する愚痴でいっぱいだった。
だがそれを押さえてもう少し探りを入れる
「お前、最近竜と仲良いじゃねぇか。」
「…まぁね。でもどっちかというと竜が俺と仲良くしてくれてるっていうのか、竜がいっつも一緒にいる感じかな。」
そう言って壮太はヘラヘラと笑う。
そうだ、そのヘラヘラとした笑い方だ。
何を言われてもその顔で誤魔化すだろう。
俺はそのヘラヘラと笑った顔が一番嫌いだ。
俺の頭の中に壮太に対してのイライラがドンドン溜まり、俺の中で何かが切れた。
「何が仲良くしてもらってるだ…ふざけてんじゃねぇぞ!!!」
俺はそう怒鳴って手に持っていた段ボールを捨てて壮太の胸ぐらを両手で掴む。
「な、何するんだよ寺島くん…どうしたの、、」
壮太は苦しそうに声を出す。
「何が『竜がいっつも一緒にいる』だぁ?なめてんのか!」
「やめてよ寺島くん。僕はそんなふうに言っわけじゃ…」
「あぁそうかよ!じゃあお前が竜と部活見学しにいく時、竜は本当にお前と見に行きてぇと思ってたのか!?」
「いた!やっぱり喧嘩してる!」
朝から羊の違反に気づいていた竜のメンバーは、竜を連れて羊と壮太をあらかじめ監視していた。
「やべぇ、止めねぇと!」
竜が二人の喧嘩現場に行こうとした時、伸也がそれを引き止める。
「やめておけ、今お前が行ったら火に油を注ぐようなもんだ。それに、壮太くん…だっけ?あいつも何か打開策ぐらい持ってるだろう。」
「…そうか、それならとりあえず伸也を信じてみるよ。だけど、羊が何かしでかすなら、俺は黙って見てるわけにはいかねぇからな。」
「知ってるさ。けど、俺らが行くよりあれは二人の問題だ。まぁ壮太は羊のよくわからない怒りに触れただけなんだがな。」
伸也はいつも通り冷静にみんなを対処し、二人の行動を見守った。
多分、壮太はこの状況をなんとかするだろう
「ねぇ!なんで助けに行かないの!?」
鈴が竜と伸也に言ったが、二人は助けに行こうとはしない。
「多分、この二人は壮太くんと羊のことを思って助けに行かないんだよ。」
凛も竜や伸也と同様に二人の喧嘩を傍で見守る。
「お前が勝手に竜の用事を潰してるだけじゃねぇのか?」
胸ぐらを掴んでいる手を硬く握りしめる。
壮太は言われるだけ言われて、何も抵抗しない。
「お前は竜が仲良くしてくれるから仲良くしてるのか!?お前何様だよ!お前ごときの人間に仲良くしてくれる奴はいねぇよ!」
「…じゃないか。」
壮太はボソボソと何かを話している
「何ブツブツ言ってんだかしらねぇがてめぇにダチは作れねぇよ!」
「それなら寺島くんが僕の友達になってくれればいいじゃないか!」
壮太は精一杯の声で羊に告げた
「…は?」
いきなりの意味不明な言葉に俺は戸惑った。
「「はぁ?」」
あまりの意味不明な発言に竜と伸也は唖然とした。
「おい竜、あの壮太って奴、変人か?羊は壮太を嫌ってるんだよな…何で友達申請してるんだ?」
「いや、そんな変人ではないと思うが…」
『お前が嫌い』と相手から言われているのに『友達になってください』は流石に理解がし難い。
「…策がないんじゃないか?止めに入る?」
あまりの展開にどう行動していいかわからず、竜は伸也に聞く。
「いや…壮太君のことはよく知らないけど、多分何とかなるんじゃないかな。」
伸也は自信なさげに応答し、そのまましゃがんで二人の喧嘩の行方を見守るのだった。
「寺島くんが僕の友達になればいいじゃないか!」
壮太は大きな声でそう叫ぶ。
「…はぁ?お前の友達になんて誰がなるか!」
「僕は登校初日からインフルエンザで休んでたから五日間あればみんな仲のいいメンバーを作ってて入りにくいんだよ!」
壮太は胸ぐらを掴まれながらも、精一杯大きな声を上げた。
「そんなボッチの僕に竜は話しかけてくれたんだ!もちろん寺島くんのメンバーの中から竜だけと仲良くしてメンバーの輪を乱したのは悪いと思ってる。でも、僕だって竜のメンバーみんなと仲良くなったっていいじゃないか!」
