第34話 先輩の思考と受け継がれる能力《1》

霧原 海

そう名付けられた俺は、母も父も何も変哲のない家庭で俺は生まれた。



もちろんその当時は読心能力なんて縁もゆかりもない話だった。

言ってみれば黄泉菜とは違った発症の仕方だった。


黄泉菜は幼い頃から読心能力を授かっていたらしく、俺はというと少し経ってからその能力に気がついた感じだ。




というのも俺が人の心を読むのを完全に制御できるようになったのはつい最近のことーーー



それは、読心能力によって亡くなってしまった天川 ゆずの『死』から影響だった。










小学六年生になってその能力は開花した。


それは、紛れもなく「心を読む」そのものだった。


相手が思っていること、苦手なもの、得意にしているもの、、、全てが人を見るだけでもともと自分が知っていたかのように個人情報が脳の奥から湧き出てくる


正直素晴らしいと思った。



自分は『選ばれし者』だったんだ

そう思うことは日常茶飯事だった。


そのせいでやらかしたのは中学時代だ。



初めて出会った子にも俺は気軽に話すことができた。

ほぼみんな「誰かと喋って仲良くなりたいなぁ」なんて思っている奴が大半だったこその話だ。



だからこそ自分から声をかけた訳だが…

俺はどうやら調子に乗りすぎだようだ。




読心能力を使った挙句、相手のプライベートな事情までが俺に筒抜けの状態になる。


俺はその感覚を小学六年生から知っているがために少し特殊な行動をする人も「そう言う人もいるんだな。」という薄い感情しか湧かなくなっていた。


よって俺がとった行動は、相手がどんなことをプライベートな時間で行っているかを読み、それにあった話ばかりを出会ったすぐに話していた。



今でもなんであんなことをしたのかよく分かっていない。


考えてみればあの行動がいかに嫌われる行動だったのか一瞬でわかる話だ。


いきなり初対面の人から自分がプライベートの時間に行っていることを主とした話をされたら自分はどう思うだろう。


間違いなく引くだろうな。




おそらく街でアンケートを取ったとしても大体の人が「気持ち悪い」「気味が悪い」と、答えるだろう。



ただでさえ自分一人の自由時間に行っていることが初対面の人にバレている。

それを踏まえた上でその初対面の相手はそれを話題提示のために使ってくる。





今考えただけでもゾッとする。



それを中学時代の一番初めにしでかしたのが…俺の唯一の黒歴史だ。



まぁ当然のごとくみんなに気持ち悪がられ、学校で噂になり、ついたあだ名は「ストーカー」だ。


俺が小学校時代、中学生になったら絶対にやってはいけないことナンバーワンに輝いた

「友達がいなくて学校でボッチ」

が完成しつつあった。




しかし、完全なるボッチになることはなかった。


どうやら俺の能力を気味悪がらずに好奇心で捉えてくれる人が数人いた。



その中でも今もなお縁が切れることなく繋がっている人の名前、朝山 帝(あさやま みかど)と尾野尻 大和(おのじり やまと)


この二人だけは俺の特異体質とも言える読心能力に興味を持ってくれた。












「へいへーい、海くんやーい。お前またテレビに出てたじゃん。全く、その能力ってのはどこで手に入れれるもんなんかねぇ…」


教室に入り、教科書で詰まったカバンを机の横にかけてそのままの流れで自分の席に座った俺を狙ったかのように帝が話しかけてくる


「それ、なんの番組だ?」


「あれだよ。あれ、『瞬き禁止!衝撃映像二時間スペシャル!!』で人の心を読んでた奴、あれお前だろ?」


「あぁ、あれね。」


正直たくさんのテレビに出演させていただいているおかげで、どの番組で何を喋っていたか…なんてものはとうの昔に忘れている。


それを俺は知っているかのように返事をする。


「俺にだって人の心が読めたらなぁ…東華ちゃんの思ってること全部してあげたいのに…」


そう言いながら帝は樺島 東華(かばしま とうか)をチラチラ見ながら東華に気にしているアピールをして、目があったら目を逸らすというなんともくだらない茶番をし始めた。


(帝と東華かぁ…能力を使わずして見る限りお互いに惹かれあっているように見えるが…ダメだ。気にしすぎると能力を無意識に使いそうだ。)


チラッと帝を見た後にその視線を東華の方に移す。


樺島東華

小柄で明るくてリーダーシップのあるクラスメイト。髪はショートでサラサラしている。



(まぁ意外と真面目で運動神経のいい帝王ゴリラなんだ。東華が好いている可能性はないわけではないが……)



