第36話 寄り添う思考と休みの日

「「ゴールデンウィークの予定?」」


二人はほぼ同時に海先輩からの言葉を聞き返した。


「あぁ。もう二人で一緒にいるのは慣れたか?」


「ま、まぁ俺は大丈夫です。」

「私もだいぶ慣れてきました。」



心理部の隣の空き教室に、海先輩と黄泉菜、俺の3人で机を借りて中央でくっつけて座る


俺と黄泉菜が隣同士、それと対面になって真ん中に海先輩がいる状態だ。


「お互いだいぶ打ち解けたようだな。まだ黄泉菜の能力に変化はないし、このまま一緒にいる方法でもう少し様子を見てみようと思う。」


俺は何かを閃いたように目を見開いた


「って事はゴールデンウィークも一緒にいる感じですか?」


海先輩は少し言葉を詰まらせて低く唸ったのちに、ゆっくりと話し始める。



「別に強制じゃない。数日間ある休みだから家族でどこかに出かけてもいいんだが、なるべく壮太は黄泉菜といた方がいい気がしてな。一応二人のゴールデンウィークの予定を聞いておこうと思うんだ。」


俺と黄泉菜は海先輩の提案に「なるほど…」と、小さく声を揃えて呟いた



「私は子供の日に家族でどこかに行こうという提案があったので、そこだけ予定があります。」


「俺は…ないな。」



家族が揃って出かける時なんて長期間の休みの日にあるかないかの話だ。

ゴールデンウィークはその[長期間の休み]という部類に入らないらしい。



「…わかった。それじゃあお前らの予定をもとに黄泉菜と壮太がなるべく一緒にいられるようなスケジュールを立てようと思う。」


海先輩は息を切って話を一区切りして、また話し出す


「ただ、勉強もやってもらう。どうせゴールデンウィークなんだ。課題は出るだろうと思うし、まぁそれも踏まえた上でスケジュールを立てるから心配するな。」


俺と黄泉菜はお互いに向き合って

「やっぱり課題ちょっと多めに出るんだな。」

「ええ。でも数日間と続く休みの量なら仕方ないわ。」


と、お互い見つめ合って話し合う。


「とにかく、今日はこれで解散とする。また黄泉菜か壮太にスケジュールを立てた紙を渡すからそれで問題なければそれでいこう。」



海先輩は俺らに過去の話をしてから、黄泉菜への対応を細かくするようになった。


それは、自分が過去に失敗したことをもう二度とさせないためなのか、それとも読心能力の性質を調べるために行っていることなのかはわからない。

ただ、海先輩が俺と黄泉菜に手をかけて一生懸命制御する方法を考えてもらっていることを考えると、「自分も何かできることがあるんじゃないか」と、そんなことを思う時がある。



(海先輩はなんでここまで人のために動くことができるんだろう…)


俺は密かに海先輩に『尊敬』をしていた。

それは海先輩の行動だけではなく、最初の頃の無愛想ななところを含めた、海先輩を作り出しているその人自身の『個性』と『特徴』に俺は尊敬したんだ。



















「ゴールデンウィークも一緒にいることになったね。」


黄泉菜は少し困ったような笑顔を見せた。

それは、俺と一緒にいるのが気まずいという事なのか、自分が迷惑かけてしまっている事に困っているのか、、、

どっちにしろその困った笑顔には何かを意味する思いがあることぐらいわかった。



俺は帰る足を止めずに顔だけを黄泉菜の方へと向かして様子を伺う。


「まぁ、俺が隣にいても勉強は教えれそうにないし、勉強中も邪魔しそうで怖いし、メリットは少ないだろうな……」


「そんなことないわ!!!」


まだ自分が放った言葉の余韻が残っているのにも関わらず、黄泉菜は俺の言っていることに否定した。


「確かに私の方が勉強できるかもしれないし、ずっと一緒にいると私だって集中できなくなる時もあるからなんとも言えないけど、壮太くんには壮太くんらしいメリットがあるよ!」



