第40話 互いの思考と素顔の付き合い

ゴールデンウィークも三日目になり、温度も春から夏へと変わっていく。


三日目の予定は特に決まっておらず、「遊ぶ」とだけ書かれていた。



そして今日は…






「ごめんなさい!少し迷ってしまって…待ちましたか!?」


少し息を切らしながら黄泉菜がやってくる。

白いワンピースで身を包んだその少女は、スカートをひらひらとなびかせて綺麗な脚を強調させる。

「可愛い」と「美しい」を掛け合わせた完璧な姿で登場した。


それに対して俺はというと…


「だ、大丈夫!俺も来たところだから。」



ごく普通のシャツにごく普通のズボン

白いシャツに黒のズボンで対照的な色を使い、着こなしているように見せるがそこまでオシャレではない。

見ただけでわかる「ファッションにはあまり詳しくない」人のコーデだ。


(めっちゃ可愛い…こんな俺がそばにいていいのか。)


本当にそう思ってしまうほどに美人だ。





ゴールデンウィーク三日目、

俺と黄泉菜は大型ショッピングモールへと足を運んでいた。

海先輩に今日の予定を問い合わせたところ、「本当になんでもいい。黄泉菜と一緒に楽しんでこい」との連絡だったので特に理由もなく買い物をすることにした。


別に買いたいものがあったわけでもなく、ただ『女子』と行くところが俺には古典的なものしかなかっただけだ。



「とりあえず、いろんなフロアを回ってから気になったところに寄りましょう。」


「そうですね。そうしましょう!」


二人は一階の隅の方から入る。

こうして俺と黄泉菜の『買い物デート』が始まった。









(しばらく来ていなかったけど久しぶりに来ると色々と変わっていておもしろいな。)


この大型ショッピングモールは結構有名なショッピングモールで、俺も小さい頃から行ったことが多々あった。



それに比べて黄泉菜というと…


「うわぁ!!こんなに大きなゲームコーナーがあるんですか!? わっ!ここには時計屋さん!その隣には服屋さんまで!?」


この大型ショッピングモールを堪能していた。


ただでさえゴールデンウィーク休みで人が多い中、黄泉菜はスルスルと人の間を抜けて行って次の店舗へと進んでいく


「まっ!待って!黄泉菜待って!」


気になったところへとすぐに飛び移る黄泉菜に対して、俺は人混みをかき分けて追いかけるしかなかった。






だいぶ人も落ち着いた場所まで着き、そこでようやく俺を待っている黄泉菜と合流した。



俺はまだ上がった息を整えながら、「黄泉菜はこういうとこ初めて?」と聞く。


黄泉菜は息の上がった俺を見ながら両手で「ごめん」の仕草をしたのちに答えた。


「そうね。しばらくは行けてなかったし、ここまでの大型ショッピングモールは本当に数回しか行ったことがないわ。行ったことがあるとしたら一つの店舗の店のみ。こうやってたくさんの店舗がある所は私の近所には少ないからね。」


「あー、」と言いながら俺は黄泉菜の家周辺を思い出す

たしかにあの場所は団地で店も少ないが、もともと都会とは言えない地域なので少し遠いところしかなくても仕方がない。


「壮太くんは逆にこういうところに行き慣れてるの?」


「行き慣れてるって言うよりも、小さい頃からここは利用してるし、まぁある程度は知ってるかなって感じ。」



最近は行けてなかったが、やはり久しぶりに来ると楽しいものだと感じる。



「ここ!ここに寄ってもいいかな!」


昔の思い出に浸っていると黄泉菜はもう隣にはいなく、だいぶ先にある店舗に足を運んでいた。


「あ、待って!」


誘ったのは俺だが、今日は黄泉菜に1日中引っ張られそうだ。













ようやく黄泉菜のショッピングモール熱も下がってきて、走らなくてもついていけるようなスピードになったが、依然として黄泉菜が足を止めることはない。


普段よりも歩くスピードが早い黄泉菜に精一杯ついていく俺はなんだか主導権を完全に黄泉菜に握られているような気がした。



「ここ、、、ここもまたクセの強そうな店ね…」


黄泉菜がようやく足を止めた店舗は、いかにも熱帯をイメージしたような熱帯雨林をモチーフにした感じの店だ。


(こ、こんな店あったっけなぁ…)


昔行った頃はなかった。

そう言い切れるほどに第一インパクトが大きいこの店は、どこか異様な威圧感を感じる。


「この仮面とか面白そう!なんかの民族〜みたいな!?」


そう言って黄泉菜は店の壁にかけてあった仮面を使って俺に精一杯現地の民族さを伝えるために仮面で遊び始めた。いや、正確には動きで訴え始めたと言った方が良いのだろうか。


少し恥ずかしがりながらも周りの目を気にして俺に踊る黄泉菜の仕草は、学校の優等生の殻を破った可愛い女の子だ。


それを見た俺はというと…

(か、可愛い!ちょっと恥ずかしがりながらもなんか変な踊りをしてる黄泉菜!学校では絶対に見られない貴重な姿だ…)


