第43話 いつかの思考とハプニング(3)
「で、なんで俺らを尾行してたんだ?いつからだ?」
フードコートの四人席に海先輩と智恵先輩、向かいに俺と黄泉菜で座りながら話を進める
海先輩はいつも通りのちょっと怖い顔をしていて、その隣で智恵先輩が店で買ったグッズで遊んでいる。
「えぇと、黄泉菜とショッピングしてたら海先輩と智恵先輩が歩いているのを見つけまして…今までずっと尾行していました。」
黄泉菜と一緒に行っていた尾行は、海先輩にバレてしまい、あっけなく失敗に終わってしまった。
「そもそも、なんでお前らが二人ここにいるんだ?今日は自由に過ごしていい日だったんだが、よりにもよって全く同じショッピングモールとは…」
「「それはこっちのセリフですよ!」」
黄泉菜と俺は二人揃って同時に海先輩に聞き返した。
「なんで海先輩と智恵先輩が一緒にいるんですか?それも、智恵先輩に振り回されながら。」
海先輩は「ゔっ、」と1番聞いて欲しくない質問に少したじろいたが、ここにいる以上誤魔化すことはできないと判断してため息をつきながら話し始めた。
「はぁ……こいつとの賭けに負けたんだよ。」
そう言って海先輩は智恵先輩を指差す。
それも親指で嫌そうに。
「まぁ勝ちは勝ちですから!」
智恵先輩はすごく誇らしげに威張る。
「賭け…ですか?」
「海先輩がしそうなことではないですけどね」
海先輩はあまり人付き合いに疎いというか、興味がないというか、本当に『心理』一択の人だと思っていたが、どうやら遊び心も立ち合わせていたらしい。
「ただ、俺が降った賭けじゃねぇ。もちろん賭けの要求をしたのは知恵だし、そもそもコイツがくだらなすぎる。」
「くだらないとはなんですか!失礼な…」
流石の智恵先輩も自分のことを言われていると分かり、海先輩につっかかる。
「そもそも!負けたのは海先輩の方だし、今日一日は私に逆らう権利なんてありませーん。」
そう言って智恵先輩は人差し指を海先輩に向けて横八の字を描きながら指を回して露骨に海先輩を煽り出す。
それにイラついた海先輩は智恵先輩の頭を鷲掴みにして握りつぶすかのように力を入れて頭をグニグニした。
プライベートであろうと、部活内でも、このコンビはいつもこうだ。
「…そもそも、海先輩が負けるような勝負ってなんだったんですか?」
智恵先輩の状況にはあえて突っ込まず、俺は海先輩に質問した。
「…こいつ、俺を騙してきたんだ。」
「だ、騙してないわ!れっきとした作戦なんだもの!」
とっさに言い返す智恵先輩に海先輩は「ア"?」と喉を鳴らす感じの低い声をあげて立ち上がりながら威嚇し、それに対して智恵先輩も負けじと「何よ。今日は私の命令が絶対でしょ?」と、立ち上がりながら言った。
放っておけば大乱闘になりそうな雰囲気だ。
「まぁまぁ二人とも落ち着いて!とりあえずどうしてこうなったかの経緯を教えてもらえると嬉しいんですが…」
俺は二人の怒りが自分に向かないように宥めながらも二人の状況を聞く。
二人が座って落ち着いたところで智恵先輩が口を開く。
「昨日の話でね、私、とある心理学者の人が『人の心を読むには、自分から心を曝け出すことが大切だ。自分が読心を恐れず、曝け出すことではじめて相手の心が読めるんだ。そして、これを応用すれば相手を意のままに操れることだってできる。それはマジックなどではなく、心でわかりあう「会話」なんだよ。』って言ってるのを見て、「これなら海先輩を意のままに操れるかも」って思ったの。」
話してくれたのはいいが、いきなり智恵先輩の話がぶっ飛びすぎていて思考が追いつかない。
(本物の心理学者なのかエセなのか知らないが、そんなに人の心を読むのが簡単なら誰も苦労はしないだろうし、何より智恵先輩の行動力がすげぇ…)
雰囲気などから智恵先輩は海先輩にメロメロなのかわかるのだが、ここまでして海先輩を落とそうとする執着心はある意味尊敬できそうだ。
「それでね、やっぱり心理も見た目から入るんじゃなくて心から気持ち作っていかないとなって思ったの。それで海くんに賭けをしたら勝っちゃったって話!」
「あんなの読心能力でもなんでもねぇし、やり方が幼稚すぎる」
「何よ!?負けたくせに!」
「ア"?」
二人はまたいがみ合ってお互いを睨み合う。
「待って待ってストーップ!全く、二人ともそんなムキにならなてもいいじゃないですか!」
俺が止めに入るが、「「誰がムキだって?」」と圧をかけるように言われ、二人の圧に押されてしまう。
