第6話 驚く思考と例外続行(1)

「昨日のテニス部、壁は大きそうだけど面白そうだったなぁ…」



屋上のベンチで寝転がりながらふと、昨日のことを思い出す。


やる気はない。そう思っていたが、見学してみると意外と面白いことに気づいた。



俺自身それほど上手ではないが、決して中学時代の部活がつまらなかったわけではない。


だからこそテニス部が面白く見えたのはそれの影響もあるかもしれない。

久しぶりにやりたいと思えたのは初めてだった。



(でもまだ部活見学ができる日は三日あるし、仮登録用紙の提出もあと六日あるから焦る必要はないよな。)


昨日の部活見学で感じたのは『テニスを久しぶりにやってみたい』という気持ちもあったが、同時に部活全体の面白さも感じた。

中学校の部活とは違う、本格的に活動する活力に惹かれた気がする。



実際のところ中学の時よりも部活の幅は大きく、気になる部活もいくつかある。

タイムリミットは迫ってきているが、決してそのタイムリミットが短いわけではない。


(気になってる部活を見てから決めることも大切だよな。特に今日は…)



「今日は屋上に誰もいないので屋上でいいですか?」

黄泉菜に送ったLINEを見返す。


そう。黄泉菜との部活見学だ。


まだ既読がついていないので、おそらく係の仕事でもしているんじゃないかと思う。


(今日は前回みたいにならないように早めに屋上に来てみたけど、あの子はこなさそうだな。)


二日前に現れた謎の男の子、

屋上で出会ったきりでトイレや登下校でも出くわすことがなかった。



(本当はどんな子なのか話してみたいんだけどなぁ)



黄泉菜には関わらないようにと注意されたが、まだ相手の素性を詳しく知らない以上流石に一方的に避けるのは良くない。


黄泉菜は心が読めるからあの男のことを知れたかもしれないが、あいにく俺にそんな能力はない。


(まぁ定期的に屋上に来てみるか…)



ゆったりとした雲の流れをただじっと見つめる。

心地よい風とともに心が洗われていく、とてもいい気分だ。


寝そうになってきたところで自分のすぐ横に置いてあったスマホから着信音が鳴った。


体を手の遠心力でぐっと起こしてスマホを見る。

黄泉菜からだ。


LINEを開いてみると、可愛らしい猫のスタンプで『了解!』というスタンプで返信してきていた。



(猫…好きなのかな)


黄泉菜とはLINEでも結構話せるくらいに仲良くなったが、まだ学校も始まって一ヶ月も経っていない。


黄泉菜ともLINE以外で直接話したことはあまりない。いくらあったとしても授業交流の時間くらいだった。


(黄泉菜と同じ部活になればもう少し距離を縮めることもできるのかなぁ)



まだ可能性があることを信じてもう一度寝転がったと同時に屋上の扉が開いた。


瞬時に起き上がって確認する。

黄泉菜だった。


「ごめんなさい。係の仕事が思ったより終わらなくて…待たせちゃったね。」


「係の仕事なら仕方ないですよ!俺もこんな天気のいい日に屋上にこれて満足です!」


(あれ?何言ってるんだろう…)


シンプルに「全然待ってないよ!」だけでいいのに、キモい言い回しみたいになってしまった。


「それじゃあ行きましょうか。とりあえず私がみておきたい部活を先に行ってもいい?」


「もちろん!」


そう言って俺は黄泉菜と部活見学に出かけた。






黄泉菜の後を一定距離を保ってついていく。



(下駄箱に向かってないから見学は文化部かな。)


離れすぎず、近づきすぎず、一定の距離を保ちながら歩いていると黄泉菜が階段前で立ち止まって振り返った。


「壮太くん。そこまで気を遣って距離取らなくても、私は大丈夫だよ?」


そう言ってニコッと微笑んだ。


いかにも自然で華やかで、その優しい声に俺は照れを隠すように口を片手で隠してそっぽを向いた。



(反則だろ。)



そう思いながら、黄泉菜の言われた通り、黄泉菜の隣に立った。


「私が誘ったんだもの、気を遣わせることなんてないわ。」

なんていい子なんだ…こんな天使に誰が惚れないというのだ…



(そうは言ってもですね……)

人の視線が痛い。


見られてるのが一瞬でわかる。


放課後で人が少ないにも関わらず、向けられた視線はいつも以上に鋭い気がした。


「それじゃあ行きましょうか。」


黄泉菜は俺の横に並んで平然と歩き出す。まるで視線を全く気にしないように…


「よ、黄泉菜さん。」


なんで人の目を気にしないのか、、そんなことを考えてると勝手に名前を呼んでしまっていた。


「ん?どうしたの?」


正直あまり呼ぶつもりはなかった。

だけどなんでだろう。最近自分の行動が自分で制御できなくなっている。


「視線…気にならないんですか?」


「あぁ〜、私は慣れちゃったかも。視線の前に人の心が読めるから周りの人の目線なんて二の次に考えちゃってるかも。」


「そ…それは大変ですね」


心を読む力って最強の力だと思っていたが、案外使うとなると不便面も多そうだな…




このまま喋れそうだったので、勢いに任せて気になっていた質問をする


「黄泉菜さんは部活、どこを見学したいんですか?」



黄泉菜は「んー」と考えたのちに


「ついてからのお楽しみね。」


と、期待をもたせるような言い方で質問を軽く受け流された。





どこに行くのか教えてもらえないまま俺は黄泉菜についていく。


「多分ここ。ついたわ。」


着いた先にあったのは、使われていない教室のような場所だった。


しかし、そこにはちゃんと部活の名前が掲げられている。


「…心理部?」


「そう。やっぱり心が読める私にとってこの部活が一番気になったの。」


「たしかに…それは気になりますね。」



黄泉菜がこの部活を気になる理由は分かったが、俺にはそれ以上に気になることがあった。


(なんだこの部活!?なにをやってるんだ?同好会みたいな感じなのか?)


俺にとっての部活の概念が壊れたような気がした。

普通はもっとこう…大会があってそれに向かって頑張る部活ばかりだと思っていたが、流石にこの部活は部活内容が想像できない


「とりあえず中に入ってみましょう。」




黄泉菜はゆっくりとその教室のような活動室を開けた。

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