黄泉菜のちょっとしたおふざけテンションに尊さを感じていた。



ただでさえ黄泉菜は学校であまり無茶をしないタイプで、『クラスの盛り上げ部隊』というよりも『お淑やかな美女』という位置で存在している。

それが今、俺の目の前で覆ったのだ。


恥ずかしがりながら小さくフラフラと踊る黄泉菜に思わず抱きしめたくなるほど可愛いのだが、自分の理性をなんとか抑え込んで、なんとかその場を凌ぐことができた。



理性の効くうちにと俺は大きな深呼吸をして自我を保ちながら話し出す。


「俺もここにはきたことないな。とりあえず中入ってみる?」


イメージを完全に崩された黄泉菜を直視することができなくなった俺は目を泳がせながら黄泉菜に聞く。

黄泉菜はお面を自分の胸の前で持って「うん!入ってみたい!」と、興味津々に答えるのだった。




中は入ってみると意外と面白く、どんな木かは知らないがいい匂いがする


売っているのは少し変わったものが大半だ。

と、『民族っぽい』ものなのか『ある国の伝統品』なのかはよくわからないが、とりあえず見たことのないものがずらっと並んでいる。




(謎の筒に、謎のお面、あちこちに謎なものが多いから飽きないな。)

ウロウロすれば次々によくわからないものが現れる


そうしているうちになんとなくだがこの店に入る客の気持ちがわかってくるような気がする。



(いつもとは違う、少し見慣れないものにこそ人間は惹かれやすいんだ。だから俺自身も今こうやって店内を歩き回っているだけで面白いと感じるのか。)


せっかくの黄泉菜とのデートなので何かを買ってあげようと後ろを振り返るが、黄泉菜がいない。



「あれ…?黄泉菜?」


この店のものに興味を取られすぎて黄泉菜を見失ってしまった。


(ま、まずいぞ…黄泉菜、今日初めて知ったけど興味のあることにはとことん突っ走るタイプだからもうこの店から出て他のどこかに行ったんじゃ…?)




あれこれ考えすぎてオロオロしていると、後ろからシャツを引っ張る感覚があった。


振り向いてみると黄泉菜がいる。

何かを持っているようだった。



「黄泉菜!よかった、、てっきり迷子になったのかと心配したよ…。」



「これ…一緒に買ってみない?」


そう言って黄泉菜が持ち出してきたのは木製のパズルのようなキーホルダーだった。



その木のキーホルダーはペアで組み合わせるもので『どこにいても切れない縁』を表しているらしい。


(ペアルック!?黄泉菜からの提案で!?)


とても嬉しい。

俺が出会って初めて惚れた女の子から、ペアルックのキーホルダーをつけたいと願われるのは本当に、夢なら冷めないでほしい。



「も、もちろん!俺でよければだけど…」


俺が返事をすると黄泉菜はどこか顔を赤らめながら、「うん。壮太くんにつけてもらいたい。」

と、小さな声で答えた。



「じ、じゃあそれ、買ってくるね。」

俺は黄泉菜からキーホルダーを受け取ると店の中央にあるレジへと向かった。









レジへと向かう途中、俺の心境はどこか複雑な気持ちでいっぱいだった。


(俺と黄泉菜は…一応付き合っていないんだよな。俺は黄泉菜のことが……まぁ、好きだけど、黄泉菜からは俺のことをどう思われてるかわからないし、正直黄泉菜の初めての印象は「あまり付き合いたくはない」という感じだったし……)


考えれば考えるほど今の自分の気持ちの行き場がなくなっていく。



(俺は何を望んでるんだろう。黄泉菜は、何を望んでいるんだろう。)


あくまで今の関係は「見かけ上の交際」、黄泉菜の読心能力が制御できればそれで関係は崩れてし巻くのかもしれない。



そうしたら、こうやって二人で遊びに行くことは難しくなるのだろうか。


俺だけが意識をしている中で、黄泉菜と普段通りの生活ができるだろうか。





考えれば考えるほど自分の考えの沼にはまっていく。


(俺は何がしたいんだろう。)



未だ考えたことのない世界に踏み込んだ俺は、その場で動くことができずにただ先の方を見て景色を眺めているだけだ。




(俺は、黄泉菜と…)





気がつけばレジの目の前、店員が少し困ったような顔をしている。


「あぁ!すみません!」


俺はまだ自分の気持ちを整理し切ることができずに買い物を済ませ、黄泉菜の元へと帰っていった。





「なんか壮太くんに全部払わせちゃってごめんね。」


「いやいいよ。二人でつけるものだし、ここは奢らせてよ。」



黄泉菜の元へと帰るが、未だに考え方は変わらない。



店を出た俺と黄泉菜はさっき買った木のキーホルダーを二つに分けて、その半分になったパズルピースのようなキーホルダーを受け取った。



黄泉菜が嬉しそうにするのを見て、俺はまたあの気持ちが込み上がってくる。



(この関係が終わったら、この黄泉菜の笑顔も見れなくなる。俺は…黄泉菜に、どんな感情を抱いている?)


自分の問いかけにはすぐに答えが出た。



(俺は……)







黄泉菜が好きだ。

表面上の関係ではなく、正式に、恋人として、黄泉菜を支えていきたい思っている。


当然、自分が言っていることはとてつもなく重い責任がかかる。


まして、今の黄泉菜は読心能力が制御できていない、その読心能力を制御させるのには命をも背負っている。




(だけど、)




俺は思う。

それでもなお、黄泉菜とは『恋人同士になりたい。』と。





俺は黄泉菜の喜ぶ顔を見て、そう決めた。

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