第38話 お互いの思考とバケーション(2)

ゴールデンウィーク二日目


俺はというと…


「ねぇねぇ!うちのお姉ちゃんのことどう思ってるの!?」

黄泉菜似の中学生にされるがままの質問攻めを食らう。


そう、黄泉菜家にお邪魔していた。













図書館から帰ってきたその日の夜のこと、

次の日の予定を見て俺は目を丸くした。


「…ん?」



そこに書いてあったのは

「石原 黄泉菜家への訪問。ここである程度の勉強を終わらせるように。」

と、いう文字が刻まれていた。


以前も一通り目を通したが、今見てみればすごいことが書いてある。


「おいおい…おいおいおい…」


俺は好奇心もあったがそれ以上に緊張感と得体の知れない感情に気持ちが飲み込まれ、語彙力が完全に低下するほどにまで陥ってしまった。

嬉しい気持ちはもちろんのことあるのだが、逆にいえば「こんな俺が訪問してもいいものなのか…」というネガティブな思考も持ち合わせている。



「これ、黄泉菜は確認済みなのか?」


急いでポケットに入っているスマホを半ば乱暴に取り出してLINEを開く。黄泉菜とは三日ほど連絡をしていなかった。


日付と共に

「明日の予定だけど、俺が黄泉菜の家に行くってこと…?」

と送信した。


しばらくボーッと眺めていたが返事どころか既読はつかず、、、まぁそんなに早く来ることは想定していないから大丈夫だったが…


「とりあえず海先輩に連絡しよう。」


俺は黄泉菜とのトーク画面を切り替えてそのまま海先輩とのトーク画面を開いて通話ボタンを押す

まだ繋がっていないことを逆手にとって俺は

「なんでこんなことになってるんだよ…」

と本音混じりの言葉を呟いた。


四コール目で「壮太か。どうした?」と、すぐに海先輩と繋がる。


俺は海先輩と電話がつながると、まず言いたいことを率直に伝える。


「明日の予定で俺、黄泉菜の家に行くことになってるんですが、それって本当に行く感じなんですか?」


海先輩は最初言ってる意味が分からなかったらしく、「ん?」とだけ返答してしばらく黙っていたが、「あー、、」と何かを思い出すかのように呟き、話し始める


「まぁそうだ。そういえば明日は黄泉菜家に訪問だったな。あらかじめ黄泉菜には聞いてあるし、妹はいるが両親は出かけるから大丈夫だと聞いているから安心しろ。」


電話越しでも何故か頭の中で悪い笑みを浮かべる海先輩の顔が思い浮かんでくる…


「まぁ妹はいるものの、両親がいないのはある意味チャンスだと思うんだがな…」


単純思考で考えている海先輩に対し、俺はというと…


「チャンス!?何がチャンスなんですか!!?その…もしかしたら…ってことですか?そのもしかしたらっていうのはその…あ、アレのことで……」


「壮太、何もそこまで言ってないだろ。というか俺はほぼ何も言ってないぞ。」


ありえないところまで話が逸れて、ただ一人で喋って一人で喋ったことに対しての意見を言っている俺に対して海先輩は呆れたように止めの一言を放つ。


お互いが静かになり、電話回線のザザッとなる音だけしか聞こえなくなる。

そこで一息ついた海先輩がまた話し出す


「チャンスってのはあくまで『能力制御』の話だ。家族間なら能力の暴走はないと黄泉菜も言っていたが…後から聞いた話によれば「家族間でも読心能力は発生する。ただ自分にも負担がかからない程度だから気にしていない」というものだったらしい。」


たしかに黄泉菜は家族間においての読心能力は大丈夫と言っていた。


まさか「読まなくてもいい」じゃなくて「読んでも気にしていない」の方だったとは…

たった一文の違いだが、それだけで取れる意味は大きく変わってくる。


「それって海先輩やゆずさんにも起こった現象だったんですか?」


正直俺は読心能力を持っているわけでもなく、ただ俺の心が読めないだけの『異端者』と言ってもいい。

だからこそ読心能力を持っている人の体験談を聞き出すしかなかった。


「俺の場合…か。そこまで気にしていなかったが、まぁ家族間でも読めるには読めたぞ。ゆずには……聞いたことがない。」


俺は「そうですか…」と消えいるような声を出して少し黙った。


(家族間での読心能力は負荷はかからない…?それとも負荷がかからないと自分で思っているだけであって実際は負荷がかかってるかもしれない…)


あくまでも予想だが、海先輩が言いたいことはおそらくこのことだろう。

海先輩が手探りで読心能力の秘密を暴こうとしていたのが今の俺には自然とわかるような気がした。


「明日は黄泉菜の妹もいるらしいから、勉強ついでに黄泉菜の家での姿や読心能力の使用頻度、家族間での読心能力を使ったトラブルなどがあったら聞いてきて欲しい。これからの読心能力制御のための大事なポイントになるかもしれん。」


