第35話 先輩の思考と受け継がれる能力《2》

「お久しぶりです。先生。」


俺は目の前にあるお墓に向かってそうつぶやいた。



俺の先生……












「君のような症状が出ている人はちらほら聞いたことがあるんだけどね、まだそれが病気なのかそれとも精神的な何かなのか…医学的にはまだ判明されてないんだ。」



小学六年生に急に使えるようになった俺の読心能力は友達にも、両親にも話すことなく、自分一人の秘密にしていた。



だが、一年も経つと両親も俺の言葉に違和感を感じるようになり、中学生になったばかりで俺が人の心を読めるということが両親にバレた。


正確には『バラした』の方が言葉的に適切だが、言わなくともそのような検討がついてるような状態だったからこそ俺は包み隠さずに読心能力について両親に語った。



もちろん、両親はことごとく心を読んでしまう俺のことを気持ち悪がり、総合病院へと連れて行かれた。


「人の心が読めてしまうという症状ならエンパスやHPSが該当するんだが、『人の心が確実に読める』となるとそれらの症状には一致しない。君は少し、いや結構特殊な人間だ。」



当然、俺が病院に行ったところで言われることはどれも同じような言葉だけだった。



正直どんな人に頼ろうとしても無駄だろう。


病気なのか、第六感なのか、人間の奥底に眠っている潜在能力なのか、、、

はっきりわかっていない時点で病院に行っても無駄足にしかならない


親にそのことを言っていろいろな病院に行くのを断ったが、言葉で「必ず治るよ」と言い続ける親の心の中にも「早く治って欲しい。」という思いを読み取ってしまったがために激しく抵抗することもできなかった。


そんな中、とある精神科の病院に行ったときのことだった。


「『人の心が読める』かぁ。それも、確実になんだろ?」


ちょっとパーマのかかったその病院の院長は俺の話を聞くなりパソコンに忙しく文章を打ち込む


「君みたいな患者はごく稀だがいるにはいるんだ。特殊体質なのか、偶然で予想したことが全て当たっているのか……まぁ、小学…六年生からだったか?そこから今まで一年ほどあったわけだが流石に全て偶然で予想が的中することはないからな。おそらくなにか特殊な体質なんだろう。」


独り言なのか両親に説明しているのかわからないが、一人でボソボソとパソコンを打ちながら喋った後にパソコンの手を止めて椅子を回転させ、俺と両親の方を向く。



「私の知り合いに心理学を研究している人がいまして、その人ならこの特殊体質について何か解決策を知っているかもしれません。とりあえずその人にどのような症状なのかをもう少し具体的に伝えたいのでいくつか質問をしますが大丈夫でしょうか?」


言葉の使い方から両親に向けての説明の話だとわかった。


もちろん両親はその話に賛成気味で、いくつかの質問を答えることになった。


「それじゃあえっと…海くんだったね。答えれる範囲でいいから質問に答えてくれるかい。」


俺はそこまで乗り気ではなかったが、両親と院長が勝手に話を進めたせいで断れる雰囲気ではなかったので仕方なく答えることになった。


「まず、両親の心も読めるのかい?」


「はい。他の人と変わらず読めます。」


俺の質問に対してパソコンを打ちながら「身内の人も読めるのか…」と、呟きながら文字を打ち続ける


打ち終わったと同時に椅子を動かして俺の方を向いてまた質問をする


「その、心が読める感覚ってわかるかい?」


「まぁ、なんとなくはわかります。絶対に知らない情報がもともと知ってたかのように思い出されるので、明らかに聞いたことのない情報なら心を読んだ感覚はわかるんですけど、微妙なラインの情報だったりすると心を読んだのかわからない時もあります。」


