第28話 考えさせられる思考と先輩の過去《1》
「海先輩いつ呼び出すの?」
「とりあえず部活始まる前に呼んだいた方がいいよね?」
海先輩の過去を聞くことで決定した日から次の日の放課後、俺と黄泉菜はどのタイミングで海先輩を呼び出すかを考えていた。
一応恋人関係と言う形になってから、学校内でも黄泉菜と話す機会が増えてきた。
当然周りの奴らが変な噂を立ててうるさいが、正直とても恥ずかしい。
教室内の人数がある程度少なくなったところで黄泉菜が話をするためにやってくる。
「学校でも私たちが付き合ってるんじゃないか疑惑が出回ってるね。」
話してることが他の人の目につかないように、なるべく自然な雰囲気で黄泉菜が俺に小さな声で呟く。
「僕も結構恥ずかしいんだから……黄泉菜さん可愛いし、俺と付き合ってるなんて噂……」
「なっ!?な、何言ってるの壮太!?やめてよ急に恥ずかしい事言うの……」
黄泉菜にべしっと背中を叩かれたが、お互いに恥ずかしくなって顔を赤らめる。
「…………それって誰情報?」
「私の友達、私だって結構恥ずかしいんだから……心読めちゃうから勝手に変なこと考えてるし……」
「なんて答えたの?」
「……一応付き合ってるって言った。だって言わなきゃ付き合ってる意味ないじゃない……」
(まぁ……そうだよな。)
『付き合ってるって言わないと今付き合ってる意味がない』
やはりこの関係はあくまで黄泉菜の読心能力を制御するために付き合ってるのに過ぎない言い方だ。
(そうとわかってても、やっぱり付き合うなら告白してからのほうがよかったな……)
ただ、今告白してもややこしくなるだけなのは自分が一番よくわかっている。
とりあえず黄泉菜の読心能力を制御できるまではこの気持ちを封印しておこう。
本当のことを言いたいのに言えない
これは自分の特殊体質のせいでもあり、自分の意思や、関係性によるものでもある。
当分はこの関係を維持するしか道がないのだった。
放課後が始まってからある程度の時間が過ぎ、海先輩を呼び出すのにちょうどいい時間帯になる。
ただ一つ問題があるとすれば「海先輩をどうやって部室から呼び出すか」だ。
「過去の話が聞きたいんですけどって流石にダメよね…」
「海先輩も教えてくれるって言ってたからいいんじゃない?部活中に呼び出すのは申し訳ない気もするけど、僕たちが部活に参加できない以上海先輩から来てもらうしかないからね。」
俺の提案に黄泉菜も賛成し、呼び出すことに決まったが、次なる要因としてどこでその話を聞くかで迷ってしまう。
「誘い出す内容は決まったけど場所が……いつもみたいに屋上にする?」
「流石に何十分も外で話を聞きたくないかも……できるなら室内の方がいいな。」
「室内かぁ……あんまりいい場所知らないんだけど。」
二人で悩んでいる中、黄泉菜が突然何かを閃いたようで俺にジェスチャーで何かを伝えている。
「ここでいいんじゃない?」
「この教室?教室全般は部活が終わるまで空いてるし、そうだな……」
教室内を見渡す。
数人ほどがまだこの教室に残っているが、三人で話すには十分問題ない場所だった。
「海先輩に聞いてみないとなんとも言えないけど、ここでいいんじゃないかな。」
「じゃあ決まり!私呼び出すね。」
そう言って俺と黄泉菜は、海先輩を呼び出すためにLINEを送った
「……で、早くも俺の友達の話を聞くためにここへ呼び出したと。君たちは行動が早いね。」
部活中だったから来ない可能性も考えたが、予想通り海先輩は部活を中断して俺らの方へ来てくれた。
相変わらず洒落た服を上手に着こなし、さらっとした体型を活かした清潔感ある服装だ。いつ見てもかっこいいと感じる。
あとはもう少し心理のこと以外に頭を使っていれば完璧なはずなのに……
「いきなり呼び出して申し訳ないです。でも、特殊体質のことは僕らももっと知っておくべきだと思ったので、なるべく早めに聞こうかなって思ったんです。」
「そうか……まぁそれはそうだな。」
海先輩はそう言いながら教室内をざっと見渡して低く唸る。
「他の人がまだいますもんね……他のところに移動しますか?」
「いや……まぁ、大丈夫……か。」
「……本当に大丈夫ですか?」
そこまで詰めると海先輩は渋い顔をしながら話し始めた。
「…………特殊体質は思っている以上にいろんな人が持っているものだが、極力他の人には知られない方がいいだろ。それこそ黄泉菜の『読心能力』に関しては知られると厄介でしかないんじゃないのか?」
読心能力なんて何も知らない人から聞けば最高の超能力としか思えない力だ。それこそ悪用してやろうだとか、上手に相手をコントロールしようだとか、そんなことを考える輩が増えることは簡単に想像がつく。
「そうですね……やっぱり場所移動しますか?」
「いや、まあまいいさ。なるべく伏せながら話すよ。」
机を動かして、海先輩と俺らが対面する形に変えてから椅子に座る。
「で?俺の話も聞きたいだろうが、まずは状況把握からだ。最近黄泉菜はどんな感じだ。何か変化はあるか?」
「そうは言ってもまだ一週間も経っていませんからね……効果が感じとれるほどの実感はないです。」
「そうか。……本当に壮太の声は聞こえないのか?」
「ええ。先輩の心も煩悩がないというか、そこまで強く考えていることがないというか、そんな感じで読みにくい人なんですけど、壮太は本当に何も聞こえないんです。」
「面白いな……そうか、読心能力は強く物事を考えれば考えるほど読みやすくなるのか……」
海先輩はどこからかメモ帳を取り出して今書いた内容をすらすらと書き留める。
「あの……そろそろ本題に入りませんか?」
「ああ……すまん、今日の本題は違ったな。」
海先輩はメモを取り終えて胸ポケットにしまい、指を組んでふうっと一息つく。
瞬間、一気に雰囲気が変わった。
今までの雰囲気とは打って変わって伝えたいという気持ちが空間に滲み出ているいるような、そんな雰囲気が感じとれる。
いつのまにか日の光で明るく保たれていた教室も綺麗な赤色に染まり、教室に残っていた数名の生徒も帰って三人だけの空間になった。
海先輩は若干躊躇しながらも、ゆっくりと話し始めた。
「俺にはな、仲良くしてたダチというか……まぁ、……その、なんだ、好きな人がいたんだよ。」
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