黄泉菜から出た言葉は重みがあり、どこか言葉の中に暖かさを感じた。


「…俺、黄泉菜に助けてもらってばかりだな。」


俺は情けない声で黄泉菜から視線を外して呟いた。



「そんなことはないわ。」


黄泉菜は優しい声で俺を包むように言葉を放った。


「実際、私なんて壮太くんがいなかったらこの能力の制御なんてできたものじゃないし、それこそ壮太くんの方が私の支えになってるもの。」



すごく気持ち良さそうに自分のいいところを話されると、どこか心の奥がムズムズして恥ずかしい…


「とりあえず、ゴールデンウィークも二人で一緒にいる時間が多くなりそうだし、それからもよろしくな。」


俺は黄泉菜の方をあえて向かずにそう言った。
















「とりあえずスケジュールを立ててみた。ここから何か予定があったら書き入れる方針でいこうと思う。」


翌日の朝、登校してカバンを下ろした俺に海先輩が二枚の紙を持ってきた。

どうやらその紙が俺らのゴールデンウィークのスケジュールらしい。



「わざわざありがとうございます。そのもう一枚は?」


「黄泉菜用だ。ついでに渡しておいてくれ。」


俺は海先輩に二枚の紙をもらい、その一枚を自分のクリアファイルに入れた。


「たまに俺も様子を見にくるかもしれないから、その時は黄泉菜の様子などのことを報告してくれ。」


海先輩はそれだけを言って俺らの教室を去っていった。

その背中は凛々しく、かっこよく見えた。




「壮太どうした?最近部活に来てないし、急に海先輩と仲良くなりやがって、もしかして媚び売ってるとか?」



「うわぁ!お前、びっくりさせんなよ…」


いきなり背後にいた竜に驚き、飛び跳ねてしまった。


「なんだそれ、予定表?心理部に予定表なんてなくても部活の日ぐらいわかるだろ?」


竜は俺の手に持ってる一枚の紙を指さしてそう言った。


「いや、これゴールデンウィークの予定。海先輩が『無駄のないゴールデンウィークを過ごせ』って言われて作ってもらったんだ。」


黄泉菜の読心能力を治すための予定だということを隠しながらも、竜を説得できるように綺麗に嘘をつく。

よく考えればこんな嘘一瞬でわかりそうだが、竜は騙されやすいことを使って楽に説得ができそうだ。



「ずりぃな〜それ、俺も海先輩に頼んだら作ってもらえるかな?」



予想通り竜は俺の嘘に引っかかり、嘘の話題に釣られる。



(相変わらず単純だな…将来詐欺とかに騙されなければいいんだけどな)


何一つ疑うことなく信じてしまう竜には流石に不安を感じた。




「二人ともおはよう。」


竜と一緒に話していると黄泉菜がやってきた。

黄泉菜は俺をみてすぐに手に持っている紙がなんなのかを一瞬で把握した。


「それって…」


竜の前で平然と読心能力の話をしようとする黄泉菜を、俺は竜に聞こえない程度の声で話す


「黄泉菜!竜にはまだ内緒!」


ちゃんとジェスチャーも込めて黄泉菜に合図すると、黄泉菜も俺の言いたいことに気づいてくれた。



「あー、その紙って私用?」


「そうそう!とりあえず目を通しておいて!」


俺と黄泉菜は竜にバレないようにささっと事を終わらせる。


黄泉菜が自分の席につき、無事案件が終わったと思いきや竜がゆらりと俺の方に寄ってきて小さな声で話す


「何…お前と黄泉菜めっちゃ急に仲良くなってんじゃん…お前ら付き合ってるのか?」


「ゔっ、」


不意に竜の口から出た言葉に戸惑いを隠せない


俺と黄泉菜は一応付き合っている事になっているが、竜にその事を言ってしまうとまた色々と面倒なことになってしまいそうなので言っていない。


「いやぁ〜、ちょっと最近喋れるようになってきたかなぁ〜って感じかな。」



俺は竜に付き合っていないフリをしてなんとかその場をしのぐ。


「ふーん、まぁ俺はお前らを応援してるからな!俺も頑張るからさ!」


「ん?お前も頑張るってどういう事だ…?」


竜にその事を聞こうと思ったが、竜は「あーもうそろそろ朝礼の時間になるー」とまるで俺の言葉を遮るかのように喋りながら自分の席へと戻っていった。




(なんだ…?竜のやつ、)


俺は竜のどことなく不自然なテンションを気にかけながら一日を過ごした。












(しばらく忘れていたけど、黄泉菜は俺のことをどう思ってるんだろう…)


学校も終わり、一人自分のベットで仰向けになって今日一日を思い返す



(俺はこれからどうしたいんだろう。黄泉菜とは、今のままの関係で十分なんだろうか…)


しばらく触れていなかった感情が、今日の竜の言葉で息を吹き返すように湧き上がってきた。


(まぁ今はまだ、結論を出さなくていいかな…)




明日からゴールデンウィークが始まる

俺は海先輩から貰ったスケジュールをもとに黄泉菜と行動する。


(まず第一の目的は黄泉菜の読心能力を制御できるところまで安定させる事、俺はそれを助ける補助係という役割を果たすだけ。)


自分にそう言い聞かせながら俺は眠りについた。











ゴールデンウィークが始まる。

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