第26話 気になる思考と先輩の素性《3》

時刻は午後四時頃、まだ日もかけておらず、気持ちいい風が吹き抜ける。

春終わりの屋上にて、海先輩が空を見上げて呟いた。


「俺は特殊体質じゃないからなんとも言えないけど、世の中にはファンタジーにも引けを取らない特殊な力を持った人が何人もいる。そしてそれが願ってもないのに授かった力かもしれない。俺はその特殊な力のせいで何もかも諦めてしまう人生にさせたくないんだ。」



海先輩の本心が透き通るように聞こえてくる

この人は本当に親切で、優しくて、自分がやりたいことをやっているというのが言葉だけで想像できる。



「ありがとうございます。」

深々とお辞儀をして感謝を述べる


「そんな堅苦しい感謝はよしてくれ。俺個人が好きでやってることだし、協力してもらってる側なんだからさ。」


普段からあまり笑わない海先輩も、今日の顔は何だか清々しい顔をしていた。



「なんか本当に申し訳ないですね……僕の体質なのに海先輩頼りになってしまってて———。」


「まぁそうやって思う時もあるさ。でもそこまで思い詰めることもない。自分で対処できないなら他の人を頼るのもそう素直にできる人は少ない。自分の行動にもう少し自信を持ちな。」



海先輩の言葉一つ一つにしっかりとした意味があっておもわず涙が溢れるところだった。



その姿をしばらく何も話さずじっと見守っていた黄泉菜だったが、流石に話も終わっただろうとたまらず二人に話しかける。


「……ここまで何も言わなくて見てきたんですけど、海先輩っていったい何者なんですか?」



海先輩は驚きを隠せない表情をしている黄泉菜にフッと笑い、

「俺はただの心理部の部員で特殊体質に興味がある一般人だよ。」


思った回答が得られなくて困惑している黄泉菜に向かって空のコーヒー缶をクイッと突き出して黄泉菜を指す。


「俺からも聞きたいんだが、黄泉菜……でいいんだっけ、人の心が読めるんだって?」



黄泉菜はその話が出てきた事に驚き、俺の方に疑いの目を向ける。

読心能力を話したのが俺だけだったこともあり、勝手に言いふらしたものだと勘違いされてものすごく疑われている


疑われている事に気づいた俺は、

「ぼ、僕はなにも話してないですよ!?海先輩が元々知っていたみたいで……」


俺が何も言ってないことを確認し、今度は海先輩に目を向けて圧をかけるような口調で話しかける

普段から大人しく、お淑やかな黄泉菜がここまで怒ることはほとんど無く、初めて見た。


「その情報、どこで知ったんですか?」


「そんなに威圧をかけないでくれ。俺の推測で読心能力があるんじゃないかって考えていただけなんだ。」


なんとか黄泉菜の怒りを抑えようとするが、今までずっと秘密にしてきた読心能力がバレるのは黄泉菜にとって衝撃的で、冷静に対応ができるほど落ち着いていられなかった。


「そもそも……何で読心能力だったり特殊体質のことを知っているんですか?いくら研究しているとしても医者じゃあるまいし、そんなに特殊体質を持った人なんて多くないと思うんですけど。」


海先輩は渋い顔をして唸った後に、言葉を絞り出すように

「俺と仲が良かった奴が読心能力の特殊体質だったんだよ。……詳しく話すと長くなるからあまり言いたく無いんだが、まぁその関係で特殊体質のことは知っているし、それこそ医者にどうこう言って治るもんでもないこともわかってる。だからいろんな特殊体質の人に話を聞いて研究をしている……これでいいか?」