海先輩は俺に明日の予定の真の意味を伝えてきた。


もちろん俺もこの話を聞いてやらないわけがない。

己の強い意志を持って、俺は海先輩に宣言するように言った。



「明日が、俺の活躍次第によってこれからの読心能力制御の目標を大きく近づける一歩になるってことですよね。俺、今一度頑張って調査してきます。」


俺の強い意気込みに海先輩も機嫌が上がり、快調な口調で話す


「まぁ初めての彼女の家だ。俺の今言ったことも大事だが、他にも色々頑張れよな!あ、でも妹がいる前で黄泉菜とイチャイチャはやめとけよ?」


急に不意をつかれ、恥ずかしさに耐えれなくなった俺は赤面し、耳は真っ赤に染まり熱を持った。



「やっぱりそういうことも目的だったんですね!!?」


そこまで言ったところで通話を切られてしまった。

くそ、完全に俺を遊んでやがる…



「結局あの人、俺を使って楽しんでるな…」


通話が終わり、通知を見てみると黄泉菜からLINEが入っていた。


海先輩に言われた後ということもあって若干ドキドキしながらもトーク画面を開く。

黄泉菜からは、

「そうみたい。でも明日は私の家に妹しかいないからそこまで気を遣わなくてもいいからね。」

と、返信が来ていた。


(やっぱり黄泉菜の家に行くことは確定なのか…)


嬉しいには嬉しいが、よく考えてみれば登校初日に一目惚れした女子の家に行くわけだ。

まだ黄泉菜が俺のことを好きだという確信もないのに……



「とりあえず、海先輩が言ってたことは最低限聞くとして、、、普段通りでいいよね。」


無駄に緊張しても気持ち悪がられるだけだ。

俺はそのことを肝に銘じて明日を待つのだった。















「おはよう壮太くん。早かったね。」


白い家に紺色の屋根、とうとう俺は黄泉菜家に着いてしまった。



黄泉菜家に行くために教えてもらった情報が

「紺色の屋根に白い家。」


地図も無しにそう言われた俺は絶対に見つからないだろうと思い、予定時刻よりも早く家を出た。



(絶対道に迷うよな…だって黄泉菜の家って住宅街の中なんだよな…?)


俺の家は住宅街にあるわけでもないが、住宅街と聞いたらたくさん家が立ち並ぶ所……という印象しかないので、その中で紺色の屋根の白い家を探し当てるなんて無謀だと思っていたが……



「な、なんだここ…」


着いた住宅地は茶色い家、赤い家、緑がかった色をした家など、様々な色をした家が立ち並ぶ派手な住宅街だった。



俺は黄泉菜の家を色を頼りに探してみるが、カラフルな家が立ち並ぶ中での白い家は、かえって色が目立っていた。



よって俺は予定時刻よりも随分と早く着いてしまった……



「とりあえず中に入って。一応この時間に来るなんて思ってなかったから神奈子にも大丈夫か聞いてこなきゃ…玄関で待ってて!」


俺が少し早く着いたがために黄泉菜に忙しい思いをさせてしまっている…


(やらかしちまったな、俺…)



なんか申し訳なくて、心の奥底で謝っておいた。



(しかし…綺麗な家だな…。)


玄関に入ってきただけで黄泉菜から香るいい匂いがフワッと香ってきた。

家族全員の靴も綺麗に揃えられ、靴入れの上には可愛らしい置物や家族写真など…

俺の家とは比べのにならないほど綺麗で神々しい。



(これが、、これが女子の家か!!!)


考えていることが気持ち悪いなと自分でも思ったが、ここ十六年間俺は一度も女子の家にお邪魔したことがなかったのでこのリアクションになってもおかしくはなかった。



「んー、まだ神奈がご飯食べてたからとりあえず私の部屋に上がって。ついてきて。」


(へ、部屋!?!?黄泉菜の部屋に!?)


落ち着け、頭の中の俺。

家に呼ばれた以上、そうなることは想定内のはず…グヘグヘ喜ぶのは頭の中だけにしろ。


俺はそう言い聞かせ、黄泉菜の後をついていった。







「少し散らかってるかもしれないけど…どうぞ。」


黄泉菜の後をついていった俺は、目的地である黄泉菜の部屋に到着した。


「し、失礼します…」と小さな声で言いながらゆっくりと部屋に入る。

多分、黄泉菜から見た俺は相当気持ち悪い動きをしているに違いない。



(おお、おおぉ…。ここが黄泉菜の部屋…)


ちゃんとした女子っぽい部屋で、可愛らしいデザインの部屋。ベッドにはぬいぐるみが布団をかぶっている


(す、すげえ〜、なんか、、、別次元だな。)


俺の薄暗くて教科書が机に山積みになっている部屋とは違って、いろいろなものが綺麗に棚に収納され、それが広い空間を作り上げている。



「あ、あんまりジロジロ見ないで…部屋、結構汚いし…」


「いやいや!めっちゃ綺麗じゃん!俺も見習わないとな…」


急に褒められた黄泉菜は「そう、かな。」と呟いて顔を赤らめた。


「とりあえずそこに座って。勉強でわからない場所とかあったら教えるから。」



俺はソワソワしながらも「あ、それならお言葉に甘えて…」と言いながら言われた場所に座る


まだ好きな人の部屋に入っているこの状況にならずにソワソワしていると、黄泉菜もそれに気づいて俺の隣に座る


「そんなに緊張しなくても…私だって、こうやって男の子を自分の部屋にあげるのは初めてだし…」


俺はそっと黄泉菜の方を見る

黄泉菜も自分と同じように頑張って恥ずかしさを隠している。


こんな感じが続くなら…

俺はもう少しこのまま居てもいいなと、そう思えた。






この時の俺はまだ知らない…

黄泉菜の妹がこの後の二人の距離を大きく縮めることなんて。





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