「その微妙なラインの情報ってどんなものが微妙なラインなのか詳しく教えてくれるかい?」


今度はパソコンから目を離すことなく質問をしてきた。


「例えば好きな食べ物や芸能人とか…そんな感じです。」


院長は「たしかに微妙な情報だな…」と呟きながらパソコンにメモをとりながらまた質問をする………






この質疑応答は十二分ほど続いた。



「たくさん質問して悪かったね。あとはこの情報を心理学の人に送って解析してもらうことになります。」


院長は俺に消しゴムを渡し、両親に心理学を研究する人の事務所への行き方などを説明して診察が終了となった。




その後、事務所の行き方を教えてもらった両親は家に帰らずにそのまま事務所へと向かった。



そこで俺はのちに『先生』と呼ぶ人に出会った。












「一年って早いですね…」


俺は目の前にあるお墓に向かってそう呟く。


肌寒いような季節が終わり、日差しも熱を持つようになってきたこの季節はどこか寂しさを感じる。

少し強めの春風は近くにある桜の花びらを運んでくる。


「先生、俺は二年生です。楽しくやってます。」


そう言って俺は春風によって運ばれてきた桜の花びらを一枚、ゆっくりとつまんで拾い上げる………

















「君が海くんだね。猿島先生からは聞いてるよ。心が読めるんだって?」



病院で紹介してもらった事務所に行ってみるが、特に心理学を研究しているような感じではなく、ただ痩せ気味の青年のような人がいるだけだった。



「あ、ご両親方どうぞこちらの席に…」


痩せ気味の青年のような人は俺の両親に椅子を出し、俺はなぜかその人の机と対面にある椅子に誘導させられる


「さてと、猿島先生から一通り特徴を聞いたんだが…まず『人の心が読める』だったよね?」



気楽に話しかけてくれるその人の机には『葉桜 津(はざくら しん)と書かれている



流石に事務所のその人も俺がずっと机にある自分の名前が書いてある紙を見ているのに気付いたらしく、自己紹介をはじめた。


「私はこの事務所で働いています。葉桜津と言います。心理学者ってほどではないのですが、過去に何度か心理系の悩みで困っている方を治したりしたことがあるので猿島先生から心理系の患者を受け持つように頼まれています。」



見た感じそこまで凄そうな人に見えなかったが、病院の先生に頼まれるほどの実力なのを知ると心のどこかで「この読心能力を治してみろ」というひねくれた考えを持ってしまった。



両親も「人の心が読める能力を治したことがある」という自己紹介の中にあった一文に興味を持ち、「この症状は治るんですか!?」と食い気味で質問をする



「治すといっても『制御する』の方が正しいと思います。読心能力は病気とかでもなく、その人が生まれ持った能力みたいなものですので、今はそれが暴走して勝手に発動していると仮定し、私はそれを自分自身で制御できるところまで持っていく役割をします。」



いきなり始まった津さんの話は聞いているだけだとどこかのファンタジーゲームのような内容だった。


「津さんは、俺の読心能力を制御できるって言い切れるの?」


俺はあえてプレッシャーをかけるように津さんにキツい言葉を放った。


当然母親がその俺の無礼な態度に反応して俺の頭を加減知らずに叩く。

もう中学生なんだ。そういう扱いは他所でしないでもらいたい。


そう言葉に出そうだったが、ギリギリのところでそれを言わないでいた。



「津さんか…あまりそう呼ばれたことはないな。できれば『先生』と呼んでいただけないか?その方が僕にとってもコミュニケーションが取りやすい。」


津さんはそれを俺に伝えた後に呼吸を整えて話し始める


「まぁ僕ができる最善策で海くんの読心能力を制御させてみるけれど、最終的には読心能力を扱う本人が制御の方法に気づかなければならない。そういう面では僕が海くんの読心能力を制御できるのか、、というよりも海くん自身が制御しようとしているのか、、の方が適切な答えだね。」



長々と話した後に先生は手を差し伸べてきた。




「君の能力はいつか、自分の能力を制御できる。それまでは、よろしくね。」


俺はその力の入りそうにない弱々しい手を少し強めに握って、


「こちらこそ、よろしくお願いします。」

と、握手を交わした。

















「先生、先生が亡くなった時、俺はまだ自分の能力を制御できてなかったですよ…なのに『能力を制御できるまではよろしく』とかいってカッコつけちゃってよ………」


俺は座ったまま墓周辺にある雑草をただただむしるだけだった。

心の奥底で何かがざわつく。何か他のことをしなければ今にも涙が溢れてしまいそうだった。






「おーい!海!迎えにきたぞー!」


遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。



俺は急いで目をぱちぱちさせて涙の水分を目に溜め込んでゆっくりと立ち上がる。


「先生と話せた?」


智恵が後ろから呼びかけていることがわかる。



「ああ。本当はもっと話したかったんだが、また来るよ。」


俺は後ろを振り向いて智恵と帝の方へと歩いていく。





(先生、俺は今、自分の能力を制御できています。今は同じ症状を持った後輩にも、先生のように優しく接しています。次は、俺が先生の役目を果たします。)



俺は心の中で呟いた。






サクラが舞い散る中、

海がさっきまでいたお墓には綺麗に整ったお花が供えられていた。





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