正直ここまで海先輩の話を聞いたことがなく、俺自身も初耳の情報だった。

まさかそんなに特殊体質の人がいるとは……



「俺も自分の趣味というか勝手に研究しているだけだから情報提供を無理にしてくれとは言わない。各々の特殊体質のことだ。言いたく無いこともあって当然だろう。」


黄泉菜から威圧がだんだんと消え、落ち着いた様子を取り戻す。


「もし黄泉菜も特殊体質のことについて俺に教えてくれるなら俺からも出来る限り協力をして特殊体質の制御方法を一緒に見つけ出そう。」



「……条件をつけさせてください。話がどれだけ長くなっても構わないので後日、海先輩のお友達……読心能力を持っている人の話を聞かせてください。」


海先輩はさらに険しい顔をして長考するが、長い沈黙の後「あまり話したく無いが……仕方ない。」と渋々条件を承諾した。


「ありがとうございます。それでは私の読心能力についてお話しします。」


さっきまで渋い顔をしていた海先輩も特殊体質の話となれば急に真剣な顔になり、スマホでメモ機能を使って話を聞く準備をした。



「私の読心能力はもともとあったものではなくて、成長していく過程で身についたものです。初めは小学生の頃で、順番に能力が強くなっている気がします。」


「順番に能力が強くなっている……かぁ」


海先輩はその表現に少し違和感を感じながらメモを取り、黄泉菜に質問をする


「その能力、最近も強くなっているのか?」


その言葉に黄泉菜は少し考え、「はい。おそらくですが……」と答えた。


「制御はできるか?」


「それは……多分できないと思います。半無意識的に思考を読み取っている感じなので明確な制御ができるかと言われたら……」


「多分ってことは普段から制御してないのか?」


「はい。今も海先輩の心の声が頭の中に直接流れ込んできています。」


そういえばあまりにも俺が心を読まれないからなんとも思っていなかったのだが俺以外の人の心が読めるなら当然海先輩の心も読めるのか……

……どんな感じなんだろう、質問しようとしている内容が言葉よりも先に聞こえてくるのだろうか。


「俺の心を読んだってそう面白くないだろ。それこそ質問の内容が少しだけ早めにわかるくらいじゃないか?」


「そうですね。私情の考えが全く読み取れません……ここまできっぱりと人の心が一途なのは初めてみたかもしれません。」



海先輩は「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。」と言った後にスマホを閉じて黄泉菜の方を見る



その瞬間——

黄泉菜が急に驚いた様子を示し、冷や汗を垂らす


「……聞こえたみたいだな。」


勝手に意思疎通している中何一つ状況が分からない俺は、

「な、何が起こってるんですか?僕を仲間外れにしないでくださいよ。」


黄泉菜は俺の話を聞いていないのか聞こえていないのか分からないが特に反応はなく、海先輩は

「壮太にも一応伝えとく必要がありそうだから言葉にして話すぞ。」


その提案に黄泉菜はコクリと小さく頷いた。


「今の黄泉菜は特殊能力がだいぶ暴走しかけている。能力の暴走状態を五段階で表すと3.5だ。ちなみに5……つまりマックスまで行くと命を落とす危険がある。」


それを聞いて俺も血の気が引く

特殊能力って……そんなにヤバいものなのか……!?


「黄泉菜、今すぐお前の能力を矯正するぞ。さもなくばお前の生命が問われる。」



「どうして!?特殊能力ってそんな…命を落とす危険性があるんですか!?」


「確実に死ぬとは限らないが、読心系の能力はある程度制御ができないと脳みそに負荷がかかりすぎで血管が切れたり意識障害が出たりする。」


黄泉菜の顔はもう真っ青で、まさか自分の命が危険に晒されていることなんて言われるまで全く知らなかったみたいだ。


「何か方法はないんですか!」


「一応あるさ。あるから『矯正しよう』って提案してるじゃないか。」


「じゃあ何をすれば!」


鬼のようなレスポンスが素早く展開される


「一番いい方法は『自分で少しづつ能力を抑えること』なんだが、それをするとどうしても脳みそが疲れてしまう。」


「私、まだ制御方法なんてわからないしどうやって自分の能力を抑えれるかとかも……」



海先輩は自分のスマホをじっとみて、

「……そうだな。『似たような能力を持っている人や、全く心が読めない人を近くにおく』これが一番いい。彼女自身も無理に制御する必要もなく、能力の矯正も可能だ。」



俺はその言葉にピンとくる節があったが、話を割って入るのに躊躇してしまいそのまま様子見をする。



「お前、家族はどうなんだ?家族も能力を持っていたり、家族間なら読心能力が発動しないとか……」



「家族は私以外誰も特殊体質ではありません。能力も……みんなより少しだけ制御は効くんですけど、それでも発動する時があったりします。」



海先輩は「家族でさえもダメか……」と思い悩む


「……今までであった人で心が読めないやつはいないのか?」



黄泉菜は思わず俺の方を向いて、

「私、壮太くんの心は読めないんです。」


思わぬカミングアウトに海先輩は俺の方を向いて

「……その話マジか?」


「はい……その、いつ言おうかタイミングを見失ってしまって……」


呑気な返事を返す俺に海先輩は「もっと早く言ってくれよ……」と疲れ切った声で呟いたのちに、

「こんなに近くに読心能力が効かない奴がいるのなら話が早い。」


海先輩は俺ら二人を指差してこう言った。



「……お前ら、一回付き合ってみたらどうだ?」


「「……え?」」


「だから、黄泉菜を助けたいなら、壮太と黄泉菜、お前ら付き合えって言ってるんだ。」









「「………はい!!??」」

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