その言葉にはちゃんとした想いがあって、その場しのぎをする言葉の重みじゃないものだと俺は瞬時に理解した。
俺だって感情だけで動いている人間じゃない。その場しのぎで感情がこもってない言い方と、本心でそう思っていることぐらい、どんなに嫌いな相手でも伝わってくるものだ。
「寺島くんは僕を嫌ってるかもしれないけど、それでも僕は寺島くんと仲良くなりたいんだ!」
正直何となく思っていた。
こいつはいい奴だ。
俺が勝手に嫌っているだけ…勝手に壮太を悪く思っているんだ。
こいつは本気で俺と友達になりたいと思っている。
傍からみればクズなのは俺だ。
意味のわからないところでキレ散らかし、壮太に当たっては自分のイライラを解消させるだけ……
俺は胸ぐらを掴んでいる手をゆっくりと離す
壮太が服を直しているのを見ると、だんだん俺のやってた事がバカバカしくなってくる。
(自分がやってたのはただ単に自分の感情を相手にぶつけるだけの一方的なもの、、壮太はいい奴だ…全く悪くないのに…)
無駄なプライドが働くんだ。
まだ壮太を嫌っている、心の中の弱く腐った俺に何かを堰き止められるんだ。
「寺島くんが良かったらだけど、僕の友達になってくれないかな…」
壮太は懲りずにその言葉を言い続ける
俺にはもう壮太に見せる顔がなかった。
「……うるせぇよ。誰がてめぇなんかと友達になるかよ」
俺はしょうもない自分のプライドに負け、その言葉だけ
俺が壮太を嫌った理由が今わかった気がする。
多分壮太は、俺にないものを持ってるからだ。
それの嫉妬だろう。
かっこよさでもなく、見た目でもなく、ただひたすらに内側の姿、性格面で負けたんだ。
俺はひたすらに自分の行いを悔い、一人虚しく下校するのだった。
心の中に潜んでいる、みっともない自分を抱えて………
「お前大丈夫だったか!?」
喧嘩が終わったことを確認して竜はすぐに壮太の方へ駆け寄る。
「みんないたの!?いつから?」
「ほぼ始めから。しかし壮太君、君はなかなかぶっ飛んだ考えをしてるね。」
竜に続いて伸也、鈴と凛が出てくる。
「なんか、まだ僕は寺島くんと仲良くなれないみたいだね———」
「いや。そんなことはないと思うよ。」
伸也が壮太の話を遮って話す
「多分あいつ、自分の不甲斐なさに耐えれなかったんだろうな。あいつ無駄にプライド高かったりするからな。」
伸也の言うことに壮太も安心する。
「じゃあ、期間を空けてもう一度寺島くんと話し合ってみるよ。やっぱりずっと関係が拗れたままって僕でも嫌だなって思うから。」
「壮太くんにはとんでもないとばっちりだったね。俺らからも謝罪するよ。」
そう言って伸也と竜、その後ろの鈴と凛を含めた四人は壮太に向かって深々と礼をする。
こう見ると本当にこのメンバーは仲間思いでいい集団なんだなと感じる
「やめてよ!僕だって非があるから寺島くんのプライドを傷つけちゃっただけだし、僕は寺島君だけじゃなくてみんなとも仲良くなりたいからそんなに壁は作らないでよ!」
壮太はみんなの顔を見て逆に礼をする。
「……こんな僕ですが、仲良くしてくれませんか?」
礼をしたままチラッと顔だけをあげる
「お前まだそんなこと言ってんのか?」
竜がみんなより一歩前に出て来て話す
「あのなぁ!友達ってのは、頼まれてやるもんじゃねぇ、そんな堅苦しいもんじゃなくて友達って思ったらその時点で友達なんだよ。」
メンバーのみんなも竜の言葉に頷く
「そっか…そうだよね。」
壮太は頭を上げてみんなの方を見る
「改めて、これからよろしくお願いします。」
こうして、俺は竜たちのメンバーと仲良くなった。
寺島 羊は、壮太の中で大きな目標となった。
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