帝と東華の恋を応援するにしても俺は決して能力を使うことはしないだろう。





(何にせよ人のそういうプライバシーな情報は自分から漏らさない限り秘密にしておきたいものだろう。)


別に出来ないわけではない。

制御をしなければ相手のどんな情報だろうと抜き取ることは可能だ。

だが、読心能力を使う上でもルールってものはちゃんと作っておかないといけない気がした。


国が法律というルールを作るのと同じように、この能力もルールで何かを決めなければいけない。



「俺は決してお前のために読心能力を使う事はしないからな。」


俺は自分の机の前に立っている巨大なブツを見上げてそう言った。



「安心しろ。さっきの言葉、七割ネタだから!」


そう言って帝は右手で勢いよくグッドサインを繰り出した。


「残りの三割どうした。ガチだったか。」


「まぁ…だったかもしれないな。」


急にモジモジしながら帝はそう呟いた。


「巨大なゴリラがモジモジすんじゃねぇ気持ち悪りぃぞ。」


俺はこの過去に何回もやったことのあるツッコミをいつものように入れ、呆れを行動にして表すかのように大きなため息をついた。




「あ!海くーん!昨日のテレビすごかったよ!やっぱり私、亜矢乃智恵が部長を務める『心理部』があるからこその実力ね!」



またなにかが俺の方に寄ってきた。


自分で名乗っていたから誰が向かってくるのかは大体想像がつく。

心理部部長、亜矢乃智恵だ。


智恵は俺に急接近して

「あなたの心、読めますよ。」

と、番組で俺が視聴者サービスのために言ったであろうセリフをドヤ顔で放ってきた。


俺はドヤ顔で俺のセリフを吐く智恵に対してドン引きを表すように顔を変える。


「はぁ…役立たず部長のせいで現在主力で部活成績を納めるの大変だわぁ…」


俺は小馬鹿にしてくる智恵相手にわざと疲れたフリをする


「役立たずじゃないですぅ!一回テレビに出たことありますぅ〜!」


「読心能力者霧原海が所属している心理部にお邪魔してみましたのインタビューだろ。それ言っておくけど俺いなかったらお前映ってねぇからな?」


智恵は「私の実力だもん!」と頑なに俺の意見を否定しながらも「まぁ海くんがいるからこそ心理部は成り立ってるんだから、これからも頑張ってね!」と、日頃の感謝の気持ちなのか、俺だけに頑張れという煽りかなにかわからない言葉をかけられた。



「そういえば、今日予定とかなかったら本屋行かないか?俺まだ新刊買えてなくて部活ない今日はいけるかなと思ったんだけどどうだ?お二人さん!」


帝はそう言って両手で俺と智恵それぞれを指差して提案する。


「いいね!私も気になってる小説あるし、今日は心理部オフだからいけるよ!」


帝の提案に智恵もノリノリだ。




実際俺も同じ部活の部員、羽山花音が書いている小説や本の状況も確認はしておきたいと思っている。


だが、


「残念だが、今回はパスでいいか?」


俺から出た言葉に二人は「なぜ?」の顔のまま少し停止した。


「なんで!?今日は心理部オフだしどうせ海くんのことなんだから他の予定入ってないはずでしょ!?」


「おい、お前俺を馬鹿に……」


「テレビの収録…いや、それなら公欠扱いで学校を休むはず…それなら、女!?女なのか!?」


勝手に俺の意見を取り込まずに二人は言いたい放題言いまくる



「うっせぇ巨人、そして役立たず。」


俺は二人を黙らせるために帝には腹パン、智恵には腹チョップを座ったまま威力最大で打ち込んだ。



「「ぐふぅ……」」


二人は全く同じ動作をしてダメージを受けた場所をカバーする



「今日はあれだ。先生とあってくるんだよ。」



俺は二人にそれを伝えたのちにどこか自分で言った言葉が恥ずかしくなって照れ隠しをバレずにするように頭をワシワシと少し強めに掻いた。



「あぁ、そっか。お前そういえばそんなこと言ってたな。」


「会ってくるならちゃんと会って話してくるんだよ!海くん!」


どうやら二人とも俺の理由を言葉以上に掘り下げることはせずに、納得してもらえた。
















俺は昔から人付き合いがそこまで上手ではなかった。


だからこそ、智恵や帝、大和には本当に感謝をしている。


(昔先生の話をあいつらに話したことあったかなぁ…)


俺は一直線に目的地へと向かい、一つのお墓の前にたどり着いた。


ゆっくりとかがんで挨拶をする



「お久しぶりです。先生。」

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