「二人ともあれだけいがみ合ってますけど、実はめちゃくちゃ仲良いらしいよ。」
二人の喧嘩を止めれなかった俺に黄泉菜がそっと囁く。
「いや、流石にアレはガチギレ対決になってない?」
「それが知らない間に仲良くなってるらしいわ。花音先輩から聞いたことがあるの。」
「そんなもんなのか?普通。」
今まで一人で生きていた身としては、「喧嘩するほど仲がいい」ということわざ通りの出来事が起きたことがなかった。
「あー!イライラすんな、今日はお前の命令を聞くといったな。撤回だ。くだらん。」
「あぁそうですかそうですか!それなら先に行動すれば!?」
二人は荒々しく椅子から立ち上がると、二人して同じような行動を取りながら別々の方へと分かれていった。
そして、何事もなかったかのように人のガヤで埋め尽くされたファストフードの席に、俺と黄泉菜は座っていた。
…緊急事態だ。
「…ねぇ、こういう時ってすぐに仲直りしたりするの…?」
「ちょっとわからないかも…普段ならすぐ和解してはい終わりのパターンなんだけど、今回はやばいかもしれないわ。」
ただやばいと言われてもどうしようもない、今できることはそっとしておくことだろう。
ここであえて突っ込んで二人の状況を悪くしてもいけないし、かと言ってまだ尾行するのは良くない。
「仲良くなってくれればいいんだけど…」
黄泉菜がボソッと呟くように、俺もその気持ち一択だ。
しばらくして俺と黄泉菜はまたショッピングモールを歩き回り始めた
だが、どうしても海先輩と智恵先輩の喧嘩のことでショッピングなどしていられる余裕もなかった。
(なんか気まずいな…別に俺が同行したわけじゃないんだけど、やっぱり目の前で喧嘩を見ると見てるこっちもどうすればいいかわからなくなるんだよな…)
俺が中立で入ればそれはそれで二人から責められるだろうし、かと言ってこのままずっと放っておけば二人の中は完全に裂けてしまいそうで…
「海先輩と智恵先輩、大丈夫かな…」
黄泉菜は足を止めずに話し出す
考えていることは同じだ。
「今回のは俺たちも協力しないと流石に手がつけられないよな…」
二人で楽しく、あわよくば本当の恋仲関係としてのデートを楽しむつもりだったが今はそれどころではなさそうだ。
「海先輩か智恵先輩を探して仲直りさせましょう。今のままだと心理部は、、、ギスギスした空気なんて嫌です!」
「だよな、俺もそれは思ってる。ただ、智恵先輩は海先輩に一途な分、喧嘩した後の仲直りは難しいと思うし、海先輩は気難しい人だ。どちらも説得するのは簡単じゃないぞ」
黄泉菜の足取りが止まる
「でも…」
黄泉菜の声は薄く消え入りそうな声をしていた。
それほどまでに海先輩と智恵先輩を仲直りさせたい、さんな思いがひしひしと声の質から伝わってくる。
「私、智恵先輩が席を離れる時、『なんでいつも喧嘩しちゃうんだろう…本当は一緒にずっとそばにいたいのに』って読み取れちゃったの…」
「それって…智恵先輩の心を読んだってこと?」
「…うん。海先輩は読めなかったけど智恵先輩は読めた。使いたくはなかったけど、二人が仲悪くなるのだけはどうしても嫌だったの…!」
黄泉菜が頑張って人の心を読まないように努力しているのにもかかわらずに心を読んだのには、二人が仲直りしてほしいという願いからなのかもしれない。
「わかってる。俺たちで最善を尽くそう。」
そう言って俺は黄泉菜の手を取った。
自然と握ったその手は小刻みに震えているが、希望を絶えず待ち続けているかようにほんのり暖かい。
「まずは二人を探そう。集合するときはここ、2階の中央で、俺は上から、黄泉菜へ下から二人を探そう。おそらく店で何もなかったかのように買い物をしているということは想定しにくいから、なるべく立ち入りやすいところから中心に探してみよう。見つけたらスマホで連絡して。」
黄泉菜は小さく頷いた後、「壮太、ありがとう。」と笑って言った。
君付けなしで呼ばれたのは初めてだ。
その笑顔も、優しさも、全部まとめて俺は、、、、
黄泉菜が好きなんだ。
笑みを浮かべる黄泉菜を見ると俺まで自然に笑顔になれる。
「ありがとうは仲直りさせてからにしよう。とりあえず二人で探そう。」
俺と黄泉菜は一旦解散し、海先輩と智恵先輩をそれぞれ探しに行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます